研究

異分野を融合し、地球と生命の起源に迫る ― ショウン・マックグリン

異分野を融合し、地球と生命の起源に迫る ― ショウン・マックグリン

vol.26

地球生命研究所 准教授ショウン・マックグリン(Shawn McGlynn)

東京工業大学の地球生命研究所(以下、ELSI)が、文部科学省による世界トップレベル研究拠点プログラム(以下、WPI)の一拠点として設立されてから、5年が経過した。同研究所は生物学、化学、地質学、天文学、宇宙科学の分野にわたる研究者を魅了しながら発展し続けている。彼らが共有する目標は、地球と生命の起源を解明することだ。ショウン・マックグリン(Shawn McGlynn)は、微生物生化学を専門とし、ELSIに2016年に参画した。ショウンに自身の研究、研究に関わる日本の温泉への情熱、そしてELSIの活動について話を聞いた。

分野を融合した探求

ショウン・マックグリン准教授

主な研究分野を教えてください。

生命の起源と進化です。ELSIでは研究の幅を大きく広げることができます。今、進めている研究はいわゆる化学に関するものですが、それでも純粋な化学から最新の微生物学や大局的な生物学までを網羅しています。ELSIでの私の役割は、生命がどのように誕生し、機能しているかを理解するために、化学と生物学を融合することです。

地球上の微生物の大部分はまだ直接観察されていないため、微生物学的な観点から言うと、現在は非常に刺激的な時代です。全部でどのくらいの種類の微生物が存在しているのか、もっと言えばまだ解明されていないことがどのくらいあるのかさえ、把握されていないのです。そのため、生命がどのように機能していて、生命が地球化学サイクルにどのように影響しているかを、また過去にどのような生命が存在していたかを理解するために、実験室での研究と実地調査が非常に重要になっています。

現在、取り組んでいるプロジェクトについて説明してください。また、どのような共同研究を重視していますか?

今年の8月末に、私はアイスランドで熱水噴出孔1の実地調査を行いました。ELSI、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、米国の大学からの研究者といった多様なメンバーを率いていくことにより、1回の調査で、地球化学、微生物学、多様性に関連するさまざまな疑問への答えを導くことができるのです。現地の熱水噴出孔は、アルカリ性の温泉で、海面からわずか20メートルほどの深さにあり、潜っていくことも可能です。微生物を回収して生態を調査し、現在の地球上の生物多様性について新たな発見をもたらしたり、過去に地球上にはどのような生命が存在し得たかを考察することができると考えています。

アイスランドのストリィタン熱水噴出孔
アイスランドのストリィタン熱水噴出孔

アイスランドのストリィタン熱水噴出孔。生命が誕生した通気孔に似ている可能性がある
Photos by Donato Giovannelli / @d_giovannelli
Twitter: #StrytanExpedition

ELSIでは中村龍平教授と共同研究をしており、互いに、エネルギーの流れがどのように物質を構造化、組織化するのか解明しようとしています。つまり、どうやって物質がエネルギーの流れによって組織化されるのか、ということです。これは、私の全研究における最大の疑問なのです。この疑問に、中村氏は電子移動と触媒作用の見地からアプローチし、私は化学と生物学を融合させて取り組んでいます。一緒に研究することで、私の生化学的な理解に、中村氏の電気化学、物質科学、触媒作用に関する正確な見方を付加してもらうことができます。もちろん、その逆もしかりです。

ショウン・マックグリン准教授

酸素がない状態で代謝過程にいて鉄や他のバクテリアに電子を放出する鉄還元微生物。鉄還元微生物の鉄を電子受容体とする呼吸形式は古くから存在し、酸素がまだ地球大気の主な構成成分となる前から行われていたと考えられる

地球上に現時点で存在している生命を研究することによって、生命の起源をどのくらい知ることができるのでしょうか?

