研究

東工大ニュース

シリコンと窒素だけからできた硬い透明セラミックスを合成―空気中で1,400 ℃の耐熱性、過酷な条件下の光学窓材に応用可能―

2017.03.21

要点

  • 地上のありふれた元素であるシリコン(ケイ素)と窒素だけでできた透明セラミックス
  • エンジンの耐熱部品に使われる不透明セラミックスの窒化ケイ素に高圧力をかけ合成
  • 全物質中3番目の硬さとダイヤモンドを上回る空気中での耐熱性をもつ

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の西山宣正特任准教授(研究実施時はドイツ電子シンクロトロン研究員)と若井史博所長らの日独共同研究グループ(東工大、ドイツ電子シンクロトロン、物質・材料研究機構、バイロイト大学、東大、愛媛大)は、砂と空気の主要元素であるシリコン(ケイ素)と窒素からなる窒化ケイ素(Si3N4[用語1]から、全物質中で3番目に硬い透明セラミックスの合成に成功した(図1)。

自動車のエンジン部品にも使用される耐熱セラミックスである窒化ケイ素に高い圧力と高い温度をかけることにより、大気圧下[用語2]では合成することができない“スピネル型窒化ケイ素”のナノセラミックス(ナノ多結晶体[用語3])を合成した(図2)。得られた物質は、レンズや窓に使われる物質と同等の透明さを持つことを確かめた。これは全物質中で3番目の硬さをもつ物質であり、さらに空気中で1,400 ℃の高温まで耐えられる。このため過酷な環境で使われる装置の光学窓材料としての利用が期待できる。

研究成果は、3月17日にNature出版社のオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

スピネル型窒化ケイ素の透明多結晶体

図1. スピネル型窒化ケイ素の透明多結晶体

スピネル型窒化ケイ素・透明多結晶体の透過型電子顕微鏡写真

図2. スピネル型窒化ケイ素・透明多結晶体の
透過型電子顕微鏡写真。平均粒径は約150ナノメートル。

背景

ケイ素(Si)と窒素(N)は地表で簡単に手に入る元素である。ケイ素は砂や石の主要元素で、地表そのものといってもいいほどありふれている。一方の窒素は空気の8割を占め(残りの2割が酸素)、地表でもっともありふれた気体である。これらケイ素と窒素からなる窒化ケイ素(Si3N4)は資源の枯渇を全く心配する必要がない、セラミックス材料である。

窒化ケイ素セラミックスは広く工業利用されている。この物質は硬く、割れにくく、高温に耐えられるという性質を持っているため、自動車エンジンやガスタービン内部の部品、ボールベアリング、さらに航空機エンジンに使われる特殊な合金を削るための刃物として利用されている。このように、物質の硬さや割れにくさという特徴を利用して人工物の形状を保つため、あるいは人工物の形状を作り出すために利用される材料を“構造材料”と呼ぶ。窒化ケイ素は、代表的な構造用セラミックスである。

物質は周囲の温度や圧力が変化することによって、その原子の並び方が変化する。水(液体)は、温度が0 ℃以下で氷(固体)、100 ℃以上で水蒸気(気体)になる。鉛筆の芯の石墨(グラファイト)は地球の中のような高い圧力、高い温度条件下でダイヤモンドになる。このように温度圧力条件によって物質の原子の並びが変化することを“構造相転移”と呼ぶ。窒化ケイ素(Si3N4)も13万気圧以上の高圧力と高温の条件下で、大気圧下では合成することができない“スピネル型窒化ケイ素”へと相転移する。ダイヤモンドは地球の深さ150 kmより深いところで作られ、スピネル型窒化ケイ素は深さ400 kmより深いところに相当する圧力で作ることができる。

高い圧力下でスピネル型窒化ケイ素を合成できることは1999年にドイツの研究グループによって報告されていた。その後の研究によって、この物質がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素[用語4]に次ぐ、全物質中で3番目に硬い物質の候補であると考えられるようになった。純粋で緻密に焼き固まったスピネル型窒化ケイ素を合成するのは実験的に困難なため、この物質の硬さや割れにくさといった構造材料としての性能を評価する上で不可欠な性質は、これまでよくわかっていなかった。

研究成果

西山らの日独国際共同研究グループは、地球深部条件の再現やダイヤモンドの合成に使用される高温高圧発生装置を使用して、スピネル型窒化ケイ素を16万気圧、1,800 ℃の条件で合成した。その結果、緻密で透明なスピネル型窒化ケイ素多結晶体を得た(図1)。この物質の透明度は、レンズや窓材に使われる光学部品と同等であることを確認した。この物質を透過型電子顕微鏡で観察し、1粒の大きさが150ナノメートル程度のスピネル型窒化ケイ素がランダムな方向で焼き固まったナノ多結晶体であることがわかった(図2)。また、この物質の硬さを測定したところ、2つのホウ素化合物(B4CとB6O)と同程度の硬さを持ち、全物質中でダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素に次ぐ3番目に硬い物質の1つであることがわかった(図3)。

