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酸化チタンの新機能を発見 ―薄膜形状で超伝導を実現―

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2017.10.03

要点

  • 地球上のありふれた元素を活用した高機能材料の創製に寄与
  • 2つの異なる組成の酸化チタンを薄膜形状に合成し、組成・構造を決定
  • 実験的に未解明だったバイポーラロン超伝導の発現の可能性

概要

東京工業大学 物質理工学院の吉松公平助教と大友明教授は、物質・材料研究機構と共同で、光触媒材料として知られる二酸化チタンの類縁化合物である七酸化四チタン(Ti4O7)とガンマ型の五酸化三チタン(γ-Ti3O5)で超伝導が発現することを発見しました。

研究グループは、パルスレーザ堆積法[用語1]と呼ばれる手法を用いて、高温・強還元の環境下で酸化チタンの薄膜合成を行いました。大型放射光施設SPring-8での高輝度放射光X線回折実験で、合成した薄膜の組成・結晶構造をTi4O7とγ-Ti3O5と決定しました。また、電気抵抗率の温度依存性から極低温で電気抵抗がゼロになる超伝導現象が発現することを見出しました。これらの超伝導は、過去に理論的に予測されていながら、実験的には実証されていないバイポーラロン超伝導[用語2,3]である可能性が考えられます。

今回発見した超伝導体の最高転移温度は、液体ヘリウム温度[用語4]を超える7ケルビンであり、安価で安定な酸化物超伝導体として応用が期待されます。今回の研究成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」に10月2日に公開されました。

研究成果

酸化チタンは、光触媒材料として知られる二酸化チタン(TiO2)を代表として、チタンと酸素の構成比率に応じて、複雑な組成・結晶構造を取る材料系です。研究グループは、酸化チタンの多様性に着目し、薄膜形状での組成・結晶構造の制御を試みました。その際、パルスレーザ堆積法という手法を用い、高温・強還元の環境下で酸化チタンの薄膜を合成し、TiO2とは異なる酸化チタンを得ました。大型放射光施設SPring-8での高輝度放射光X線回折実験により、得られた酸化チタンが七酸化四チタン(Ti4O7)とガンマ型の五酸化三チタン(γ-Ti3O5)の組成・結晶構造を持つことを明らかにしました(図1)。また、これらの薄膜の電気抵抗を測定し、極低温で電気抵抗がゼロとなることを見出しました(図2)。磁化測定からは完全反磁性[用語5]も得られており、超伝導が発現していることを明らかにしました。特にγ-Ti3O5においては、液体ヘリウム温度(4.2ケルビン)を超える7ケルビン以下で超伝導が観測されており、安定で安価な酸化物超伝導材料としての応用が期待されます。また、電気を通さない絶縁体のTiO2と組み合わせることでジョセフソン素子形成が可能となり、シリコンを超える高速スイッチング素子材料への適用も期待されます。

今回作製した酸化チタンの結晶構造。左が七酸化四チタン(Ti4O7)で右がガンマ型五酸化三チタン(γ-Ti3O5)。Ti4O7はせん断面と呼ばれる周期構造を持ち、TiO6八面体鎖を形成している。
図1.
今回作製した酸化チタンの結晶構造。左が七酸化四チタン(Ti4O7)で右がガンマ型五酸化三チタン(γ-Ti3O5)。Ti4O7はせん断面と呼ばれる周期構造を持ち、TiO6八面体鎖を形成している。
今回発見した酸化チタンの超伝導。左が七酸化四チタン(Ti4O7)で右がガンマ型五酸化三チタン(γ-Ti3O5)。γ-Ti3O5では、磁場なしの状態で液体ヘリウム温度を超える7ケルビンから超伝導状態が発現している。
図2.
今回発見した酸化チタンの超伝導。左が七酸化四チタン(Ti4O7)で右がガンマ型五酸化三チタン(γ-Ti3O5)。γ-Ti3O5では、磁場なしの状態で液体ヘリウム温度を超える7ケルビンから超伝導状態が発現している。

研究の経緯

超伝導体は、核磁気共鳴画像法(MRI)により医療分野で活躍し、送電ケーブルやリニアモーターカーなどへの応用が期待される重要な技術です。超伝導材料としてMgB2鉄ヒ素系超伝導体[用語6]銅酸化物系超伝導体[用語7]がよく知られています。大気環境下での安定性の観点から、酸化物系材料が望ましいと考えられていますが、銅酸化物超伝導体にはランタンやイットリウム等のレアメタルが必須で、コストがかかります。そのため、安価な酸化物材料での超伝導体開発が望まれていました。

