研究

東工大ニュース

ワンポットの短工程で有機フッ素医農薬中間体を合成―アセチレン類からの立体選択的な合成に成功―

2015.10.22

要点

  • 医農薬品として期待できる有機フッ素化合物の短工程合成法の開発
  • 四置換CF3アルケンの簡便(ワンポット)かつ立体選択的合成法
  • 温和な条件で実施でき多様な官能基に対して有効な触媒システム

概要

東京工業大学資源化学研究所の小池隆司助教、穐田(あきた)宗隆教授、富田廉大学院生らは、医農薬品中間体として有用な多置換トリフルオロメチルアルケン類を、入手容易な内部アセチレン類から短工程かつ立体選択的に合成することに成功した。フォトレドックス触媒[用語1]と呼ばれる光触媒とクロスカップリング反応[用語2]に有効なパラジウム触媒を連続して一つの反応容器内で作用させ、反応中間体を精製することなくアセチレン類から合成できるワンポット反応系を開発した。

トリフルオロメチル基[用語3]は、医農薬品の化学・代謝安定性、脂溶性や結合選択性などに大きな影響を与え、薬物活性の向上をもたらすことが知られている。このため、新反応は医農薬品開発の分野で、今後広く使われていくことが見込まれる。

研究成果は、ドイツ化学会誌「アンゲバンテ・ヘミー国際版」のオンライン版に9月11日に掲載された。

研究成果

東工大の小池助教、穐田教授らは、フォトレドックス触媒の触媒作用を活用し、求電子的トリフルオロメチル化剤[用語4]と入手容易な内部アセチレン類から、立体選択的なトリフルオロメチルアルケニルトリフラートの合成に成功した。この反応の特徴は、導入されるトリフルオロメチル基とトリフラート基が、トランス付加型[用語5]の生成物が高い選択性で得られることである。

得られた生成物を中間体として、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を適用することで、四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成できることがわかった。さらに、この反応は、フォトレドックス触媒反応後、中間体を精製せずに同じ反応容器内にパラジウム触媒とカップリング剤を加えるワンポット合成が可能であった(図1(a))。このようにプロセスが簡略化できグリーンケミストリーの観点からも好ましい。

従来、四置換トリフルオロメチルアルケン類はあらかじめトリフルオロメチル基を含む原料を調製して合成されるのが一般的だったが、今回の研究成果によりアセチレン類を原料として短工程かつ簡便に合成できるようになった(図1(b))。また、この反応系を利用することで多様な有機フッ素医農薬品合成への応用が期待される。

(a)本研究成果:アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成
(b)従来法と本方法の比較
図1.
(a)本研究成果:アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成、(b)従来法と本方法の比較

背景と経緯

四置換アルケン類は、生物活性な天然物や医薬品、機能性分子にもみられる重要な構造モチーフである。多置換アルケン類は置換基の位置によって立体異性体が存在し、その機能や性質も異なる。そのため、異性体の生成を制御した合成法、すなわち立体選択的な合成法の開発が求められている。

置換基のひとつがトリフルオロメチル基であるトリフルオロメチルアルケン類も医薬品や機能性材料として近年注目されている。とくに、フッ素原子は結合している有機分子の化学・代謝安定性や、脂溶性、結合選択性に大きな影響を与えることから、有機フッ素化合物は医農薬品として注目されている。

それと同時に、いかに簡便に、工程数を少なくフッ素ユニットを有機分子骨格に導入するかも重要な研究課題となっている。小池助教、穐田教授らは、フォトレドックス触媒をトニ試薬や梅本試薬などの求電子的トリフルオロメチル化剤とアルケン類に作用することで、効率よくアルケン類のトリフルオロメチル化反応が進行することを見いだした。加えて本方法は、青色LEDを光源に室温という温和な条件で実施可能であり、様々な官能基をもつ多置換アルケン類のトリフルオロメチル化に有効であった。この知見をもとに、アセチレン類のトリフルオロメチル化から立体選択的な四置換トリフルオロメチルアルケンの合成が可能であると着想し、今回の研究成果に至った。

今後の展開

小池助教、穐田教授らの開発した反応の特徴は、炭素-炭素三重結合にトリフルオロメチル基とトリフラート基を立体選択的に導入できる。トリフラート基はパラジウム触媒によって様々な官能基へと変換可能である。今後は、ヘテロ元素やπ共役系ユニットとのカップリング反応を検討し、多様な四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成し、その医農薬品や有機機能性材料としての利用をめざす。

用語説明

[用語1] フォトレドックス触媒 : 下図に示すようなビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体やフェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体など。可視光領域に吸収帯を有し、太陽光や蛍光灯、青色LEDランプなどを光源に一電子酸化還元反応を触媒することができる。

フォトレドックス触媒

[用語2] パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応 : 2010年 ノーベル化学賞の受賞対象となった本反応は、遷移金属パラジウム錯体が、活性化基(ハロゲンやトリフラートなど)を有する有機分子と有機金属反応剤の有機基を選択的に結びつける強力な合成ツールとして様々な分野で活用されている。

[用語3] トリフルオロメチル基 : メチル基の水素原子(H)をフッ素原子(F)に置換したもの。フッ素原子の特異な性質に起因して分子全体の性質が上述のように大きく変化する。医農薬品だけでなく機能性材料においても注目されている官能基。

[用語4] 求電子的トリフルオロメチル化剤 : 室温で固体、扱いやすいトリフルオロメチル化剤として下図の試薬が知られている。これらの試薬が開発されたことにより、トリフルオロメチル化反応が飛躍的に進歩した。

求電子的トリフルオロメチル化剤

[用語5] トランス型 : X-CR=CR-YのアルケンにおいてXとYが二重結合に対して同じ側に あるものをシス型、違う側にあるものをトランス型とよぶ。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition (ドイツ化学会誌国際版)
論文タイトル :
"Photoredox-Catalyzed Stereoselective Conversion of Alkynes into Tetrasubstituted Trifluoromethylated Alkenes"
著者 :
Ren Tomita, Takashi Koike, and Munetaka Akita (富田廉、小池隆司、穐田宗隆)
DOI :

研究支援

JSPS科研費(15J12072)、内藤記念科学振興財団奨励金・研究助成

問い合わせ先

資源化学研究所 助教 小池隆司

Email : koike.t.ad@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5229 / Fax : 045-924-5230

資源化学研究所 教授 穐田宗隆

Email : makita@res.titech.ac.jp

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661