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新開発の光触媒でCO2を高効率に再資源化―緑色植物の光合成を人工系で実現―

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公開日:2017.06.09

要点

  • 資源的制約の無い炭素と窒素を主要元素とした新しい光触媒を開発
  • 太陽光の主成分をエネルギー源として、CO2を有用化学物質へと変換
  • 世界最高の触媒耐久性とCO2還元選択率を達成

概要

東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、石谷治教授、栗木亮大学院生・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、ルテニウム(Ru)複核錯体と窒化炭素からなる融合光触媒が、可視光照射下での二酸化炭素(CO2)のギ酸[用語1]への還元的変換反応に対して特異的に高い活性を示すことを発見した。実験条件を最適化した結果、これまでに報告されていたものよりも触媒耐久性を示すターンオーバー数[用語2]は3倍の2000にまで向上し、CO2還元の選択率[用語3]も75%から最大で99%まで大幅に改善された。

これにより、資源的制約とは無縁な炭素と窒素からなる材料を使い、かつ太陽光をエネルギー源として、地球温暖化の主因となっているCO2を常温常圧下で有用な化学物質に変換できる可能性が見えてきた。

研究成果は4月7日にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie, International Edition (アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)』オンライン版に掲載された。

研究の背景

金属錯体や半導体を光触媒としたCO2還元は、ギ酸や一酸化炭素といった有用物質を常温常圧下で製造できる反応として注目され、30年以上も前から国内外で精力的に研究されている。

前田准教授らはこれまでに、有機高分子半導体である窒化炭素(C3N4)とRu錯体を融合したハイブリッド材料を光触媒とすることで、太陽光の主成分である可視光照射下、常温常圧下でCO2を還元することに成功していた。だが、耐久性と選択率の向上が課題となっていた。特に、この複合光触媒の高効率化には、C3N4からRu錯体への電子(e?)移動の促進が必要となっていた。

研究成果

前田准教授らは、尿素を熱分解して得られるシート状C3N4が、ホスフォン酸基を吸着部位としてもつRu錯体を強固に吸着できることを発見した。これにより、C3N4からRu錯体への効率的な電子移動が実現し、その結果としてCO2光還元反応の高効率化に成功した(図1)。

シート状C3N4とRu複核錯体を組み合わせた複合光触媒によるCO2還元

図1. シート状C3N4とRu複核錯体を組み合わせた複合光触媒によるCO2還元

光触媒の合成条件、およびCO2光還元の反応条件を詳しく検討した結果、CO2溶解度の低い水中でも高い光触媒活性が得られることがわかった。CO2を還元してギ酸を生成する本反応のターンオーバー数は従来の660から2090に向上し、75%にとどまっていたCO2還元の選択率は最大で99%に達した。これらの値は、これまでに報告されてきた類似光触媒系を大きく超え、世界最高値となった。

今後の展開

今回の研究成果は、化学結合形成に利用可能な表面官能基をほとんどもたないC3N4の表面が、特別な化学処理を経ることなく有用な化学反応系構築に利用できることを示している。本反応で得られるギ酸は、水素を貯蔵・輸送するエネルギーキャリアとして有用だが、組み合わせる錯体を変えることで、化学燃料として価値の高い一酸化炭素を高い選択率で得ることも可能になる。また、C3N4は炭素や窒素を含む安価で単純な有機物から容易に合成できる。主構成元素である炭素や窒素以外の元素を取り込むことで、よりエネルギーの小さい可視光の有効利用も可能になり、ひいては太陽光エネルギーの有効利用につながると期待される。

付記

本研究は本学技術部すずかけ台分析部門の魯大凌技術職員、大阪市立大学複合先端研究機構の吉田朋子教授、名古屋大学未来材料・システム研究所の八木伸也教授のグループとの共同で行った。

本研究の一部は、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究A「窒化炭素系半導体と金属錯体を融合した二酸化炭素固定化光触媒の創出」、新学術領域研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦東京工業大学准教授)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「太陽光の化学エネルギーへの変換を可能にする分子技術の確立」(代表:石谷治東京工業大学教授)の助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] ギ酸 : 分子式HCOOHで表されるもっとも単純なカルボン酸。適当な触媒を用いれば、水素(H2)とCO2に分解できるため、貯蔵や輸送に困難を伴う水素のキャリア(エネルギーキャリア)として注目されている。

[用語2] ターンオーバー数 : 触媒反応の活性点の数に対する生成物分子の数の割合。活性点が10個あり、生成物分子が100個生じた場合、ターンオーバー数は10となる。

[用語3] 選択率 : 化学反応におけるすべての生成物量に対する目的生成物量の割合。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie, International Edition
論文タイトル :
Robust Binding between Carbon Nitride Nanosheets and a Binuclear Ruthenium(II) Complex Enabling Durable, Selective CO2 Reduction under Visible Light in Aqueous Solution
著者 :
Ryo Kuriki, Muneaki Yamamoto, Kimitaka Higuchi, Yuta Yamamoto,
Masato Akatsuka, Dr. Daling Lu, Prof. Dr. Shinya Yagi, Prof. Dr. Tomoko Yoshida, Prof. Dr. Osamu Ishitani, Prof. Dr. Kazuhiko Maeda
DOI :

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