研究

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火星衛星に火星マントル物質の存在を予言 ―JAXA火星衛星サンプルリターン計画での実証に高まる期待―

2017.08.31

要点

  • 巨大衝突起源説で火星衛星の反射スペクトルの特徴が説明可能
  • 火星衛星は衝突当時の火星本体の地殻物質とマントル物質を多く含有
  • JAXAの火星衛星サンプルリターン計画で火星本体の物質採取に期待

概要

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の兵頭龍樹特別研究員、玄田英典特任准教授らの国際共同研究チームは、火星の衛星「フォボス」と「ディモス」が月の起源と同様に、巨大天体衝突(ジャイアントインパクト)で形成されうることを明らかにした。世界最高解像度の巨大衝突シミュレーションによって、火星衛星がどのような物質でできているのかを理論予想した。

その結果、火星衛星を構成する粒子の典型的な大きさが0.1 μmの微粒子と、100 μmから数mであることが分かった。微粒子の存在により、衛星の滑らかな反射スペクトルの特徴が巨大衝突説の枠組みと矛盾しないことを確認した。

また、火星衛星を構成する材料物質の約半分が火星由来であり、残りは衝突天体由来であること、さらに衛星が含む火星由来の物質の約半分は衝突当時の火星表層から50 − 150 kmの深さから掘削された火星マントル物質であることを明らかにした。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2024年打ち上げを予定している火星衛星サンプルリターン計画(MMX)によって、衛星から火星本体の物質を地球に持ち帰る可能性が高いことを意味している。

研究成果は8月18日発行の米国科学誌「Astrophysical Journal (アストロフィジカルジャーナル)電子版」に掲載された。

火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像

図1. 火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像
(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

研究の背景

火星衛星フォボスとディモス(図1)は、火星の赤道面を円軌道で回っている。半径10 km程度のフォボスとディモスは火星質量の約1,000万分の1と非常に小さく、半径1,000 kmを超える地球の巨大衛星(月)とは大きく異なる。火星衛星のいびつな形状と表面スペクトルは、火星と木星の間に存在する小惑星と類似していることから、その起源は長らく小惑星が火星の重力に捕獲されたものと考えられていた(捕獲説)。

近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)

図2. 近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と
巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)

しかし、捕獲説の場合、現在の衛星の軌道(赤道面を円軌道で公転)を説明することは極めて困難であることが指摘されている。一方で、火星の北半球には太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)が存在し、巨大天体の衝突で形成された可能性が高いことが分かっている。そして、近年、このクレータを形成しうる巨大衝突過程(火星の直径の3分の1程度の巨大天体が、火星に秒速6 km程度で衝突)をコンピューターシミュレーションによって調べることで、飛び散った破片が集まって最終的に2つの衛星を形成しうることが明らかになった(図2)。

研究成果

火星への巨大天体衝突のイメージ

図3. 火星への巨大天体衝突のイメージ

東工大の兵頭龍樹特別研究員らは、フォボスとディモスを形成する巨大衝突の超高解像度3次元流体数値シミュレーションを行った(図3、4)。その結果、典型的な破片粒子サイズは、0.1 μmと100 μmから数m程度になることが分かった。そして、0.1 μm程度の微粒子が、観測されている火星衛星の滑らかな表面反射スペクトルの特徴と矛盾しないことを明らかにした。

さらに、火星衛星の構成物質の約半分は火星に、残りの半分は衝突天体に由来していることが分かった。さらに、この火星物質は火星地表面から50 - 150 kmの深さから掘削された火星マントル由来の物質であることが明らかになった。

巨大衝突シミュレーションの時間スナップショット

図4. 巨大衝突シミュレーションの時間スナップショット

上図において、赤色と黄色は最終的に火星となる粒子、水色は最終的に火星衛星となる粒子、白色は火星の重力圏から飛び出してしまう粒子、を表している。下図において、色は温度(ケルビン)を表している

地球の月形成との比較

地球が衛星の月を作ったとされる衝突は、衝突天体の質量が地球質量の10分の1程度で、衝突速度が毎秒12 kmと非常に大きく、地球周囲に飛び散り、最終的に月へと集積する物質は、衝突直後に4,000 K(絶対温度)程度となり蒸発することで、衝突天体物質と地球起源物質は混ざりあってしまい、当時の情報が失われていると考えられている。

一方、火星衛星を作ったとされる衝突天体は火星質量の数%(地球質量の1,000分の1)で、衝突速度は同6 km程度と小さめであったため、火星衛星を形成する破片は2,000 K程度の温度で、ほとんど蒸発せずに、火星起源物質と衝突天体起源物質の混ざり合いは少なく、破片は当時の火星の物質情報を保存していると期待される。

今後の展望

今回の研究によって、火星衛星が巨大天体衝突によって形成可能であり、観測される表面反射スペクトルの特徴も説明できることが明らかになった。また、火星衛星には火星由来の物質が多く含まれ、さらに、衝突当時の火星マントル物質も含まれていることが期待される。

一方、JAXAが進める宇宙探査・戦略的中型計画において、火星衛星に探査機を送り、火星衛星の物質を地球に持ち帰る計画(MMX: Martian Moons eXploration)が検討されている。2024年に打ち上げ、2029年の地球への帰還を目指している。

米航空宇宙局(NASA)は火星本体に探査機を着陸させて火星物質を地球に持ち帰ることを計画しているが、探査機の掘削技術が成功しても火星表面物質の回収しか期待できない。一方で、今回の研究で示した巨大天体衝突説が正しければ、人類は初めて、火星の表層物質だけでなく、火星マントル物質までをJAXAのMMX計画で火星衛星から手に入れることが可能となる。このことは、将来の火星移住計画の推進に大いに役立ち、さらに、未だ謎につつまれる太陽系形成史を紐解く物質科学的な鍵となることが期待される。

東京工業大学 地球生命研究所について

地球生命研究所(ELSI)は、文部科学省が2012(平成24)年に公募した世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、同年12月7日に産声をあげた新しい研究所。「地球がどのようにしてできたのか、生命はいつどこで生まれ、どのように進化してきたのか」という、人類の根源的な謎の解明に挑んでいる。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、2007(平成19)年度から文部科学省の事業として開始された。システム改革の導入などの自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

論文情報

掲載誌 :
Astrophysical Journal
論文タイトル :
On the Impact Origin of Phobos and Deimos. I. Thermodynamic and Physical Aspects
著者 :
Ryuki Hyodo, Hidenori Genda, Sébastien Charnoz, Pascal Rosenblatt
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所

兵頭龍樹 特別研究員

E-mail : hyodo@elsi.jp

東京工業大学 地球生命研究所

玄田英典 准教授

E-mail : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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東京工業大学 地球生命研究所 広報室

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