研究

「TSUBAME」、2.0から2.5へアップグレード ~さらなる高みを目指して~

東工大のシンボルマークでもある「ツバメ」。その名を冠した大規模スーパーコンピュータ「TSUBAME」は、2006年に国内最速のスパコンとして稼動開始から世界トップクラスに仲間入りし、さらに2010年には新たにTSUBAME2.0の開発・運用が開始され、我が国初のペタフロップス(1秒間に1,000兆回の実数計算を実行できる処理能力)を達成した。一方で、TSUBAME2.0は2010年にはスパコン省電力世界ランキング「Green500」でも2位にランクインを果たすなど、電力性能においても世界をリードした。このTSUBAMEが、2013年秋、2.0から2.5にアップグレードされた。具体的にどんなところが変わったのか。そして、「京」や他のスパコンとはどこが違うのだろうか?

スパコンの演算性能を格段に向上させるGPUをさらに拡張

2010年11月に運用を開始したTSUBAME2.0は、理論性能が2.4ペタフロップスと、日本初のペタフロップス・スパコンを実現。スーパーコンピュータの処理速度を評価基準とする性能ランキング「TOP500」では当時世界4位にランクされるなど、TSUBAMEの名を世界に知らしめた。その飛躍的な性能アップの背景には、東工大学術国際情報センター(GSIC)が2008年に世界で初めてスパコンに導入し、今回のアップグレードでも重要な役割を担っているGPUの存在がある。

スパコンの構造は、基本的にパソコンと同様、CPUと呼ばれるチップ(電子部品)内のCPUコア(演算処理回路)が、メモリ・チップにあるデータを処理・更新する計算を繰り返すことで、数値や画像としてシミュレーションの結果が得られる仕組みとなっている。近年のスパコン開発では、このCPUを大量に並列使用することで計算能力を大幅に向上させており、TSUBAMEにも約17,000個のCPUコアが使われている。が、各CPUはワープロなどの高速化には役立つものの、スパコンではあまり使われない機能が多数ついており、それを大量に並べれば、自ずと体育館、あるいは京の場合は3,000m2以上と小型のアリーナ並のスペースが必要となってしまう。そのうえ、消費電力も10メガワット以上、つまり通常家庭の約一万件以上に相当と、尋常ではなくなる。さてどうするか?......ということで白羽の矢が立ったのが、「メニーコアプロセッサ」(1つのパッケージ内に多数の演算コアを搭載したプロセッサ)としてのGPUの採用であった。

GPUは、もともとは3Dグラフィックスの表示に必要な計算処理に使われる半導体チップで、画像データを高速処理できる上、数百~数千の効率の良い小規模なコアが「メニーコアプロセッサ」としてコンパクトにまとまっている。このGPUを汎用のスパコンの中心的なプロセッサに適用すると、省電力やスペース効率に関し大変優れたものができる点に着目し、先代のTSUBAMEにGPUを導入、さらに前述の2.0において本格的に導入されたというわけである。

演算速度と省エネ、双方でパフォーマンスを発揮

2013年6月時点で、世界で最も演算速度が速いといわれるスパコンは中国で開発された「天河2号」で、Top500における倍精度の演算速度(64ビット長)での理論ピーク性能は約54ペタフロップスに達している。日本では理化学研究所の「京」が単精度(32ビット長)、倍精度ともに理論ピーク性能は11.28ペタフロップス。一方、TSUBAME 2.5は単精度を倍精度に対し3倍の速度で計算できるため、単精度での理論最高性能値としては約17.1ペタフロップスとなり、「京」を上回る。

GSIC 松岡聡教授

「TOP500も重要な指標ですが、実用性を考慮すれば、演算速度だけではなく、単精度を中心に倍精度を必要な所だけに活用する混合精度で計算するアルゴリズムを開発する事が今後大切です。TSUBAMEでは、この視点で能力を存分に発揮できるように、単精度演算性能も重視しています。」(GSIC 松岡聡教授)

演算能力だけではない。TSUBAMEの設計では「省電力」にも力を注いでいる。先に挙げたGPUの本格活用に加え、最先端技術である密閉型水冷システムの採用や、電力制御技術の研究開発により大幅な電力効率の向上を達成。TSUBAME2.0はTSUBAME1.0と比較して演算性能は30倍もアップしたのに対し、実際の電力消費はほぼ同じであり、また消費電力あたりの演算性能は通常のパソコンの約3倍を誇った。加えて、設置面積はTSUBAME1.0の3分の2に縮小、なんと教室2個分の省スペースを実現している。さらにTSUBAME2.5は2.0から約3倍の性能向上にもかかわらず、電力は2割近くも削減している。