地球上に豊富にある元素を活用して高機能材料を創製することは今日の材料科学における大きな課題です。この観点から文部科学省の支援を受けて、東京工業大学 元素戦略研究センター(研究代表者:細野秀雄 教授)が平成24年に設立されました。研究グループは、この拠点で環境に対して無害で安定な遷移金属酸化物を用い、超伝導体をはじめとする新機能性材料に関する研究に着手しました。本研究では、光触媒などで実用化されている二酸化チタンと同様に、酸素とチタンのみからなる安価な原料を用いて超伝導体開発を行いました。酸素はクラーク数で1番目、チタンは10番目と共にありふれた元素で酸化チタンは構成されています。単純な構成元素ながら様々な組成と構造を持つ酸化チタンの多様性を生かし、今回、Ti4O7とγ-Ti3O5薄膜の合成と超伝導の発見へとつながりました。

これまでバルク(塊)形状の試料を用いてこれらの酸化チタンの物理的性質が調べられてきました。チタンを他の元素で置換したり、高い圧力を加えたりすることで、電気を流す金属になることは知られていたものの、超伝導が観測された例はありませんでした。Ti4O7については過去の理論的研究で超伝導の発現が予言されていました。これは、バイポーラロン超伝導と呼ばれる機構に基づくものであり、その機構の正しさを実験的に証明するには、まず超伝導が実際に発現することを確かめる必要がありました。Ti4O7の結晶構造は、実際にバイポーラロンが安定に存在しうる形状をしています。せん断面で切断されたTiO6八面体が直線上に伸びた鎖のような形状をしており、この鎖の中には2つの電子が存在すると考えられています(図1)。また、これら電子2つ(バイ)が結晶格子と相互作用(ポーラロン)することで、バイポーラロンを形成すると考えられています。興味深いことに、Ti4O7に見られるTiO6八面体鎖が存在しないγ-Ti3O5においても超伝導が観測されています。一方で、Ti4O7とγ-Ti3O5の両試料が室温から超伝導転移温度に至るまでの電気抵抗変化はとても似通っており(図3)、両試料の超伝導の発現機構に何らかの共通点が存在する可能性が示唆されます。

超伝導の発現機構に関係なく、今回特殊な結晶構造を基板で支持した薄膜形状で形成したことや、酸素量の微妙な制御により理論的に予測されていた電子状態を実現したことが鍵となり、超伝導の発見へとつながりました。

酸化チタンの抵抗率の温度依存性。赤が七酸化四チタン(Ti4O7)で青がガンマ型五酸化三チタン(γ-Ti3O5)。両者が非常によく似た電気抵抗率を持つことがわかる。
図3.
酸化チタンの抵抗率の温度依存性。赤が七酸化四チタン(Ti4O7)で青がガンマ型五酸化三チタン(γ-Ti3O5)。両者が非常によく似た電気抵抗率を持つことがわかる。

今後の展開

研究グループは今回、安価な酸化チタンを用いた超伝導体を発見しました。今後は、薄膜構造や組成を変調させることで、より転移温度が高い物質の創製を目指した研究を進める予定です。また、バイポーラロン超伝導の発現機構を実験的に証明することで、新たな超伝導物質群の開発指針につながることが期待されます。

Ti4O7の理論的な超伝導の発現の予言は、例えば「強い電子-格子相互作用を示す擬二次元系における超伝導と電荷密度波に対する多ポーラロンの理論」(K. Nasu "Many-polaron theory for superconductivity and charge-density waves in a strongly coupled electron-phonon system with quasi-two-dimensionality: An interpolation between the adiabatic limit and the inverse-adiabatic limit" Physical Review B 35, 1748 (1987))などで提案されていた。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

  • 文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 若手研究(A)
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)

用語説明

[用語1] パルスレーザ堆積法 : 高密度の紫外レーザを用いて原料をプラズマ化し、基板へと原料を堆積する薄膜合成手法の一つ。酸化物材料の薄膜合成に多く用いられています。

[用語2] バイポーラロン超伝導 : 2つのポーラロン[用語3]が格子振動を介してペアを組み、それらが超伝導電流を担うクーパー対のような役割を果たして発現する超伝導の機構を指します。

[用語3] ポーラロン : 結晶格子との相互作用を受けた電子。

[用語4] 液体ヘリウム温度 : 原子番号2のヘリウム(He)の大気圧下での沸点である4.2ケルビンを指します。これ以上の温度は液体ヘリウムを寒剤に用いることで達成されるため、超伝導転移温度の目安の一つとなっています。

[用語5] 完全反磁性 : 超伝導体が持つ特徴の一つ。超伝導状態では物質の内部に磁場が全く侵入しなくなる現象であり、マイスナー効果とも呼ばれます。対象物質が超伝導体であれば、ゼロの電気抵抗と完全反磁性の両方が観測されます。

[用語6] 鉄ヒ素系超伝導体 : 鉄を主成分として含む化合物の中で超伝導転移を示す化合物の総称。いずれも超伝導の発現に鍵となるFeAs層を有します。

[用語7] 銅酸化物系超伝導体 : 1986年に発見された銅(Cu)と酸素(O)を含む超伝導体の総称。結晶構造の中にCuO2面を有するという特徴があります。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Superconductivity in Ti4O7 and γ-Ti3O5 films
著者 :
K. Yoshimatsu, O. Sakata, and A. Ohtomo
DOI :

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