「あるところの組織を切り出して移植するとそこに体ができる、私はそれが好きでした。すごくレトロなんですけどね」生物の教科書にも登場するシュペーマンの移植実験。100年前の古典的手法だ。しかしこの方法が、田中幹子助教授の頭に浮かんだアイディアを実際に検証する助けとなった。
知りたいことがあれば手法は何でもいい。なんとか狙った部分に遺伝子を強制的に発現させたい。
目的は、自分の立てた仮説を証明するために、通常はない体の一部をつくることであった。現在では、遺伝子の発現には電気で局所的にDNAを入れるエレクトロポーションという手法が利用できるが、学生時代だった1997年当時は、ウイルスを使うしかなかった。
「養鶏場の1個50円の卵だと絶対ウイルスが拡がらないので、指導教官を拝み倒して、1個1,000円もするSPF(specific
pathogenfree:特定病原体不在)という特殊な卵を使わせてもらいました。しかし無菌状態で育てられ、ウイルスに感染しやすいため、逆に拡がりすぎて全体に遺伝子が発現してしまって」やっかいな問題に突き当たってしまったのだ。 |
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そこで田中先生が考えたのは、SPF卵と普通の有精卵を組み合わせる方法だった。まず、SPF卵にウイルスを使ってDNAを入れ、全体に遺伝子を過剰発現させておき、この卵からウイルスに感染しない普通の有精卵に組織を移植する。すると、有精卵はウイルスに対する耐性を持っているので、移植された所にだけ発現することになる。高価な卵と養鶏場の卵を併用したオリジナルの技法であった。
「私の研究は、一つ実験して、疑問が出てきて、また実験して、それの繰り返し。うまくいかないことはたくさんありすぎて…、でも立ち直りが早いから。前に進むには悩んでいられないのです」
研究成果の裏にある無数の失敗や挫折は、実験そのものの面白さで吹き飛ばしているようだ。
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