東工大ニュース
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このたび、東工大教員3名が、平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「科学技術賞」を受賞しました。
「科学技術賞」は科学技術分野で顕著な功績をあげた者を対象としたもので、「開発部門」、「研究部門」、「科学技術振興部門」、「技術部門」、「理解増進部門」に分かれて表彰されています。
日ごろの研究活動、研究成果を認められ、本学からは「開発部門」で2名、「研究部門」で1名が受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰には、「科学技術賞」の他、特に優れた成果をあげた者を対象とする「科学技術特別賞」、高度な研究開発能力を有する若手研究者を対象とした「若手科学者賞」等があり、「若手科学者賞」においても本学関係者から9名の教員が受賞しました。
「科学技術賞」を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。
科学技術賞(開発部門)
科学技術賞(研究部門)
研究概要
次世代無線LANや第5世代携帯電話等の情報通信インフラ構築に必要な超高速無線通信を実現するために、ミリ波帯(30 GHz-300 GHz)を用いた無線技術が必要とされています。デジタル回路等で用いられる安価で大量生産が可能なCMOS集積回路では、ミリ波帯での位相雑音特性が悪いため多値変調による高速な無線通信ができないことが長年の課題でした。
我々は、注入同期現象をミリ波帯の信号発生に利用することにより、極めて良好な位相雑音特性を実現することに成功しました。位相雑音が改善できたことでミリ波帯においても多値変調が可能となり、CMOS集積回路により世界で初めてダイレクトコンバージョン型のミリ波帯無線機を実現できました。
本開発により、60 GHz帯ミリ波無線機においても、一度に6ビットの送受信が可能となり、世界最高速となる42 Gb/sの無線通信速度を達成できました。
この研究を開始した10年前、60 GHzを中心とするミリ波はその高い周波数により、超高速無線通信を期待されていましたが、位相(時間)の揺らぎが大きく、十分な通信速度を実現できていませんでした。また、安価で量産が可能なCMOS集積回路での実現も困難と思われておりました。その課題を一つ一つ克服し、CMOS集積回路を用いてミリ波本来の超高速無線通信を実現いたしました。この技術の開発の成功は9年間にわたる総務省の研究開発支援、研究開発に参加された企業や他の研究室との連携のたまものですが、企業でも困難な、先端集積回路の設計・評価を担った多くの学生の献身的な努力の結晶でもあります。関係された多くの方々に深く感謝申し上げるとともに、この技術が無線通信の発展に大きく貢献することを願っております。
高周波デバイス測定評価技術のような基盤的技術の研究から、ミリ波無線システムの設計・開発・評価までを10年間かけて行いました。当初CMOS集積回路での実現は困難であると言われていましたが、共にプロジェクトを推進した多数の企業や大学研究室の研究者からの多大な支援や助言により、世界最高速の60 GHz帯ミリ波無線機を実現することができました。本成果は多数の学生たちの協力なしでは成しえなかったものです。学生たちに感謝するとともに、本受賞を共に喜びたいと思います。
人類は、地球温暖化およびエネルギー資源や炭素資源の枯渇という深刻な3つの問題に直面しつつあります。太陽光をエネルギー源とした二酸化炭素の資源化(人工光合成)は、これらの問題を一挙に解決する技術として注目を集めています。この技術の中核を担うのが、可視光により二酸化炭素の還元を駆動する光触媒です。
我々は、二酸化炭素を還元する金属錯体光触媒の性能を、詳細な反応機構の解明を通して発案した新たな分子設計により飛躍的に向上させることに成功しました。開発した光触媒は、これまで報告された中で最も効率が良く、耐久性も最も高いものです(図)。
また、元素戦略を勘案した二酸化炭素還元光触媒としては最も効率と耐久性の高い系を、鉄錯体と銅錯体を組み合わせることで創製しました。このようにして開発した金属錯体光触媒を、光酸化力の強い半導体と創発的に融合したハイブリッド光触媒を初めて開発し、可視光を用いた、水を還元剤とする二酸化炭素の光触媒還元に成功しました。更に、高効率な光捕集機能を持つ二酸化炭素還元光触媒を世界に先駆けて開発しました。
これらの研究は、資源環境技術研究所、埼玉大そして東工大において、同僚、スタッフ、学生の皆さんと一緒に継続的に行ってきました。これらの皆さんとの共同研究が受賞という形で評価していただけたことをうれしく思っています。共同研究者の皆さまに感謝いたします。人工光合成の研究は、人類の将来にとって重要な研究ですし、また学術的にもチャレンジングで面白いものです。今後も多くの方々と協力しながら、この分野に少しでも貢献できればと思っています。