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新しい不斉源「トポロジカルキラリティ」の機能を解明

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2017.10.11

新しい不斉源「トポロジカルキラリティ」の機能を解明
―医薬品開発などにも応用可能な優れた不斉源の開発に成功―

要点

  • トポロジカルキラリティを有する化合物の不斉源としての機能を初めて評価
  • ロタキサンを不斉源として高分子に一方巻きらせんを誘起できることを見出した
  • ロタキサンは従来の点不斉を有する分子よりも優れた不斉源となり得る

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の石割文崇助教(兼・同大学 科学技術創成研究院 助教)、高田十志和教授らの研究グループは、新しい不斉[用語1]源である「トポロジカルキラリティ[用語2]」を持つ分子の優れた機能を初めて解明した。トポロジカルキラリティを持つ分子の不斉源としての利用を推進・加速し、不斉分子の選択的合成・認識・分割を達成する優れた機能分子の開発につながると期待される。

同研究グループは、トポロジカルキラリティを持つロタキサンを側鎖に有するポリアセチレン[用語3]を合成し、その主鎖にトポロジカルキラリティに対応した「一方巻きらせん構造」が誘起されることを見出した。また、より一般的な不斉である「点不斉」と「トポロジカルキラリティ」を組み合わせた系においては、トポロジカルキラリティが主たる不斉源となることも明らかにした。

医薬品などの有機化合物の多くは不斉を持ち、通常鏡像異性体混合物ではなく片方の鏡像異性体のみが使用される。このため、片方の鏡像異性体を選択的に合成・分離・識別するのに有効な不斉源となる分子の開発が求められている。

複数の分子が絡み合ってできた分子マシンとしても知られるロタキサンやカテナンなどのインターロック[用語4]分子は、構成分子がそれぞれ不斉を持たなくとも、その組み合わせ次第で「トポロジカルキラリティ」と呼ばれる不斉を発現することが知られていたが、これまでトポロジカルキラリティを持つ化合物を不斉源として応用した研究はなかった。

研究成果は2017年10月3日にドイツ科学雑誌「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)International Edition」に掲載された。

研究の背景

医薬品などの有機化合物の多くは不斉(キラリティ)を有していることから、鏡像異性体の片方を選択的に合成・分離・識別するために有効な不斉源となる分子の開発が強く求められており、有効な不斉源の創出は極めて重要な研究課題となっている。不斉源としてはこれまでに、点不斉や軸不斉、面不斉などに分類される不斉を有する化合物の応用が検討されてきた(図1左)。

一方で、分子マシンとしても知られるロタキサンやカテナンなどのインターロック化合物には、トポロジカルキラリティと呼ばれる特徴的な不斉が発現することが報告されている(図1右)。これらのインターロック分子は、構成成分が不斉を持たなくても、ほどくことのできない絡み合いにより不斉を発現する。このような分子は構成成分が高い運動性を持っているため、不斉源としてどのような機能を有するかに興味がもたれていた。

しかし、各構成成分には不斉は無いこれらの分子が果たして不斉源として機能するのか、機能するとしたらそれらが従来の不斉源と比較するとどのような性質をもっているか。これらは、2016年度ノーベル化学賞受賞者のジャン=ピエール・ソヴァージュ教授も提示していた長年の疑問だったが、今日まで検討されることはなかった。

従来用いられてきた一般的な不斉源と、本研究で検証したトポロジカルキラリティの模式図

図1. 従来用いられてきた一般的な不斉源と、本研究で検証したトポロジカルキラリティの模式図

研究内容と成果

東工大 物質理工学院 応用化学系の石割助教、高田教授、中薗和子特任助教、富山県立大学 小山靖人准教授(研究当時・東工大助教)らは、代表的ならせん高分子として知られるポリアセチレンに対する一方巻きらせん誘起を題材に、新しい不斉源である「トポロジカルキラリティ」を持つ分子の優れた性質を初めて確認した(図2)。

ポリアセチレンに一方巻きらせんを誘起するためには、有効に働く不斉分子を側鎖に導入する必要がある(図2右上)。同グループはトポロジカルキラリティを持つロタキサンの鏡像異性体の片方を単離し、ポリアセチレンの側鎖に輪成分もしくは軸成分を介して結合させると、主鎖に一方巻きらせんが誘起できることを発見した(図2左下)。