地球上に現時点で存在している微生物の生物多様性はまだわかっていません。それと同様に、生命が誕生した当初の形態もまだわかっていません。たとえ地球上のあらゆる種類の生命が発見され、それらの機能が完全に把握されたとしても、生命がいかに誕生したのかを正確に説明できるとは言い切れません。

生命は、私たちが知る限り、地球に約40億年という非常に長い期間、存在してきました。40億年のどの時点で、現在の系統樹2の共通祖先が発生したかはわかっていません。系統発生学的アプローチを用いても、全生物の最終共通祖先を調べても、今のような生命体が40億年前に始まったとは言い切れないのです。ずっと後になって始まったのかもしれません。また、現在の生物の前に、いくつかの、あるいは多くの違う種類の生命が存在していたかもしれません。こういった点が、この研究を非常に興味深くやりがいのあるものにしているのです。

研究の目標を教えてください。

最初の目標は、各細胞間の電子移動の性質を理解することです。数年前、古細菌間の電子交換の新しいメカニズムと思われるものを発見しました。これは説得力のある仮説ですが、最終的にまだ正しいと証明できたわけではありません。

さらに、生命の起源に関連する、チオエステル3として知られる化合物の一種を研究するための、大規模なプロジェクトを立ち上げています。これは米国国立科学財団(NSF)の支援のもと、いくつかの米国のグループと共同で、地球上の太古のチオエステルを地球化学の観点で調査するプロジェクトです。私たちは可能な限り古い岩石やジルコン4形態の最も古い鉱物を集めて、この化合物の存在を示すものを探します。さらに室内実験も行い、その化学的性質を詳細に研究します。東工大のグループは、タンパク質触媒作用、進化、金属硫化物触媒作用の実験も併せて行います。この分野を研究することで、最初期の生体高分子と、そのエネルギー的な能力について知ることができるかもしれません。他のチームの研究者の専門知識を取り入れられる実に素晴らしい研究環境です。

もう1つは、日本の温泉に存在する微生物の多様性の調査です。例えば長野や伊豆の新島などで調査を行います。私は温泉に行くのが好きなので、来日してすぐに、日本の温泉水の化学的多様性に気付きました。この多様性のおかげで、化学と生物多様性の関連を比較的容易に観察できるので、微生物学の観点からは非常に有益です。私たちはある温泉群に注目しています。そこは鉄分と炭酸塩を豊富に含んでいるため、古代の海に似ている可能性があるのです。どのような生命体がそこに生息しているかを知ることは興味深いことでもありますし、過去の生態系を考察するうえでも役立ちます。

鉄分を豊富に含んでいる温泉

鉄分を豊富に含んでいる温泉。古代の地球と似た環境を持つ場所である可能性がある(式根島・地鉈温泉)

シアノバクテリア

この場所にいるシアノバクテリア

シアノバクテリアによって酸化した鉄

シアノバクテリアが光合成してO2を出し、鉄を酸化して赤化する

スケールバー:10ミクロン

他に類を見ない研究所

ELSIに来られたのはいつですか?

2016年の4月です。カリフォルニア工科大学の教授であり、ELSIでは地球生命論の教授でもあるジョセフ・カーシュヴィンク(Joseph L. Kirschvink)氏から、この研究所のことを聞いていました。ジョセフ教授は、ELSIのPI(主任研究者)である上野雄一郎准教授に会うように手配をしてくれました。上野准教授とは酵素と同位体の関連についてのプロジェクトを共同で行っています。上野准教授と最初に会った時から、ELSIでは異なる専門分野の研究者と協業することにより共通の目標を達成できることを確信しました。ELSIの研究環境はとても素晴らしいと思います。

ELSIのユニークな点とは何でしょうか?

研究所内の学問領域の幅が挙げられます。私の知る限り、単一の研究所としては、これほど多様性のあるところはありません。ELSIはヨーロッパや米国と強いつながりを持っており、そこから大勢の教授陣を迎えています。膨大な専門知識を集結させることで、ELSIでは3つの難題に取り組んでいます。「地球や惑星はどのように始まったのか」、「生命はどのように始まったのか」、そしてEON(ELSI Origins Network)プロジェクト5の支援を受けて研究している「意識はどのように始まったのか」という疑問です。何年も前に、私はメンターから「部屋の中で一番賢いのは自分ではないことを常に意識すべきだ」というアドバイスを得ました。これはELSIにぴったりです。自分が、部屋の中で一番賢い人間ではないということは明らかですから。日々、周囲の人たちから何かを学べるということです。その結果、より実り多く、新たな試みを行うことに役立っています。

