ノーベル賞レポート

大隅良典記念基金記者会見 会見録

大隅良典記念基金記者会見 会見録

2017年1月25日
大岡山キャンパス百年記念館にて

司会:本日はご出席いただきましてありがとうございます。ただいまから東京工業大学大隅良典記念基金の創設についての記者会見を始めさせていただきます。初めに出席者をご紹介させていただきます。三島良直学長、大隅良典栄誉教授、岡田清理事・副学長(企画・人事・広報担当)、日置滋副学長(基金担当)でございます。

三島良直学長挨拶

司会:まず、三島学長から本基金の設置について説明いたします。

基金設立の経緯と支援対象を説明する三島学長

基金設立の経緯と支援対象を説明する三島学長

三島学長(以下、学長):東京工業大学はこれまで130年以上にわたり、卓越した研究成果を創出し、また、優秀な理工系人材を輩出してきたところでございます。2016年大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことは誠に喜ばしいことでございまして、自然科学現象の解明に真摯に取り組む基礎研究の重要性を改めて認識する契機となったわけでございます。

本学では大隅先生から多額の寄附をいただいたことを受けて、先生のご意向を踏まえ東京工業大学基金の中に「大隅良典記念基金」を設置することといたしました。同基金は、将来の我が国を支える優秀な人材を育成するため、経済的支援が必要な学生が本学で学ぶための修学支援ならびに長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援の推進など、研究分野の裾野の拡大を目指すことを目的とするものでございます。

基金の事業といたしましては、学生に対する修学支援、それから2番目に若手研究者に対する研究支援、3番目にその他基礎研究を実施するための研究環境の整備と、この3つを実施する予定ですけれども、設立当初は基金の規模もございまして、大隅栄誉教授の思い入れの深い学生に対する修学支援からスタートしたいというふうに思っております。その後、若手研究者に対する研究支援へと拡大していく予定にしてございます。それぞれある程度長期的に実施したいと思っておりますので、ぜひ皆さま方のお力添えを賜りたくどうぞよろしくお願い申し上げます。

大隅良典栄誉教授挨拶

司会:続きまして、大隅良典栄誉教授から、本基金についてのコメントをいたします。

基金設立への想いを語る大隅栄誉教授

基金設立への想いを語る大隅栄誉教授

大隅栄誉教授(以下、大隅):私の名を冠した基金ということに関しましては若干躊躇することはあるのですが、ノーベル賞の受賞を機に子供たちの(なりたい)職業の2番目に研究者・学者がなったということもあって、これを機に基礎科学に関することが少しずつ世の中に浸透すればいいのかなと思って名前を冠した基金を東工大の全体の基金のなかに位置づけていただくことになりました。

私、いろいろな機会に申し上げていたんですけれども、次の世代を担うのはまさしく若者でありまして、若者がいかに元気かということが社会の未来を決めていると私は思うので、なるべく若者の支援をして、例えば小学校中学校といろいろなレベルがあるんですけれど、高校から大学に進学してくる人への支援のシステムがまだ薄いので、そういうことがあったらいいなと私は思っている次第です。

私の経験からも、大学に入学した時に全国からいろいろな人が集まってきて、そこからゼロから大学生活を始められるというのは人生の中で数少ない大事な時期だと思うので、全国からいろいろな人が東工大に集まって来てくれるという支援になることを私は願っております。もう一つ、常々、基礎科学の振興を申し上げてきたのですが、それに関しては全国的な支援組織ができないかと一生懸命思案しているところなので、まずは東工大の学生支援のためということで大学と話をして進めさせていただいた次第です。

もちろん長年続くためにはたくさんの人に支援していただくことが必要で、1年でも2年でも長く継続されるようなシステムになってくれればいいなというふうに思っています。

まずは学士課程学生の支援からスタート

司会:それではこれよりご質問をお受けいたします。

記者:まず大隅先生にお尋ねしたいのですが、この基金に大隅先生が寄附いただいた額を出来ればお伺いしたいというのがまず1点です。

大隅:ノーベル賞の賞金に近い金額ということで1億円寄附させていただきました。

記者:学長にお尋ねしたいのですが、寄附を募るのは広く一般の方からという理解で宜しいでしょうか。寄附の単位、いくらからというのは決まっていますか。

学長:一口あたりの金額は決まっておりません。広く一般からのご寄附をお受けしたいと思っております。

記者:対象者は平成30年度入学者からということですが、人数の規模は固まっていますか。そうした場合、金額は毎年度どれくらいずつ必要になってくるか教えていただけますか。