また、トポロジカルキラリティに加えて点不斉を不斉源として導入しても、点不斉に基づく一方巻きらせんは全く誘起されず、ロタキサンのトポロジカルキラリティに基づく一方巻きらせんのみが誘起されるという驚くべき結果も見出した(図2右下)。これは、トポロジカルキラリティを有する化合物が従来の点不斉などを有する化合物と比べて不斉源として優れた機能を持つことを示唆する結果といえる。

本研究における実験手法と結果の概要

図2. 本研究における実験手法と結果の概要

今後の展開

不斉を持たない分子の絡み合いにより発現する「トポロジカルキラリティ」を持つ分子の不斉源としての優れた機能の一端を明らかにした。これはソヴァージュ教授の提示していた長年の問題に対するひとつの答えである。今後、トポロジカルキラリティを持つ分子を不斉源とする研究が加速され、不斉分子の選択的合成・認識・分割を達成する優れた機能分子の開発につながると期待される。

用語説明

[用語1] 不斉(ふせい、キラリティ) : 鏡に映した像が元の像と重なり合わない(右手と左手の関係)性質。有機分子をはじめとする化合物にもこの関係が多く見られる。医薬品の場合、この右手か左手かの差で薬となったり毒となったりしてしまうため、右手分子と左手分子を選択的に合成したり、識別したり、分離したりすることは常に大きな研究テーマとなっている。これらの不斉機能を発現するためには、不斉を有する分子を使用しなければならない。この際、利用される不斉分子を不斉源という。これまでに、不斉源としては、図1左に示すような点不斉、軸不斉、面不斉を持つ分子などが用いられてきた。例えば、野依良治教授らは軸不斉分子の一種が極めて優れた不斉触媒(右手と左手を作り分ける触媒のこと)としての機能を示すことを見出しており、関連研究も含めて2001年にノーベル化学賞を受賞した。

[用語2] トポロジカルキラリティ : ロタキサン(軸状分子が輪状分子に貫通し軸状分子の両末端を輪成分がすり抜けないようにした化合物)やカテナン(輪状分子が二つ絡まった化合物)などインターロック分子では、構成成分に方向性がある場合、構成成分は不斉ではなくても、それらが絡み合って得られるロタキサンやカテナンには不斉が生じる。この不斉のことをトポロジカルキラリティという。インターロック化合物以外にもトポロジカルキラリティを生じる分子はあるが、特にインターロック化合物は構成成分共有結合で連結されていないため、高い運動性を持つという特徴がある。なお、ロタキサンに生じる不斉は厳密にはトポロジカルキラリティではないが、無限に長い方向性のある軸成分を考えると擬似的にはトポロジカルキラリティを持つとみなせるため、今回はトポロジカルキラリティの一種として示した。論文中ではメカニカルキラリティ(Mechanical Chirality)として紹介している。輪成分同士が絡み合ったすり抜けるカテナンに生じるトポロジカルキラリティと、輪成分が軸成分の両末端の大きな置換基によってすり抜けることができないロタキサンに生じるメカニカルキラリティと大差はない。

[用語3] ポリアセチレン : 代表的ならせん高分子であり、側鎖に不斉源を持つことにより、一方巻きのらせん構造を取る。不斉触媒、不斉識別材料、不斉分離材料などへの応用が検討されている高分子である。

[用語4] インターロック分子 : 複数の分子が解消できない絡み合いにより、機械的に結合した分子の総称。構成成分が並進、回転など高い運動性を示すため分子マシンの構成成分としての応用も期待されており、ジャン=ピエール・ソヴァージュ、フレイザー・ストッダート教授、ベン・フェリンガ教授らが2016年にノーベル化学賞を受賞している。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
"Induction of Single-Handed Helicity of Polyacetylenes Using Mechanically Chiral Rotaxanes as Chiral Sources"
著者 :
Fumitaka Ishiwari, Kazuko Nakazono, Yasuhito Koyama, Toshikazu Takata
DOI :

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