はしがき

 諸君は,この冊子を頼りにして,これから東京工業大学で学部の学習を進めていくことになります。

 本学は,これまで理工系の大学として,理工系授業の充実は言うに及ばず,人間形成と幅広い価値観の涵養を重視して,文系授業の整備にも心を砕いてきました。

 本学が採用している学習体系は,初めのうちは理工系基礎科目と文系科目を多くしてあり,学年の進行とともに,理工系の専門科目が増え文系科目が減っていくように設計されています。この体系は“くさび形”教育と呼ばれ,高く評価されています。その理由は,勉学が進むに従って,理工系の学問内容の重要性が段階的に認識できるとともに,文系科目の履修を継続させることによって理工系学問の社会的意義についての理解をも深化させることができるからです。

 ところで,世界はいま大きく変わろうとしています。世界のボーダーレス化が進み,リアルタイムで各国の動向に関する情報が得られるようになりつつある現代は,いろいろな見方や考え方,すなわち多様性を受容しなければならなくなっています。また,一面でよいと思ったことが,他の面からみると悪い結果を与えてしまっているという因果理解の多面性についての配慮も重要になってきています。

 このような時代認識に立って,本学は,平成7年度から学部教育の改革を行い,その基本理念は,基礎学習を重視しながら多様性と多面性を保証することにあります。

 本学では,学部教育を大学院の基礎教育と位置付けています。ここで基礎教育とは,大学院の専攻に幅広く対応する基礎学問を修得し,これを応用して問題解決能力を養うとともに,問題そのものの意義と価値を深く理解する教養を身につけることを意味します。また,教養とは,対象についての思考やそれを扱う手法を文系と理工系の両面から修得することであり,知識を蓄積するだけでなく,未知の対象に対応できる思考や手法を獲得することです。そして,学部教育の理念を,

   理工学における基礎知識を身につけ,

   それを応用する能力を備えた上で,

   国際性及び社会性など幅広い教養を兼ね備えた人材の育成

にあるとしています。

 以上のような学部教育の理念と考え方に立って,この冊子に示されている“くさび形”学習課程が組まれています。

 諸君はこれから東京工業大学の学則学習規程に従って学習することになります。

 開講される授業科目は,この冊子の教授要目に示してあります。この授業の中から,どの授業科目を,どの学年や学期に履修するかという学習計画は,大学の考えている教育内容と,諸君の勉学の目標や興味との両面から決まります。この冊子に書かれている学習案内は諸君が学習計画を立てるための参考であり,学習規程で決められたことを具体的に解説したものです。

 学習規程,教授要目及び学習案内は,全ての学部に共通であり,諸君が卒業するまで,この冊子に書かれていることが適用されます。ただし,教授要目については部分的な変更があるかもしれません。

 諸君が学習計画や授業の履修方法について疑問があるときは,遠慮なく,学務部,学生相談室,類主任,クラス担任,助言教員,学科長等に質問し,ガイダンスを受けることです。授業の内容については,教授細目(シラバス)を参考にしてください。

 なお,生命科学科,生命工学科及び7類に所属する学生の授業は,原則として,1〜4学期の木曜日以外の授業は大岡山キャンパスで,5〜8学期の授業はすずかけ台キャンパスで行うことになっています。

 本学の教育の理念と考え方を参考にし,この冊子をよく読んで,無理のない学習計画を立て,理工系のしっかりした基礎知識と文系の幅広い知識を修得した「学士」として卒業されることを願っています。