この研究所の特徴の1つとして、LoungeとAGORAと呼ばれる2つの大きなオープンスペースがあることも挙げられます。このオープンスペースは、気軽にいろいろな人と交流するための機会を与えてくれます。コーヒーを飲もうと立ち寄った際にも、論文やアイデアを交換することがしばしばあります。このように人と一緒に過ごす時間はたいへん意義深いものです。常に知識を共有していることで、自分がELSIという知的な場所にふさわしい一員だと実感できます。

コミュニケーションスペース「ELSI AGORA」

コミュニケーションスペース「ELSI AGORA」

研究室に設けられている“小上がり”

ELSI研究者の研究室に設けられている和風の“小上がり”。ここでアイディアがひらめくこともあるという

ELSIの活動に参加するには、どうすればいいですか?

ELSIのシンポジウムは毎年開催されており、誰でも応募して参加できます。次のシンポジウムであるBuilding Bridges from Earth to Lifeouterは、2018年の1月9日から11日まで開催されます。ELSIでは参加する学生を支援する予算を設けています。また参加者はELSIに滞在する機会も持てます。

ショウン・マックグリン准教授

今年は、EON-ELSIウインタースクールouterも立ち上げます。これは学生が2週間、伊豆半島で日本の地質を学ぶというものです。伊豆半島は、温泉や地質学的に興味深い場所があることで有名です。実行委員長として、このウインタースクールに参加する学生のための補助金があることもお伝えしておきます。NASAは、宇宙生物学のサマースクールやウインタースクールを長年続けて主催しているのですが、そのうちの1つを北欧のNordic Network of Astrobiologyという団体が提供しており、ELSIはアジアのその立場を目指しています。スクールは完全にインターナショナルであり、日本人の学生も、世界のあらゆる国から来る学生も大歓迎です。

最後に、ELSIについてもっと知りたい学生へのアドバイスをお願いします。

学生の皆さんは、とにかく立ち寄ってみてください。ELSIの施設内に大きなテレビスクリーンがあり、開催中のイベントが表示されています。ELSIで行われているあらゆる興味深い講演について簡単に知ることができます。何か新しいことを学び、積極的に人々と出会うようにしてほしいですね。実は私は今、ある大学院生を指導しているのですが、その学生も最初はELSIに立ち寄って、そのスクリーンを見て、硫黄化学と熱水噴出孔についてのディスカッションに参加したいと頼んできたのです。ELSIのウェブサイトには、ELSIのすべての講演、セミナー、ワークショップの情報が得られるイベントカレンダーouterもあります。どなたでも大歓迎です。面白そうだと思ったら来てみてください。私たちも楽しみにしています!

1 熱水噴出孔

海底から地熱で熱せられた熱水が噴出する孔

2 系統樹

すべての生命体間の進化上の関係を描くための図形

3 チオエステル

炭素-硫黄結合を含有する有機化合物で、水中で不安定になる。太古の生命体のATP合成(エネルギー合成)の前駆物質の可能性があるとして、生命起源研究者の関心を集めている

4 ジルコン

ケイ酸ジルコニウムから成る。地球最古の鉱物として知られている

5 EON(ELSI Origins Network)プロジェクト

ELSIが米国テンプルトン財団から約6億7千万円の寄附を受け、生命起源に関する世界中の研究者同士をつなぐネットワークの強化と拡大を目的とするプロジェクト

ショウン・マックグリン准教授

ショウン・マックグリン(Shawn McGlynn)

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI) 准教授

  • 2005年モンタナ州立大学 化学科卒業
  • 2010年モンタナ州立大学 生化学科 博士課程 修了
  • 2010年カリフォルニア工科大学 地質学・惑星科学科 地球生命論 研究員
  • 2015年首都大学東京 生命科学コース 准教授
  • 2016年東京工業大学 地球生命研究所 准教授

SPECIAL TOPICS

スペシャルトピックスでは本学の教育研究の取組や人物、ニュース、イベントなど旬な話題を定期的な読み物としてピックアップしています。SPECIAL TOPICS GALLERY から過去のすべての記事をご覧いただけます。

2017年9月掲載