研究

東工大ニュース

室温で強磁性・強誘電性が共存した物質を実現―低消費電力・超高密度磁気メモリー開発に道―

2016.12.27

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の北條元・元助教(現九州大学 総合理工学研究院 准教授)、東正樹教授、名古屋工業大学の壬生攻教授らの研究グループは、セラミックス結晶中に磁石の性質(強磁性[用語1])と電気を蓄える性質(強誘電性[用語2])が室温において共存することを確認した。室温での両性質の共存は、鉄酸ビスマスを用いた次世代磁気メモリー実現のための鍵として注目されていながらも、磁性不純物の影響により、これまで本質的であると実験で確認されたことはなかった。

同研究グループは、コバルト酸鉄酸ビスマスを薄膜形態で安定化させ、その磁気特性および誘電特性を詳しく調べた。その結果、温度に応じて磁石としての性質が変化し、低温では消失していた磁石の特性が室温では現れることを明らかにした。電気を蓄える性質も備えている。強磁性と強誘電性の相関が確認されたことから、新しい原理に基づく、低消費電力かつ高速アクセス、大容量の次世代磁気メモリー開発につながると期待される。

同研究グループには東工大の川邊諒・元大学院生、清水啓佑大学院生、山本孟大学院生、インドのボーズ基礎科学研究センターが参画した。

研究成果はドイツの材料系科学誌「Advanced Materials(アドバンストマテリアルズ)」のオンライン版で12月21日に公開された。

研究の背景

スマートフォンの普及やビッグデータなどによる情報処理量の爆発的な増大に伴う、情報機器の消費電力が問題になる中で、低消費電力・高記録密度・不揮発性の次世代メモリーデバイスへの要求が高まっている。こうした観点から注目されるのが、磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック物質[用語3]である。磁性と強誘電性の相関が十分に強く、電場によって磁化方向を反転することができれば、不揮発性・高安定性という現在の磁気メモリーの特徴を生かしつつ、低消費電力・高記録密度かつ簡易な素子構造を有した次世代磁気メモリーを実現できると期待される。

研究成果

これまでに菱面体晶ペロブスカイト[用語4]の鉄酸ビスマスには反強磁性[用語5](厳密には反強磁性秩序に加えて、サイクロイド変調[用語6]が重畳している)と強誘電性が存在することが知られていた(図1左)。

鉄酸ビスマス(左)とコバルト酸鉄酸ビスマス(右)の磁気構造の模式図
図1.
鉄酸ビスマス(左)とコバルト酸鉄酸ビスマス(右)の磁気構造の模式図。鉄酸ビスマスは反強磁性体であるため、スピンの磁化は打ち消し合い自発磁化は現れない。一方、コバルト酸鉄酸ビスマスはスピンが傾斜しているため、磁化は打ち消し合わずに自発磁化が現れる。

今回、北條准教授、東教授ら研究グループは、鉄を一部コバルトで置換したコバルト酸鉄酸ビスマスを、強誘電性の評価が可能な薄膜形態で安定化させることに成功した。誘電特性評価の結果、薄膜試料が室温で強誘電体であることを確認した(図2左)。

室温における鉄酸ビスマスとコバルト酸鉄酸ビスマス(xはコバルトの置換量)の電気分極の外部電場依存性(左)および磁化の外部磁場依存性
図2.
室温における鉄酸ビスマスとコバルト酸鉄酸ビスマス(xはコバルトの置換量)の電気分極の外部電場依存性(左)および磁化の外部磁場依存性。

さらに、薄膜の成長する方向を工夫することにより、温度に応じて磁石の性質が変化し、室温で弱強磁性[用語7]が現れることを明らかにした(図2右)。この磁性がスピン配列の変化による本質的な強磁性であることはメスバウアー分光分析[用語8]による磁気構造解析により裏付けられた(図1右)。また、この強磁性相は、温度およびコバルト置換量の増加とともに安定化されることも明らかとなった。

今後の展開

今回の成果は新しい磁気メモリー実現のための鍵といわれてきた、室温における強磁性と強誘電生の共存を、コバルト酸鉄酸ビスマス薄膜について実験的に証明したものである。また、強誘電電気分極と自発磁化の間には互いに直交するという関係があるため、電気分極の反転によって磁気情報を書き込む新しい磁気メモリー材料や、電荷と磁化の両方を情報として用いる大容量多値メモリーとしての応用への道筋も拓ける。これにより、鉄酸ビスマスをベースとしたマルチフェロイック物質の開発に拍車がかかるものと期待される。

付記

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓—材料科学の新展開」(代表・田中功京都大学教授)、基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹東京工業大学教授)、旭硝子財団若手継続グラント「Bi系マルチフェロイック薄膜の磁気構造制御と電場による磁化反転の実現」(代表・北條元九州大学准教授)、新世代研究所研究助成「次世代メモリ実現のためのBi系マルチフェロイック材料の開発」(代表・北條元九州大学准教授)、文部科学省・ナノテクノロジープラットフォームの援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 強磁性 : 電子は自転に例えられるスピンと呼ばれる内部自由度をもち、2つ状態(例えば上向きと下向き)をとる。隣り合う電子のスピンが同じ方向を向いて整列した状態を強磁性状態と呼ぶ。

[用語2] 強誘電性 : 電界(電圧を、その電圧が印加されている試料の厚みで割ったもの)を印加されていない状態でも電気分極(物質中で陽イオンと陰イオンの重心がずれていることから生じる、電荷の偏り)を持ち、かつ外部電界の向きに応じて電気分極の向きを可逆的に反転できる性質のことを強誘電性と呼ぶ。

[用語3] マルチフェロイック物質 : 一般に、複数の強的秩序を有する物質のことを指す。狭義では、強磁性と強誘電性の2つの強的秩序を有する物質を指す。

[用語4] 菱面体晶ペロブスカイト : ペロブスカイトは一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。結晶構造中の原子の繰り返し周期である単位格子が、立方体ではなく、頂点方向に伸びたものを菱面体晶と呼ぶ。

[用語5] 反強磁性 : 隣り合う電子のスピンが互いに逆方向を向いて整列した状態を反強磁性状態と呼ぶ。スピンによる磁化は打ち消しあうため、全体として磁化を持たない。

[用語6] サイクロイド変調 : ある方向にスピンが少しずつ回転していくようなスピンの配列。そのスピンベクトルの先端をつなぐとサイクロイド曲線になる。

[用語7] 弱強磁性 : 反強磁性体において、スピンが完全には反並行にならず、わずかに傾いた状態を指す。磁化は完全には打ち消されないため、自発磁化が現れる。

[用語8] メスバウアー分光分析 : 原子核が反跳せずにγ線を共鳴吸収する現象を利用して、物質中のメスバウアー核(ここでは57Fe)の電子状態や磁気的性質を調べる手法のこと。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Ferromagnetism at room temperature induced by spin structure change in BiFe1-xCoxO3 thin films
著者 :
Hajime Hojo, Ryo Kawabe, Keisuke Shimizu, Hajime Yamamoto, Ko Mibu, Kartik Samanta, Tanusri Saha-Dasgupta, and Masaki Azuma
DOI :

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東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 東正樹

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Tel : 045-924-5315 / 080-4402-5315
Fax : 045-924-5318

名古屋工業大学 工学研究科
教授 壬生攻

E-mail : k_mibu@nitech.ac.jp
Tel : 052-735-7904

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