研究

東工大ニュース

共食いする"毒蜘蛛"中性子星を発見

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公開日:2012.03.22

要約

重い星がその一生を終える時、巨大な爆発とともに半径10キロm程の小さな「核(コア)」が残る。その密度は1立方センチあたり10億tにも相当し、さながら巨大な原子核にも例えられ「中性子」星と呼ばれる。

近年、日米欧が開発したフェルミ衛星は、強いガンマ線を放射するにも関わらず、他の波長では全く知られていない謎の天体を発見した。その正体を明かすべく我々は全国の天文台やX線天文衛星すざくを総動員した観測キャンペーンを実施、その結果4.63時間の周期で明るさが40倍も変化する激しい強度変動を得た。他方、電波で対応する天体は相変わらず発見されていない。この周期は中性子星が連星系を為すことを示唆し、伴星の質量は太陽の1/10程度と軽い。これは、中性子から吹き出す強力な風で伴星が溶かされ、今まさに蒸発しつつあることを示唆する。電波で検出されていない事実と併せ、新種のパルサー天体を発見した可能性が高い。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

1.研究背景 ~フェルミ衛星の発見した正体不明のガンマ線源~

図1—フェルミの検出したガンマ線天体の内訳。その多くは我々の銀河系内/外のブラックホールであったが、
3割以上は依然として正体不明である。

 日米欧が開発し、2008年6月に打ち上げられた「フェルミ」ガンマ線天文衛星は、非常にエネルギーが高く透過力の強い電磁波の一種「ガンマ線」を使って全天をくまなく探査しています。我々の目に見える「可視光」も電磁波の一種ですが、フェルミ衛星の観測するガンマ線は、それより100億倍以上高いエネルギーを持つ電磁波です。このようなガンマ線を放射する天体では、電子や陽子などが非常に高いエネルギーにまで加速され「宇宙線」が作られていると考えられ、このメカニズムを解明することが現代の天体物理学における最も重要なトピックの一つになっています。この様な天体現象は、近年ヒッグス粒子の解明に向け注目を集める大型加速器LHC(CERN)を用いても到底実現することのできない、超高エネルギー・巨大かつ極限の物理現象です。

 フェルミ衛星の主検出器には日本の浜松ホトニクス社製の高性能半導体センサーが使われており、そのガンマ線検出感度は過去の衛星に比べて圧倒的に高く、精細な画像を撮ることができます。このおかげで、今まで知られていなかった「ガンマ線で明るく輝く」正体不明の天体が数多く発見されています。実際、フェルミの見つけたガンマ線天体の実に約3割が、未だ謎のまま残されているのです(図1)。これらの正体を解明すべく、私たちの研究グループでは 2009年からX線天文衛星「すざく」や地上望遠鏡を使ってガンマ線天体の詳細なフォローアップ観測を行ってきました(参考文献 [1],[2])。今回紹介する“毒蜘蛛中性子星” 2FGL2339.6-0532も、その観測の一環で発見されました。

図2— フェルミが観測した「ガンマ線」で見た宇宙。中央の明るい帯は我々の天の川銀河に対応する。
黄色丸は「毒蜘蛛中性子星」の位置を示す。

2.正体不明の天体2FGL2339.6-0532

 今回ご報告するガンマ線天体2FGL2339.6-0531は、私たちの天の川銀河面から離れた位置にある明るいガンマ線源です(図2—黄色丸)。これは星座でいうと「みずがめ座」の方角にあたり、肉眼でみると星の少ない秋の天域に対応します。

 この天体への最初のアプローチは、米国のX線天文衛星「チャンドラ」を用いた正確な位置決めから始まりました。チャンドラは1秒角(0.0003度)という優れた解像度を持っており、フェルミの予想した天体位置の誤差円の中から、対応すると思われる点光源を発見しました。この正確な座標情報を元に、国立清華大(台湾)・東工大・早稲田大を中心とする研究チームが可視光での追観測を行い、可視光対応天体の明るさが激しく変動していることを発見しました。さらに、国立清華大のKong教授らは鹿林天文台の1m望遠鏡を使い、その光度変動が4.63時間の周期性を持つことを初めて捉え、この天体が二つの星がペアになって公転する「連星系」であることを明らかにしました(参考文献[3])。また、これらの可視光観測で我々が見たものは、この連星系を成している「伴星」の方であり、太陽の1/10程度の小さな恒星らしいことがスタンフォード大学(米)のグループから報告されています(参考文献[4])。