学長:体制作りに入ったところですので、まだ人数は決めてございません。学士課程に入ってこられる学生さんに月に5万円から10万円くらいの支援をできればということになりますので、寄附金の規模、それからそれがどのくらい続けられるかということを判断して、どのくらいの数に差し上げるかということを決めますので、もう少しお待ちいただければと思います。

記者:基金の全体の規模、現在段階でおいくらくらいなのかということと、先ほど博士課程(を対象)という話がありましたが、学士課程と修士課程の学生さんを対象になさるご予定はないのかを改めてお願いします。

学長:現在の東京工業大学基金の規模はおよそ30億円でございます。いろいろな事業に使わせていただいているところでございます。それから、現在の時点では、大隅先生のご希望でございます学士課程に入ってくる学生に大隅良典記念基金を使用する予定でございますけれども、その他、学部、大学院を問わず、大学としては奨学金をいくつか持っておりますので、大隅良典基金としては、学士課程からスタートしたいと思います。

記者:繰り返しで恐縮ですが、今回の大隅基金ではドクターの学生さんを。

学長:学士です。学士課程に入学してくる学生です。

記者:あ、学士ですね。普通の大学1年生から4年生を対象とすると。

学長:いや、学士に入ってくる学生を入学から4年間サポートしようという形でございます。

記者:じゃあ、普通の大学1年生を対象にして、基本的には4年間ずっと継続してという理解で宜しいでしょうか。

学長:はい、そういうことを考えております。

記者:先ほど、大学全体の基金の規模は30億円程度とお伺いしましたけれども、大隅記念基金に切り分けての規模はどの程度でしょうか。

学長:大隅記念基金は大隅先生からのご寄附を原資にこれから広く一般に、使途を特定した形の寄附を受け付けて進めていきたいと思っております。

記者:じゃあ、大隅基金としては1億円でスタートということで宜しいでしょうか。

学長:はい。

記者からの質問に答える三島学長

記者からの質問に答える三島学長

記者:三島学長に確認させていただきたいのですが、1番の柱である高校生への支援について平成30年度入学者から開始ということですが、初年度としてはどの程度の人数を目指しているかを。

学長:まだ何名というのは、どの位続けられるかなどいろいろなことを考えないといけないので、当初は数名ではないかと思いますが、確定しているわけではございません。

記者:高校からの推薦でということですが、たとえば「経済的に困難な」という基準は大体どれくらいを想定されているのでしょうか。

学長:それも非常に難しいところでございます。文科省が給付型の奨学金の額のガイドラインをある程度出していますし、ある程度の条件を課しております。東工大に入学してくる学生への授業料免除や、日本学生支援機構(JASSO)(の奨学金)の基準など、さまざまな条件がございます。それらを並べてみて、文科省やJASSOの基準をベースに今回の大隅基金の対象となる学士課程新入生に対する条件もこれから作り上げていくことになります。

記者:金額についてなんですけれども、先ほど5万~10万円ということでしたが、4年間の学費すべてを免除する、もしくはそれに値する額を支給するのではなく、月々、一定額を支給して、そのお金を生活費に使うのか、学費に使うのかは学生さんの自由ですよと、そういうイメージでしょうか。

学長:そういうイメージで宜しいと思います。

記者:少し気の早い話かもしれませんが、平成30年から支援を開始するにあたって、この基金で支援を受ける学部生に向けてどういった学生生活を送ってほしいか、またどういう研究をしてほしいといったメッセージがあれば、お願いします。

