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鉄系高温超伝導物質の発見が世界的なブームを巻き起こす

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公開日:2009.01.07

要約

本学フロンティア研究センターの細野秀雄教授を中心とする研究グループによる「鉄系高温超伝導物質の発見」が,一大研究ブームを世界中に巻き起こしている.細野教授の研究グループは鉄系の化合物が絶対温度32度と高い温度で超伝導を示すことを発見し,2008年2月「米国化学会誌」にオンラインで発表した

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

本学フロンティア研究センターの細野秀雄教授を中心とする研究グループによる「鉄系高温超伝導物質の発見」が,一大研究ブームを世界中に巻き起こしている.細野教授の研究グループは鉄系の化合物が絶対温度32度と高い温度で超伝導を示すことを発見し,2008年2月「米国化学会誌」にオンラインで発表した.

 この発見は超伝導研究に極めて大きな反響を及ぼした.超伝導を示す物質としてはこれまでに,金属系と銅酸化物系の2種類の物質が発見されている.銅酸化物系は,高温超伝導物質としても知られる.鉄系超伝導物質は,金属系および銅酸化物系のいずれとも異なる第3の材料系であり,第2の高温超伝導物質であり,これまで超伝導の発現を阻害する代表的成分であった鉄の化合物で高い転移温度を示し,これまでの常識を覆す発見と捉えられたのである.しかも,この系では非常に数多くの元素の組み合わせが考えられる.「手付かずの鉱脈が新たに発見されたようなもの」と細野教授は語る.

 このため,2月の学会論文発表の後,鉄系高温超伝導物質の研究に取り掛かる研究者が続出した.いち早く対応したのは中国の4つのグループの研究者で,絶対温度55度で超伝導の兆候を示す鉄系高温超伝導物質を6月に発表した.米国の研究者は,鉄系高温超伝導物質が磁界に強い(磁界を加えても超伝導状態が壊れにくい)ことを6月に明らかにした.

 学会論文の影響力は通常,元の論文(原論文)がその後の論文でどのくらい引用されたかで測定される.細野教授らが2月に発表した原論文を引用した学会論文の数は,2008年12月中旬の時点で250件を超えた.この引用件数は通常では考えられないくらいの,ものすごく多い件数である.いかに多くの研究者が鉄系高温超伝導物質の研究に精力的に取り組んでいるかの証拠と言える.

 また2008年6月以降,鉄系高温超伝導物質をテーマとする国際学会が毎月1回を超えるペースで開催されている.このことからも,物理学および化学の研究分野では,鉄系高温超伝導物質が世界的なブームとなっていることが分かる.

 もちろん細野教授の研究グループも精力的に研究を続けている.2008年4月には高圧下で超伝導転移温度が43Kまで上昇することを日本大学文理学部の高橋博樹教授らと共同で明らかにし,英科学誌「ネイチャー」に掲載した(https://www.titech.ac.jp/news/pdf/research/hosono-080424.pdfPDF).この温度は金属系超電導物質で最高の転移温度を示す二ホウ化マグネシウムの41Kを凌ぐものであった.

 続く6月には,鉄の電子そのものが超伝導電子となっていることを東北大学高橋隆教授らと共同で見出した(http://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_release/pdf2008/20080610.pdfPDF).鉄は従来は超伝導と相性が悪く超伝導を壊すと考えられてきた材料であり,驚くべき発見である.

 9月には,エピタキシャル薄膜の作製に成功した(https://www.titech.ac.jp/news/pdf/research/hosono-080905.pdfPDF).超伝導デバイスの作製には薄膜化が不可欠なだけに,エピタキシャル薄膜の作製は重要な成果だ.

 そして12月.米国の権威ある科学雑誌「Science」は2008年12月19日号で,科学分野における「2008年の10大ブレークスルー(Breakthrough of the year)」の一つに鉄系高温超伝導物質の発見を選んだ.10大ブレークスルーの多くは遺伝子工学や分子生物学などのバイオ分野に関するもので,物理学および化学に関するものは鉄系高温超伝導物質の発見だけである.2008年の物理学/化学界で最もエキサイティングな話題は「鉄系高温超伝導物質の発見」だったと言えよう.

 2009年になっても鉄系高温超伝導物質の研究ブームは収まる気配を見せない.それどころか,さらに加熱しそうな勢いである.今年も,鉄系高温超伝導物質からは目が離せない.

図1 鉄系高温超伝導物質(LaOFeAs系)の結晶構造

図1 鉄系高温超伝導物質(LaOFeAs系)の結晶構造.酸素(O)イオンがフッ素(F)によって置換されることで,電子が鉄ヒ素(FeAs)層に注入される

図2 超伝導転移温度の年次推移

図2 超伝導転移温度の年次推移.緑色のプロットで「層状オキシプニクタイド系」とあるのが鉄系高温超伝導物質.2006年に4Kの物質が,そして2008年2月に32Kの物質が発見が細野グループによって発表された.

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