「省電力を実現するために最も重要なポイントは、メニーコアプロセッサを使いこなすことなのです。それによって、TSUBAME2.0の場合、CPUと比較して消費電力あたりの性能が約5倍に向上し、TSUBAME2.5では更にその3倍以上の向上を達成しました。」(松岡)

医療、地震予知から社会現象分析まで広汎な用途に活用

開設当初より「みんなのスパコン」として親しまれているTSUBAMEは、学術的研究をメインとしながらも、産業利用にも広く門戸を開いている。TSUBAME2.5でさらにグレードアップしたGPUの特徴は、なんといっても膨大な計算能力により、各種のシミュレーションによる詳細な解析が行えることだ。

左:水平格子5km、右:水平格子500mで計算した雲分布

水平解像度500m格子で計算した雲分布。青木研究室Webサイトから動画が閲覧可能

例えば、我々の生活に欠かせないものとして、天気予報がある。衛星技術が発達したとはいえ、気象衛星から送られてくる映像だけでは、大気の状態の変動を予測することはできない。スパコンでは、空間を格子状に区切って雲の量を計算し、天気を予測する。この格子が細かければ細かいほど、精度よく計算できるわけだが、従来はこの格子が5kmもあった。そこで、GSIC副センター長であり、スパコンの国際会議SC11でゴードンベル賞・特別賞を受賞した青木尊之教授の研究室では、気象庁と共同研究を実施。次期気象予報に対して500mの格子を採用し、より詳細に雲の動きを把握する計算に成功した。これにより、衛星写真と変わりないほど繊細な予測シミュレーションが可能になった。

天気予報と並び、日々の生活に少なからず影響を与える自然現象として、地震がある。TSUBAMEは、南海トラフを中心とした地震波シミュレーションにも利用されている。具体的には、コンピュータの中に「地球」を作り、その中を伝わる地震の波を計算することで、どの地域の揺れが激しいか精密にシミュレートするというものだ。研究の成果は、我が国の防災ハザードマップの作成にも大いに役立てられている。

健康・医療分野では、医薬品の開発や、臓器の血流シミュレーションなどにも大いに運用されている。創薬領域では、アステラス製薬との共同研究において熱帯病(デング熱など)の医薬品の開発に利用。臓器シミュレーションでは、イタリアのチームが冠状動脈の血管形状をCTスキャンで撮影して患者別の血流シミュレーションを行い、心臓の拍動に基づきどこに血栓ができうるか解析を行っている。また、遺伝子領域では、大阪大学のチームがタンパク質の構造予測にTSUBAMEの分析能力を活用している。

GSIC副センター長 青木尊之教授

この他にも、株価や交通渋滞の予測、意外なところではTOTO(株)による“少ない水で汚れを落とすトイレ”の開発など、我々の身近な事象の解析を支えるスパコンとして、様々な分野・業界でその性能が活用されている。

「よく外部の方から「東工大はチャレンジャーだね」と声をかけられます。そういう意味では、保守的な路線をとるよりは、アグレッシブ路線のほうが東工大らしいと言えるかもしれません。」(青木)

“富士山のような”存在感のあるスパコン

今後のTSUBAMEの展望としては、まず2015年度後半に3.0への進化を遂げることを次のステップとしている。そして、将来的にはエクサフロップスクラス(1秒間に100京回の実数計算を実行できる処理能力)のスパコンの実現を視野に入れている。電力性能については、さらなる冷却システムの省電力化を目指すとともに、排熱利用も検討している。さらには、超大規模システムのCPUにおける障害対応や、新たなベンチマーキング手法の確立など、エクサフロップススパコンについての様々な研究課題に関し、海外のトップ研究機関やスパコン関係の企業と共同研究を行っている。

「TSUBAMEは裾野を広げどっしりと構える富士山のような存在。トップクラスの性能をさまざまな人たちに活用してもらい、更なる開発を重ねることで、内外を問わず未来に展望が開ければと願っています」(松岡)

TSUBAMEシリーズが省エネ性能で世界一に

米国時間2013年11月20日、デンバーで開かれたスパコンの国際学会“SC13—Supercomputing 2013”にて、スパコン電力性能(消費電力1W当たりの計算能力)の世界ランキング“The Green 500”が発表された。このランキングでTSUBAME 2.5は世界6位を獲得。そして、2013年10月に稼働を開始した試作機TSUBAME-KFCが世界1位に輝いた。

TSUBAME-KFCはTSUBAME 3.0及びそれ以降の後継機のテストベッドとして設計、開発された。特徴は冷却システムにある。従来、TSUBAMEは水冷式の冷却システムを採用していたが、TSUBAME-KFCでは油性冷却溶媒液に計算機システムを浸している。いわゆる油冷式だ。この技術によって、冷却に要する電力を非常に小さく抑えられるという。

2013年11月掲載