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最近の研究成果
 

混ぜるだけで、分子を正確に積み重ね
- 極性芳香族分子の三重集積化をナノ空間内で達成 -
(/09/03/10)

<資源化学研究所 准教授 吉沢 道人>

 東京工業大学資源化学研究所の吉沢道人准教授らは、溶液中でバラバラに存在する芳香族分子をナノメートルサイズ(用語1)の空間内で、「数」と「向き」をそろえて正確に積み重ねることに世界で初めて成功した(図1)。すなわち、自己組織化により組み上がった箱型化合物(図2)のナノ空間を活用することで、3つの極性芳香族分子(図3;用語2)の選択的な集積化を達成し、しかもそれらが集積体の双極子モーメント(用語3)をキャンセルして、120度ずつずれて配向することを明らかにした(図4)。さらに、この三重集積体では、個々の分子では見られない特異な分光学的性質が観測された。この分子集積法では、必要成分を加熱・撹拌するだけと簡便かつ汎用性が高いため、未開拓な分子間相互作用の誘起や新規な機能性材料開発に威力を発揮することが期待される。
 この研究成果は、東京大学の藤田誠教授のグループおよび科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(「構造制御と機能」領域 岡本佳男研究統括)との共同研究によるもので、2009年3月9日付(米国時間)の米国科学アカデミー紀要(PNAS‚ Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,http://www.pnas.org/)のオンライン版で公開される。


●研究の背景と意義
 次世代の機能性材料開発においては、新しい性質を備えた分子の合成技術とともに、それらをナノメートルレベルで簡便かつ正確に「配置する」技術が重要な鍵を握る。前者は、従来の合成化学的な手法を駆使することで、これまでに大きな発展を遂げてきた。それに対して後者は、一つ一つの分子を思いのままにつかんで置くことの出来ない我々にとって、現在もなお困難な課題である。これまでに分子の自己組織化により、ナノサイズの分子組織体を合成できるようになってきた。しかし、そのほとんどは、分子の「数」や「向き」を厳密に制御することは出来ていない。光学的、電気的または磁気的に特異な性質を発現する分子集積材料を戦略的に創出するには、分子をねらい通りに積み重ねる技術が必要不可欠である。本研究では、我々のグループが独自に開発した自己組織化の手法により、数や配向を制御したナノサイズの分子集積体を構築することに成功した。

●今回の研究内容
 本研究で着目した極性芳香族分子 ピレン-4‚5-ジオン(図3)は、結晶状態で互いの双極子モーメントをキャンセルして180度ずつずれて無限に集積する。しかし、溶液状態ではバラバラに存在し、特定の集積体を形成しない。今回、自己組織化により組み上がる箱型化合物(図2)のナノ空間を活用することで、溶液状態であっても3つの極性芳香族分子を簡便にかつ選択的に集積することに成功した(図1)。その合成方法は、箱型化合物の構成成分である2種類の有機分子と金属イオン、そして集積する極性分子を水中で混合して、数時間加熱(3時間‚60度C )撹拌するだけである。その結果、ほぼ100%の収率で目的の集積体が得られた。その構造は、核磁気共鳴スペクトルやX線結晶構造解析によって決定した。詳細な結晶構造解析から、箱型化合物内で垂直方向に集積した3つの極性分子は、互いに120度ずつずれて配向していることが明らかになった(図4)。すなわち、この三重集積体は、全体で双極子モーメントをキャンセル(=ゼロ)した配向を取っていた。これまで、2分子の極性芳香族分子が集積した場合、180度ずつずれて配向することで、集積体の双極子モーメントをゼロにすることは知られていた。それに対して、3分子の集積体の場合、1分子の双極子モーメントを残した配向を取るのか、3分子で双極子モーメントをゼロにした配向を取るのかという問題は、未解決のまま残されていた。今回、我々のグループが独自に開発した箱型化合物を活用することで、その分子配向について初めて知見を得ることに成功した。分子の世界でも、限られた社会(=空間)の中では、お互いを認識して全体の協調性を保とうとしていることを示しており、社会学的な観点からも興味が持たれる。さらに、合成した三重集積体では、個々の極性分子では見られない特異な分子間相互作用が紫外可視スペクトルで観測された。

●今後の研究展開
 ある種の芳香族分子は集積することで、分子間での軌道の重なりにより、分子単独では観測されない興味深い性質を示すことが期待されている。しかし、集積する分子の数や種類、配向を制御することは困難であるため、十分な研究が行われていない。一方、最近になって、我々のグループは類似の箱型化合物を活用することで、本来バラバラに存在するDNAやRNAの断片をナノ空間内で規則正しく配置することに成功した(Nature Chem. 2009, 1, in press)。また、複数の金属錯体を箱型空間内に集積することで、金属と金属および金属と芳香環の特異な相互作用を発現することに成功した(Chem. Commun. 2008, 2328 および J. Am. Chem.Soc. 2009, 131, 2782)。さらに予備的な知見として、今回の極性分子を四重および五重に集積できることも判明している。このようにナノ空間を利用した精密な分子集積法は、簡便かつ汎用性が高いことから、今後、未開拓な分子間相互作用の発現や新規な機能性材料の開発に繋がることが期待される。


【用語説明】
用語1:ナノメートルサイズ
 1メートルの10億分の1の大きさ。フラーレンやカーボンナノチューブなどの比較的大きい化合物がその大きさに対応する。

用語2:極性(芳香族)分子
 分子内の正電荷と負電荷の重心が一致しない分子を極性分子と言う。極性分子の代表的なものとして、水(H2O)、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)などがある。分子が極性を持つ原因の一つに、分子を構成する種類の異なる原子同士の電気陰性度(共有電子対を引きつける強さ)の差がある。極性分子の中でも芳香族性を持つものを極性芳香族分子という。

用語3:双極子モーメント
 一対の正負の同じ大きさの荷(チャージ)からなる要素を指す。双極子は、負のチャージから正のチャージへの方向ベクトルとその大きさとの積で特徴づけられる。このベクトルを双極子モーメントという。


【掲載雑誌名、論文名および著者名】
Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (PNAS)
Discrete Stack of an Odd Number of Polarized Aromatic Compounds Revealing the Importance of Net vs. Local Dipoles (極性芳香族分子の奇数集積化:双極子モーメントの重要性を解明)
Yoshihiro Yamauchi‚ Michito Yoshizawa‚ Munetaka Akita‚ and Makoto Fujita

図1 溶液中でバラバラに存在する芳香族分子をナノ空間内で、数と向きをそろえて正確に積み重ねることに成功した.   図2 ナノメートルサイズの空間を有する箱型化合物:2種類の有機分子と1種類の金属イオンの自己組織化により簡便に合成できる.内部空間には、種々の芳香族分子を集積可能である.  


図3 極性芳香族分子:ピレン-4,5-ジオン.   図4 箱型化合物内で集積した3つの極性芳香族分子(ピレン-4,5-ジオン)のX線結晶構造.互いに120度ずつずれて配向.(A:横図,B:上図)  


本件に関する問合せ先 資源化学研究所  准教授  吉沢 道人
TEL (045)924 - 5284 
E-mail yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp 
FAX
(045)924 - 5230
 
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