|
<フロンティア創造共同研究センター
教授
細野秀雄>
フロンティア研究センター&応用セラミックス研究所の金聖雄研究員と細野秀雄教授(JST戦略的創造研究継続研究 代表)らは‚名古屋大学工学研究科の太田裕道助教授ら(CREST 研究代表者 河本邦仁名古屋大学教授)および‚東京大学の幾原雄一教授らとの共同研究によって‚人工宝石として知られるありふれた酸化物チタン酸ストロンチウム(注1)を使って高い効率を示す熱電変換材料の開発に世界で初めて成功しました.本成果は‚英国科学誌「ネイチャー・マテリアルズ」(電子版)に‚2007年1月21日(英国時間)に公開されました.
熱電変換材料は‚温度差を与えると発電し(ゼーベック効果)‚逆に電気を流すと冷える(ペルチェ効果)‚という性質を示すことから‚腕時計の発電素子や携帯型冷蔵庫の冷却素子などとして利用されています.現在利用されている材料は‚重金属であるビスマス‚アンチモン‚鉛などであり‚地球上における埋蔵量が少なく‚猛毒で‚かつ‚耐熱性が低いことから本格的な実用化が妨げられています.近年では‚身近な材料で‚毒性がなく‚かつ‚耐熱性が高い酸化物が注目されてきていますが‚重金属に比べ熱電変換効率が著しく低い(十分の一以下)という問題がありました. 本研究の特徴は‚チタン酸ストロンチウムという酸化物の中に‚トランジスタなどで用いられている接合界面に溜められた高濃度の電子層を挟み込むことによって巨大な熱起電力(注2)(温度差を与えたときに得られる電圧)を発生させたことです.チタン酸ストロンチウムは‚本来‚電気を通さない絶縁体ですが‚少量のニオブ添加をすることや‚内蔵されている酸素を引き抜くことで電子が生成されることが知られています. 本研究では‚精密で超薄の製膜技術により‚電子を生成させた厚さ0.4ナノ(十億分の一)bのチタン酸ストロンチウム超極薄シートを絶縁体のチタン酸ストロンチウムで上下に挟んだサンドイッチ構造にすることで電子を溜め込むことに成功しました.その結果‚熱起電力が電子を生成させた通常のチタン酸ストロンチウムの約5倍に上昇し‚従来の重金属に対しては約2倍の変換効率を達成し本格的な実用化に大きく前進したことを意味します.発電素子‚冷却素子‚熱センサーなどへの幅広い応用が期待できるほか‚太陽光発電のようなクリーンエネルギー技術に繋がる可能性があります.
【用語解説】 注1)チタン酸ストロンチウム: 人工宝石としても知られるペロブスカイト型(単位格子0.4ナノb)の酸化物結晶です.元々は電気を通さない絶縁体ですが‚不純物として少量のニオブを添加したり‚酸素を引き抜くことで電子が生成し‚電気を通すようになることが知られています.構成元素の地表付近に存在する割合(クラーク数)は酸素(49.5%)‚チタン(0.46%)‚ストロンチウム(0.02%)であり‚最も少ないストロンチウムにおいてもビスマス(0.00002%)の1000倍です.また‚融点は2080℃であり‚フッ酸以外の酸やアルカリには溶けないため‚非常に安定です.
注2)熱起電力: 金属や半導体の棒の両端に温度差を与えることによって発生する電圧のことです.温度差1度あたりの熱起電力はゼーベック係数と呼ばれ‚熱電変換材料の性能を示す因子の一つであり‚電池における電圧に相当します.
注3)二次元電子ガス: 異種半導体の接合界面に溜められた高濃度の電子層のことです.狭い二次元の空間に強制的に閉じ込められた電子は‚三次元の状態と比較して運動の自由度が制限されるため‚量子サイズ効果と呼ばれる様々な特異現象を引き起こします.今回の巨大熱起電力もこうした量子サイズ効果の一つだと考えています.
|