東工大ニュース
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公開日:2012.04.03
新世代の原子炉ニュートリノ振動実験から最初の結果
基礎物理学専攻・久世正弘研究室が推進している国際共同実験Double Chooz(ダブルショー)は、素粒子の1種であるニュートリノの新たな性質を示唆する結果を昨年の国際会議で発表しましたが、今回その論文が米国物理学会の学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ Physical Review Letters 108, 131801 (2012)」に掲載されました(注1)。
図1 建設中のダブルショー検出器の写真。
中央のアクリル容器は液体シンチレーターで満たされ、
ニュートリノが反応して生じた微弱な光を周囲を覆う390本の光電子増倍管(日本製)が検知する。
これらの光検出器は東工大で検査・測定の後ヨーロッパに送られた。
ニュートリノには3種類(電子型・ミュー型・タウ型)が存在し、飛行中にその種類が変化する「ニュートリノ振動」という現象が知られています。3種類相互の振動の強さは独立で、3つの「混合角」というパラメータで表されますが、そのうち3つ目のθ13(シータ1,3)という混合角だけは値が小さく未測定でした。ニュートリノ振動の現象を明らかにすることで、宇宙にある物質と反物質の非対称性を説明する理論の解明につながると期待されており、この「最後のニュートリノ振動」を明らかにしようと世界中で大型実験が行われています。
ダブルショー実験では、フランスChoozにある原子炉から出るニュートリノの量を1kmの距離において精密測定し、その減少量からθ13が有限の値を持つことを示唆するデータを示しました。これは昨年6月に日本の加速器実験T2Kが発表した値と矛盾せず、加速器ニュートリノの長距離(約300km)における振動と同じ現象が原子炉ニュートリノにおいても短距離で起こっていることを示す世界最初の結果です。両データを合わせると非常に高い確率でθ13が0でないことが示唆されました。
図2 測定されたニュートリノエネルギーの分布(単位はメガ電子ボルト)。
下段は測定値から予想値を引いたもの。
青線はニュートリノ振動がない場合の予想、赤線はニュートリノ振動を仮定した場合の理論値。
黒点(誤差棒付き)がデータを示す。
ダブルショー実験は従来の検出器のデザインを改良し、高い精度での測定を昨年4月から開始したところで、5年間の測定でθ13の精密測定を目指しています。同種の実験は中国にあるDaya Bay(ダヤベイ)、韓国のRENO(レノ)があり、測定を開始しています。Daya Bay実験は今年3月に更に高い精度の測定結果を論文投稿しており、今後原子炉・加速器ニュートリノ実験の双方から宇宙・物質の成り立ちの理解が進むと期待されます。
(注1)Physical Review Letters オンライン版はこちら
→ http://prl.aps.org/abstract/PRL/v108/i13/e131801
本件に関するお問い合せ先
久世 正弘 准教授、石塚 正基 助教
大学院理工学研究科 基礎物理学専攻
電話: 03-5734-2080
E-mail: kuze@phys.titech.ac.jp