3. 日本の総力を結集して「相方」の正体を暴く

 残る問題はこの連星系の主星の正体です。通常、太陽の1/10しかない小さな恒星がガンマ線でこれほど明るく輝くことはなく、ガンマ線は主星から放射されていると考えられます。これまでに観測されたガンマ線連星の多くは、中性子星もしくはブラックホールを主星としていましたが、チャンドラのX線データはどちらかと言えば中性子星の特徴を備えています。しかしながら、高速で回転する中性子星(パルサー)に特有の「パルス放射」が電波で全く見られないことから、その正体は謎のままでした。そこで我々は日本の総力を結集してこの天体の謎に挑みました。

3.1 観測連携ネットワークによる光・赤外線マルチカラー観測

 これまでにKong教授らの行ってきた可視光観測は単色での観測であり、周期性以外の物理情報を引き出すことが困難でした。一方、東工大チームは可視三色を同時に観測してきたものの、光度変動が激しすぎたために最も暗いフェーズでは正確に明るさを測ることが出来ませんでした。しかし、正体の分からない天体の観測に大型望遠鏡を長時間占有するのは難しいのが現状です。そのような中、日本の大学と国立天文台が国内外に持つ中小の望遠鏡を結びつけた地球規模の観測連携ネットワーク「光・赤外線天文学大学間連携」、通称 “OISTER:Optical and Infrared Synergetic Telescopes for Education and Research (図3)” が2011年に発足しました。

 OISTER は突発天体に対応するための観測網であり、口径50cmから2mまでの国内外の望遠鏡をフレキシブルに連携させることができます。これは長時間の連続観測を必要とする2FGL2339.6には最適な観測システムであり、東工大を中心とする研究チームは2日間連続の多色観測を計画しました。当初、観測は2011年9月29日から予定されていましたが、あいにく天気予報が全国的に雨だったために、急遽予定を2日間繰り上げて観測を行っています。このような気象のトラブルは、可視光観測では避けることのできない問題ですが、観測拠点が分散していることと中小望遠鏡の優れた機動性により、このリスクを回避することができました。結果として、国内は北海道から石垣島まで総数12の観測所、さらにはエジプト・南アフリカ・チリの国外観測所の連携により、近赤外線から可視光にわたる広い波長帯での連続光度曲線を取得することが出来ました。

 図4は伴星の明るさが軌道周期でどの様に変化するかを色ごとに描いたものです。可視光の緑(Vバンド)や赤(Rバンド)では明るさが最大で4等級近く変化しています。これは光の放射量が40倍も変化していることを意味し、伴星表面の温度が3000度から7000度に周期的に変化していることを示唆します。対照的に、近赤外線(Ksバンド)ではほとんど明るさが変化していないことから、伴星とは別の赤外線源が存在すると考えられます。

 図3— 2011年に発足した光・赤外線天文学大学間連携(OISTER)の国内外観測拠点。この研究では、これら以外にも京都産業大学神山天文台、県立群馬天文台、県立西はりま天文台、美星スペースガードセンター、国立天文台が共同研究するコッタミア天文台(エジプト)の観測協力を得て、近赤外線から可視光にいたる広いバンド幅での連続的な光度曲線を得ることに成功しました。

図4— 観測連携ネットワークOISTERで観測した2FGL2339.6-0532の近赤外線~可視光の多波長光度曲線。
各データ系列は波長の長い(赤い)方から順に、黒 = 赤外線(Ksバンド)、マゼンダ = 赤外線(Jバンド)、赤 = 赤色(Rバンド)、緑 = 緑色(Vバンド)、青 = 青色(Bバンド)の光度変化を示す。

3.2 日本のX線天文衛星「すざく」による観測

図5— M-Vロケットに結合されたX線天文衛星「すざく」(2005年/内之浦宇宙空間観測所)。

 先に紹介したチャンドラ衛星は優れた解像度を持つものの、集光力が低いため詳しい分光観測には不向きでした。このため国立清華大と早稲田大の研究チームは日本のX線天文衛星「すざく」を用いた丸二日間以上にわたる長時間観測を行いました。すざくは、日本の5番目のX線天文衛星であり、2005年に鹿児島県内之浦から打ち上げられました(図5)。この衛星は軽量ながら集光力に優れた多層薄板反射望遠鏡を4台搭載しており、X線用CCDカメラを用いた高精度な分光観測を行う事が出来ます。

