研究

東工大ニュース

放射性物質拡散の追跡 -福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の行方-

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2012.06.01

要約

 東京工業大学大学院総合理工学研究科の吉田尚弘教授と東京海洋大学海洋環境学部門の神田穣太教授が共同執筆した「Tracking the Fukushima Radionuclides(福島原発事故由来の放射性物質拡散の追跡)」というPerspective(展望)が、6月1日に発行される米国の科学誌「Science」に掲載された。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

 著者らは、震災事故後、問題となっている福島第一原子力発電所からの放射性物質の放出、拡散に対する科学的な追跡の重要性について論文をまとめた。この論文は6月1日発行の米国の科学誌「Science」に掲載される。
陸域の沈着の状況は明らかになってきているものの、そのような結果を生んだ気象・降水過程、直接放出量の定量的推移、セシウム・ヨウ素以外の放射性核種の放出、沈積した粒子の再浮遊と移送、食物連鎖や地球化学的な物質循環に伴う移行などがまだ詳細には明らかではない。このように陸域でも他の場所へ輸送され、陸水域や沿岸海域などでの新たな沈積、食品をはじめとする農林水産物への移行などについて、不明な点が多く残されている。
環境や健康への影響評価に加えて、有効な除染とその効果の評価のためにも、放射性物質の輸送や拡がりについての科学的な追跡が短期的にも中長期的にも求められている。

主な内容

 陸域の沈着の現在の状況は明らかになってきているが、海洋側の状況は陸と比較して必ずしも明確ではない。一般に、物質が環境中に放出されると、物理的、化学的、生物学的な過程を経て、地球化学的な物質循環系に組み込まれる。これは自然の摂理ともいえ、物質循環系に組み込まれることで地理的に、物質的に、生物学的に移行、拡散していく。
大気へ放出された放射性物質は、事故当時に卓越していた偏西風により70から80パーセントは海側に、残りが陸側に輸送されたと見積もられている。大気により輸送された放射性物質は降水により地上へ沈着し、現在の分布が決定された。この分布を再現するモデルシミュレーションの試みは、半減期の短い131I(ヨウ素131)など現在すでに失われたデータを再現し、健康影響などの理解につなげるためにも重要である。
放射性核種としては、134Cs(セシウム134)、 137Cs(セシウム137)以外にも多種放出されたと考えられているが、ガンマ線検出器での計測が不可能である核種や、局在したり、微量である核種については、未だにあまり良く観測されてはいない。これらも引き続き観測の努力が続けられる必要がある。
沈着した物質は、さまざまな粒径の粒子として大気中に再浮遊、再飛散し、細粒の土砂は水系に沿って輸送されるなどして、移動しながら拡がっていく。現在明らかになっている放射性核種の分布は、このような移動により変わっていくことが予想される。このような過程で河口域や隣接する沿岸域に比較的濃度の高い沈積が新たに生ずるなどしている。また、食物連鎖や地球化学的な物質循環に伴う植物、農作物、水産物への移行などは、まだ詳細には明らかでない。
環境影響評価や健康影響評価に加えて、有効な除染と、その効果の評価のためにも、放射性物質の輸送や拡がりについての科学的な追跡が短期的にも中長期的にも求められている。

背景と経緯

 行政による放射性物質のモニタリングとともに、大学・研究機関、学協会などの学術機関の研究者による観測がなされている。震災直後から、日本地球惑星科学連合、日本地球化学会、日本放射化学会、日本海洋学会震災対応WG、および、核物理研究者グループなどが有機的に連携し、観測が続けられ、現在に至っているのは、その一つの例である。
また、科学的知見の公表について、日本地球化学会(GSJ、日本)とGeochemical Society(GS、米国)とEuropean Association of Geochemistry (EAG、欧州)が共催するGoldschmidt国際会議が昨年8月初旬にプラハで行われ、福島第一原子力発電所事故関連のセッション (Fukushima Review) がプレナリーセッションとして開催された。国内でも、昨年9月に札幌で開催された日本地球化学会年会や、今年5月に幕張で開催された日本地球惑星科学連合大会で特別セッションが行なわれた。

今後の展開

 上記したセッションの内容が日本地球化学会の英文機関誌であるGeochemical Journal誌の特集号Fukushima Reviewとして掲載されるように、いくつかの関連学会誌などに特集号が組まれ、公表が活発化している。これらの科学的知見が明らかになるとともに、物質循環系の総合的な解析が進むことで、環境や健康に対する影響評価が進み、有効な除染がなされ、その効果を検証していくという、今後の重要な対策に資することが期待される。

本件に関するお問い合せ先
吉田尚弘
大学院総合理工学研究科 化学環境学専攻 教授
電話: 045-924-5506   FAX: 045-924-5143
E-mail: yoshida.n.aa@m.titech.ac.jp

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