大隅:私は、学生は自分のやりたいように学生生活をエンジョイするというのが基本だと思っているので、それ以上、特に言うことはありません。

今後の支援の広がり

記者:すぐには(若手研究者への研究支援を)スタートしないということですが、若手研究者への研究支援というのは先生の中ではどのようなことをお考えでしょうか。

大隅:いろいろなところで言ってるんですけど、若手の研究支援というのは大学、というか今の大学の支援と切り離しようがなくてですね、若手だけが幸せな研究環境というものはないんです。日本全体の研究環境が良くなることが、若い人が研究できる環境だと思っていますので、いろいろなシステムを作ってみたいと思っています。それには何十億かかかるかもしれませんが、そういうことが出来ないかと考えています。もちろん若手研究者の支援はその一つですが、いろいろな仕掛けがあると思っています。国の支援がないところで、社会的にも気運が盛り上がっている今、うまく組織化されないかということを考えているところです。

記者:具体的な仕組みとして海外などの仕組みでこういうのを取り入れられたらとか、今の段階では理想像かもしれませんが、先生の中でモデルになることや、どういった支援をしてみたいというのはありますか。

大隅:海外と日本では社会構造が違って、アメリカには大金持ちがいて桁外れの支援をするようなことがありますけれども、日本では必ずしもそうではないので、それは日本の社会にあったようなシステムを作らないといけないと思っています。いろいろな方と接して、そういうことは夢みたいに難しくて、でも本当にうまくやればそういうことが出来て、社会全体が科学を支えて、科学が文化の一翼を担っているんだという認識が広がることだと思っているので、そういうことに繋がればと思っています。

記者:これからおやりになる若手研究者の支援に関して、若手研究者の定義について、一般的には35歳以下といわれますが、先生は年齢でもなんでも結構ですので、どのようにお考えなのかということと、今、特に製薬企業などを始めとして、グローバル化が進んで日本の企業の研究者自身もかなり厳しい状況にこれからなっていくような傾向がある中で、企業の特に若手研究者に対して、先生から何かコメントがあればお願いできますか。

記者からの質問に答える大隅栄誉教授

記者からの質問に答える大隅栄誉教授

大隅:今回の問題として大変重要な気がするんですが、若手にお金をあげたら「ほら、研究ができるよ」というものではないというのは私が常々考えていることで、ですから35歳以下の人に支援したらそれが若手支援になるとは私は思っていません。例えば、今50代の教授で本当に研究がしたいのにお金がない、そういうところにいる若手が元気なはずがないので、それは日本の大学が抱えている問題そのものであると思っています。こういうことは一気に、例えば100億円集めてみても研究費からいったらすぐに使い切ってしまうものなので、あまり大ぼらを吹くつもりはないのですが、一つの典型ができて、こういうことをするとこんないいことがあるよ、という典型作りをしたいと思っています。

それから企業の方の話は、日本は大学と企業の関係が非常に今希薄になっていて、企業はグローバル化っていったら、海外に出してなんとかとか、海外の企業を買収することがグローバル化だという認識が広がっているような気がしていて、もっと大学と企業が「この製品をつくります」というような協力ではない、もう少しいい協力関係がないことには企業の研究者も1年、2年ごとにテーマが変わってくる仕事をしていて、なかなか成果が出ないということが現実に起こっていると自分の近くの分野ではそう思っているので、企業も含めて、危機感を持っている方も結構いらっしゃるので、長期的な研究ができるための仕掛けができればいいなと思っています。

記者:すでに大学全体の基金の中にも研究者支援のメニューはあると思いますが、そこでの研究者支援と、今日創設される大隅先生の基金での研究者支援とはどう差別化していく方針でしょうか。

学長:そのあたりの体制はこれから検討することになります。東工大基金で行っている研究支援というのは、まず、本当の若手、まだ科学研究費に申請できるか、そのちょっと手前かなというもの、われわれは「研究の種」と呼んでおりますが、それに対する支援、次に非常に活発に新しいものに取り組んでいる若手研究者に「東工大挑戦的研究賞」というものがございます。それから、最前線で活躍している若手研究者に、さらに活発に研究していただくための「東工大の星」という基金の使い方がございます。この3つが柱でございますので、これを強化していくのか、新たなジャンルを作るのか、それはこれから体制を検討していきますが、大隅先生にご寄附いただいたものに一般からご寄附いただくものを加えてその予算の規模を見ながらできるだけ支援していきたいと思っております。