 図6(上)は すざくが取得したエネルギーごとのX線光度変化を示しています。X線での振る舞いは可視光とはだいぶ異なり、1.0キロ電子ボルト以下の低エネルギー側ではほとんど明るさが変わりません。一方、2.0キロ電子ボルト以上の高エネルギー側では二山の光度変動が見られます。この振る舞いの違いは、X線の放射源がエネルギーによって異なることを示唆しています。さらに、これら2種類のX線放射がどこからやってくるのかを調べるためにスペクトル解析を行い、観測されたX線に高温の物体から放射される「黒体輻射」の成分が含まれていることを初めて発見しました(図6下)。黒体放射は放射源の温度と大きさによってそのスペクトルの形状が決まります。すざくのデータから求められた放射源の温度は約100万度(0.15 キロ電子ボルト)、これに対し放射源の大きさは半径1.6キロメートルと推定されました。このような小さな放射源は半径が10キロメートル程度の中性子星以外には考えられません。

 一般的に、中性子星(パルサー)はきわめて強い磁場を帯びて高速で自転しており、周辺空間に磁場を帯びた電子・陽電子プラズマの強烈な風を吹き出します。すざくが高エネルギーバンドで見たスペクトルはこのプラズマの特徴と良く一致し、黒体輻射成分の発見と併せて連星系の主星が中性子星であることの決定的な証拠になりました。

図6— 2FGL2339.6-0532のX線光度変化(上)とそのエネルギースペクトル(下)。
低エネルギー成分がほとんど変動しないのに対して高エネルギー成分は可視光と同期して変動している。
スペクトル解析からこの低エネルギー成分は直径約1.6 キロメートル温度100万度の領域から出ていると推測される。

図7— 観測から見えてきた「毒蜘蛛パルサー」2FGL2339.6-0532の想像図。

3. 伴星を溶かす毒蜘蛛パルサー

 ここまでの観測を総合すると、連星系の主星は高温で高速で回転するパルサーであり、周囲に強烈なプラズマの風をまき散らしているという描像が得られます。さらに、このプラズマはパルサーの傍を周回する伴星を直撃し、その片面だけを7000度にまで加熱しています。この結果、伴星の一部は蒸発して、剥ぎ取られたガスが連星系の周囲で冷え赤外線を放っていると考えられます(図7)。

 一方、伴星を7000度にまで加熱するために必要なエネルギーから見積もって、このパルサーの自転速度は1秒間に1000回転近いと推定されます。パルサーは大質量星の超新星爆発から生まれ、単独でいる場合には数万年で回転が衰え暗くなってしまいます。しかし、伴星がいる場合には“相棒”(伴星)からガスの供給を受け、数十万年の長い年月をかけて再びスピンアップして光り出すものもあります。このような天体は自転に伴う数ミリ秒周期の電波パルスを放射するため「ミリ秒パルサー」と呼ばれています。その中には長年養ってくれた相棒を溶かしてしまう凶暴なパルサーもあり、共食いする毒蜘蛛にたとえて「ブラックウィドウパルサー」と名付けられています。我々が観測した2FGL2339.6-0532もその仲間と考えられますが、ミリ秒パルサーに特徴的な電波パルスが見つかっていません。このような新種の「毒蜘蛛パルサー」は理論的に存在が予想されてきましたが、観測で見つかったのは今回が初めての快挙となります。

参考文献

  1. [1]
    前田, 片岡, 河合ほか(2011), 米国アストロフィジカル・ジャーナル誌
    (The Astrophysical Journal), vol.729, p.103
  2. [2]
    高橋, 片岡ほか(2012), 米国アストロフィジカル・ジャーナル誌
    (The Astrophysical Journal), vol.747, p.64
  3. [3]
    A.Kong, 高田, 谷津, 片岡, 高橋 ほか(2012), 米国アストロフィジカル・ジャーナル誌(The Astrophysical Journal), vol.747, L3
  4. [4]
    R.W.Romani, M.S.Shaw (2011), 米国アストロフィジカル・ジャーナル誌
    (The Astrophysical Journal), vol.743, L26

研究チーム(全員)

谷津 陽一・東京工業大学・助教

高橋 洋輔・早稲田大学・修士1年

片岡 淳・早稲田大学・准教授

河合 誠之・東京工業大学・教授

Albert Kong・国立清華大・教授

高田 順平・香港大学・研究員

ほか光・赤外線大学間連携チーム

日本天文学会 2012年春季年会 記者会見

配布資料

この資料の内容及び、画像データなどはWebページ
http://www.hp.phys.titech.ac.jp/yatsu/1FGL2339/outer
で閲覧・取得できます。

本件に関するお問い合せ先
谷津陽一
大学院理工学研究科 基礎物理学専攻 助教
電話: 03-5734-2388   FAX: 03-5734-2388

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