研究

東工大ニュース

オンデマンド光機能酸化物ヘテロ構造の合成に成功―紫外線吸収・透明太陽電池に向けた新素材―

2016.09.06

発表者

  • 松田巌(東京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センター 准教授)
  • 組頭広志(高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所 教授)
  • 小澤健一(東京工業大学 理学院 化学系 助教)

発表のポイント

  • 代表的な金属酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板上に数原子層のルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)を積層させたヘテロ接合界面において、SrRuO3の膜厚によって光学応答を任意に制御できることを発見した。
  • 本研究成果を元に、光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できる。
  • SrTiO3は可視光は透過するが紫外線を吸収する半導体材料であり、SrRuO3層も原子レベルに薄いので高い可視光透過性を持つ。そのため紫外線から守りかつ透明な太陽電池の新素材としての可能性があり、今後の応用が期待される。

発表概要

東京大学 物性研究所の松田巌准教授らの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の組頭広志教授と東京工業大学の小澤健一助教と共同で、2種類の異なる酸化物を接合させたヘテロ界面において、光学応答の主要な現象の一つである光起電力を人工的に制御できることを発見しました。レーザーを使った原子レベルでの精密結晶成長技術を駆使し、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)結晶基板上に数原子層厚さのルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)超薄膜を成長させて、ヘテロ構造を作製しました。紫外光レーザー照射により光起電力を発生させ、レーザーと同期したシンクロトロン放射光でヘテロ構造の電子状態変化を追跡する時間分解光電子分光法[用語1]により、その緩和過程をリアルタイムで捉えることに成功しました。SrRuO3薄膜の膜厚を変えることでヘテロ界面の電子構造が劇的に変化し、それに合わせて光学応答が200倍も向上し、さらに光起電力の大きさと緩和寿命が敏感に変わりました。得られた結果を元に数値シミュレーションを実施したところ、この光学応答の変化に必要な光キャリアの量やダイナミクスを明らかにすることができました。

本研究により酸化物ヘテロ構造における光起電力の発生とその制御の仕組みを定量的に説明することが可能になりました。本成果を元に光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できることでしょう。

本研究成果はドイツの学術誌「Advanced Materials Interfaces」に2016年9月5日(現地時間)に掲載予定です。

発表内容

背景

携帯電話やパソコンだけでなく、車や家電製品などにも昨今高性能な電子機器が組み込まれ、その性能向上への要求はとどまることがありません。一方で、近年はエネルギー不足や環境問題も顕在化しており、太陽光などのクリーンエネルギーの活用も必須課題になっています。そのため、新しい動作原理に基づくデバイスや新機能材料の開発に高い期待が寄せられるようになっています。その中で金属酸化物は次世代の材料として注目を集め、特に微細化の究極の形である表面・界面層での電子・光学的動作に高い関心が持たれています。チタン酸ストロンチウムSrTiO3は代表的な金属酸化物であり、最近その表面は特異な電子特性を示すことが分かってきました。しかしながらSrTiO3表面の光学応答に関する報告はほとんどありませんでした。

研究成果

本研究グループでは、SrTiO3結晶と格子定数の近いルテニウム酸ストロンチウムSrRuO3をSrTiO3基板上に数原子層成長させて、SrRuO3/SrTiO3のヘテロ構造を作製しました。本成膜ではレーザーを用いた結晶成長法で実施しました。そしてSPring-8の高輝度軟X線ビームラインで光電子分光測定を行ったところ、SrRuO3原子層の膜厚に依存してSrRuO3膜の電子状態が半導体から金属に変化し(図1)、それに伴いSrTiO3基板はキャリア電子密度が高い状態から低い状態に変わることが分かりました。さらに光電子分光の時間分解測定を実施したところ、ヘテロ構造にすることで200倍もの高い光学応答性を示すようになり、さらにヘテロ構造の電子構造変化に対応して光起電力とその緩和時間も変わることが分かりました(図2)。そして得られた結果を元に、数値シミュレーションを実施したところ、この光学応答の変化に必要な光キャリアの量やダイナミクスを明らかにすることができました。

SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の光電子分光の結果:(a)価電子帯、(b)Sr 3d 内殻準位、(c)Ti 2p 内殻準位の光電子スペクトル。光電子分光法では、SrRuO3とSrTiO3のそれぞれの光電子信号を測定することができるが、より深さdに対してその信号は小さくなる。(d)はその信号の減衰の様子をヘテロ構造と示してある。λは光電子信号の減衰長に対応する。
図1.
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の光電子分光の結果:(a)価電子帯、(b)Sr 3d 内殻準位、(c)Ti 2p 内殻準位の光電子スペクトル。光電子分光法では、SrRuO3とSrTiO3のそれぞれの光電子信号を測定することができるが、より深さdに対してその信号は小さくなる。(d)はその信号の減衰の様子をヘテロ構造と示してある。λは光電子信号の減衰長に対応する。
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の時間分解光電子分光の結果:(a)STO基板、(b)SRO(2層)/STO、(c)SRO(4層)/STO。SRO膜の存在によってt=0で照射した紫外線パルス光に対して光起電力(SPV shift)が発生し、時間とともに緩和していく様子が分かる。
図2.
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の時間分解光電子分光の結果:(a)STO基板、(b)SRO(2層)/STO、(c)SRO(4層)/STO。SRO膜の存在によってt=0で照射した紫外線パルス光に対して光起電力(SPV shift)が発生し、時間とともに緩和していく様子が分かる。

今後の展開

本研究によりSrRuO3/SrTiO3のヘテロ構造において、光起電力が発生することが分かり、さらにそのダイナミクスも明らかにすることができました。本成果を元に、光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できることでしょう。また、SrTiO3は紫外線を吸収する半導体材料でSrRuO3層も原子レベルに十分に薄いため、このヘテロ構造は人の目には見えません。そのため紫外線から守りかつ電力を作る窓などの新しい機能性デバイスにも本成果が活かされると期待されます。

用語説明

[用語1] 光電子分光法 : 金属や半導体などの固体に紫外光以上のエネルギーを持つ光を照射すると、電子が放出される。この電子を光電子と言い、光電子のエネルギーを分析することで固体表面の電子構造を知る実験法を光電子分光法という。特に原子核周りの電子(内殻電子)を分析すると、元素選択的に情報をとることができる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials Interfaces
論文タイトル :
Tailoring photovoltage response at the SrRuO3/ SrTiO3 heterostructures
著者 :
R. Yukawa, S. Yamamoto, K. Akikubo, K. Takeuchi, K. Ozawa, H. Kumigashira, and I. Matsuda
DOI :

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