記者:若手研究者への支援や基礎研究の環境整備はいつぐらいから始めたいとか、ポストに使うのかなど、現時点で想定されているものがあればお願いします。

学長:現時点では、まだそこまで想定できておりません。まず、新しく入ってくる学生の支援の規模がどの位で何年くらい続けるかをベースにして、それから一般の方々からの寄附の規模を見ながら判断することになりますので、申し訳ありませんが、今のところまだ決めておりません。

記者:三島学長と大隅先生にお訊きします。ノーベル賞受賞決定後、大隅先生が基金の話をされた後に、かなり高額の寄附が東工大の方にあったと聞いているが、お話いただける範囲でお話いただければということと、大隅先生にお訊きしたいのですが、ノーベル賞を取った人の社会的責任といいますか、例えば本日の記者会見に出てきてメディアの前で話したりすることも受賞者の社会的な責任という役割という側面もあると思いますが、一方で先生は研究に戻りたいということも以前おっしゃっていて、受賞者の果たすべきこれからの役割と研究者としての時間の使い方、この1年くらいは社会的役割を十分に果たしていかなくてはいけないのかなとか、今どういうご心境なのかをお訊きしたいと思います。

学長:始めのご質問ですけれども、確かにすでにお申し入れがあったという状況ですけれども、今日この基金が発足し、そこに組み入れることについて寄附者の方へのご同意を得たりする手続きがございますので、額についてはご勘弁いただければと思います。

大隅:私に対する質問ですけれども、確かに私にとっても大変重い問題で、私は何をしているんだろうという気分にさせられることがある日々を送っているのですが、おっしゃる通り、あるところは社会的責任を感じています。今までの受賞者の方に聞いても1年くらいはしょうがないよと言われています。ただ私の残されている時間はそんなに長くないと思っているので、その点ではこのままでよいのかという気持ちは非常に強く持っております。たびたび言っていますが、ノーベル賞だけが特別に扱われる風潮はいかがなものかと思っている反面、ノーベル賞が特別であることも感じていますので、そういうことを十分考慮しなければいけないとも思っています。いろいろな基金を集めようということに関しては私の友人やこれまでのノーベル賞学者の30名くらいが署名を集めて、組織づくりをしようよと言っていますので、そういうことも含めてノーベル賞をもらってしまった人間の責任を少しは果たさないといけないかなということを思っております。

記者:選考にあたって大隅先生ご自身も関わるのでしょうか。

大隅:すべて大学に預けたいと思っております。私はそこには関わらないでおきたいというふうに個人的には思っておりますが、まだ大学と詰めておりませんので、選考組織、選考基準をどうするかは非常に大切な問題であると思いますが、それも含めてあまり私が表に出るということは一切なくして、大学の見識に任せたいと思っています。

記者:学長はどうお考えでしょうか。

学長:大隅先生のご希望に沿った支援ですので、先生にご相談することもあると思いますし、選考の過程でも状況報告をしていきたいと考えております。

一般の方からのご寄附について

記者:一般からの寄附の募集なんですけれども、1月から受け入れを開始とありまして、これは今日からという認識でよろしいでしょうか。

学長:大隅良典記念基金は今日スタートと思っていただいてよろしいんですけれども、すでにそういう趣旨に関して寄附したいという申し入れもございますので、今日から大隅良典基金へこれから寄附していただくものと合わせて組み入れていくということでご理解いただければと思います。

記者:広く一般の方に寄附に募るとのことだが、寄附をしようとしている方に対して大隅先生から何かメッセージがあれば。

大隅:なかなか日本では寄附する行為はポピュラーではありませんが、そういう方はたくさんいらっしゃると感じています。是非そういうことが社会貢献の一つとして、世の中に認知されたらいいと思っているので、そういうことを呼び掛けて、ご協力をいただきたいと申し上げたいと思います。

司会:それでは、所定の時間が参りましたので、本日の記者会見はこれで終了させていただきます。本日はご出席いただきまして、誠にありがとうございました。

公開日:2017年5月9日