さまざまな物質のビッカース硬さ(縦軸)とずり弾性率(横軸)の関係

図3. さまざまな物質のビッカース硬さ(縦軸)とずり弾性率(横軸)の関係。ずり弾性率は、物質のずり変形に対する抵抗を表す。物質名の右肩の★印は、そのナノ多結晶体が透明になることを示す。

これらの硬質物質のうち、光学的に透明で緻密なナノ多結晶体となるのはダイヤモンドとスピネル型窒化ケイ素である。したがって、スピネル型窒化ケイ素は、ダイヤモンドに次いで硬い透明ナノセラミックスであり、既存の透明セラミックスより硬く割れにくい。スピネル型窒化ケイ素・透明セラミックスは、ダイヤモンドに硬さは劣るが耐熱性は大きく勝る。ダイヤモンドは空気中700 - 800 ℃で黒鉛化および酸化(ダイヤモンドと酸素が反応して二酸化炭素になる)が起こり、これ以上の温度で使用することができない。一方、スピネル型窒化ケイ素は、空気中で少なくとも1,400 ℃の高温まで存在することができる。スピネル型窒化ケイ素・ナノセラミックスは光学的透明さ、全物質中3番目の硬さ、ダイヤモンドを凌ぐ耐熱性をもつので、過酷な環境で使用される機器の光学窓材としての利用が期待される。

本研究の一部は、東京工業大学が展開しているワールド・リサーチ・ハブ・イニシアティブ(WRHI)によって行われた。WRHIは「世界の研究ハブ」を目指す組織として、世界トップレベルの研究者を招へいし、国際共同研究の加速と分野を超えた交流を実施している。

今後の展開

窒化ケイ素には、その結晶構造の中に酸素やアルミニウム、さらにイオン半径の大きな希土類元素など、様々な元素を加えることができる。このような様々な化学組成をもった窒化ケイ素セラミックスに高い圧力を加えスピネル構造にすることによって、透明、硬い、高耐熱性といった利点だけでなく、半導体としての利用、光を発する蛍光体への応用も可能になるかもしれない。それによって多機能性を有する硬く透明なセラミックス材料を作り出すことができると期待される。

用語説明

[用語1] 窒化ケイ素 : ケイ素原子と窒素原子が3:4の割合で結合した化合物。それぞれの原子は共有結合によって強固に結びついているため、この物質は硬く、高温まで安定に存在し、化学反応性が低い。

[用語2] 大気圧 : 地表において空気の重さによって生じる圧力。1気圧とも呼ばれる。私たちは地表面で、常にこの圧力(=1,013ヘクトパスカル)にさらされて生きているので圧力がかかっているようには感じないが、1平方メートルあたりにかかる空気の重さは約10トンである(乗用車・約10台分)。ダイヤモンドやスピネル型窒化ケイ素を作り出すには、大気圧の数万倍の圧力が必要となる。

[用語3] ナノ多結晶体 : 多結晶体とは、多数の小さな結晶の粒がそれぞれランダムな方向で緻密に固まったもの。ダイヤモンドなどの宝石は1つの大きな結晶からなる単結晶。結晶は原子が規則正しく並んでいるため、割れやすい方向や柔らかい方向が存在するが、多結晶体では多数の結晶が様々な方向を向いてこのような欠点を打ち消し合うので、割れやすい方向や柔らかい方向がない均質な物質になる。ひとつひとつの小さな結晶の大きさがナノメートル(百万分の1ミリメートル)サイズの微細な多結晶体をナノ多結晶体と呼ぶ。

[用語4] 立方晶窒化ホウ素 : ホウ素原子(B)と窒素原子(N)が1:1の割合で結合した化合物。ダイヤモンドが炭素原子のみからなるのに対し、立方晶窒化ホウ素ではホウ素原子と窒素原子が交互にダイヤモンドと同じ原子の並び方をしている。ダイヤモンドと同様に高圧力下で合成可能である。ダイヤモンドよりも鉄との反応性が低いため、鉄系材料の切削に利用されている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Transparent polycrystalline cubic silicon nitride
著者 :
N. Nishiyama, R. Ishikawa, H. Ohfuji, H. Marquardt, A. Kurnosov, T. Taniguchi, B-N. Kim, H. Yoshida, A. Masuno, J. Bednarcik, E. Kulik, Y. Ikuhara, F. Wakai, T. Irifune
DOI :

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特任准教授 西山宣正

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