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高活性なアンモニア合成触媒を実現 -アンモニア合成の新技術として期待-

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公開日:2012.10.22

要約

窒素と水素の反応によって合成されるアンモニアは、人類が最も多く生産する化学薬品であり、その生産量は年間1.7億トンを越える勢いになっており、さらに増え続けています。アンモニアは肥料原料として社会を支えてきただけではなく、近年では燃料電池等のエネルギー源として期待が高まっています。約100年前に確立された触媒によるアンモニア製造技術は高温・高圧のプロセスが必要であり、多エネルギー消費型のプロセスです。アンモニア生産時の消費エネルギーを可能な限り低減することは、食糧とエネルギーに大きく貢献することが期待されていました。

このような背景の中、東京工業大学応用セラミックス研究所の細野秀雄教授、原亨和教授のグループは、セメントの構成成分の一つである12CaO·7Al2O3(以下C12A7)の構造の中に電子を取り込んだエレクトライドにルテニウムのナノ粒子を固定することで高性能なアンモニア合成触媒...

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

要点

  • 触媒性能が従来の10倍
  • 反応の活性化エネルギーがこれまでの半分
  • 電子を与える高い能力と水素の収納力を兼ね備えたユニークな材料

概要

窒素と水素の反応によって合成されるアンモニアは、人類が最も多く生産する化学薬品であり、その生産量は年間1.7億トンを越える勢いになっており、さらに増え続けています。アンモニアは肥料原料として社会を支えてきただけではなく、近年では燃料電池等のエネルギー源として期待が高まっています。約100年前に確立された触媒によるアンモニア製造技術は高温・高圧のプロセスが必要であり、多エネルギー消費型のプロセスです。アンモニア生産時の消費エネルギーを可能な限り低減することは、食糧とエネルギーに大きく貢献することが期待されていました。

このような背景の中、東京工業大学応用セラミックス研究所の細野秀雄教授、原亨和教授のグループは、セメントの構成成分の一つである12CaO·7Al2O3(以下C12A7)の構造の中に電子を取り込んだエレクトライド(用語1)にルテニウムのナノ粒子を固定することで高性能なアンモニア合成触媒(用語2)を実現しました。この触媒ではC12A7エレクトライド表面に固定化したルテニウムナノ粒子表面上で、窒素と水素によるアンモニア生成が進みます。そして従来の触媒と比較すると、この材料に固定化したルテニウムナノ粒子は10倍の触媒性能を発揮し、さらにアンモニア合成の活性化エネルギー(用語3)はおよそ半分になることが見出されました。これはアンモニア合成に必要なエネルギーを大幅に低減できることを意味します。この触媒の高い性能は金属カリウム並の低い仕事関数(用語4)をもち、かつ安定なことに加え、水素収容能をもつC12A7エレクトライドのユニークな物性に由来します。

本研究は 内閣府 最先端研究開発支援プロジェクト(FIRST)で実施され、10 月22 日にオンライン電子版で、「Nature Chemistry」に掲載されます。

研究の背景

窒素は食料の生産に必要な肥料の主成分であり、タンパク質を構成する元素でもあることから生命を支えるのに必須な元素です。窒素肥料は20世紀初頭までチリで採掘される硝酸ナトリウム(チリ鉱石)を窒素源として合成されてきたが、人口の増加に伴い、その枯渇が心配されてきました。そのような中、空気中の窒素を水素と直接反応させてアンモニアを合成する技術がハーバーとボッシュによって初めて見いだされ、この技術(「ハーバー・ボッシュ法、HB法」と称されます)は、1910年代に工業的に完成してから約100年経った現在でも、人類の生活を支えるために必要不可欠となっています。また、アンモニアは水素を多量に含む分子であり、室温·10気圧以上で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素の運搬の容易なキャリアとしても期待されています。

 HB法では、200-1000気圧、400-600℃という条件下で鉄を主体とした触媒下で窒素ガスと水素ガスを反応させることでアンモニアが合成されており、多大なエネルギーを必要とします。それは全人類が地球上で消費している全エネルギーの数%にも達しています。これは、窒素同士の結合が極めて強く、解離させるのに大きなエネルギーを要するためで、より低いエネルギーで窒素間の結合(N≡N)を解離できる触媒の開発が鍵となっています。HB法に代わる方法としてルテニウムをカーボンやアルミナの表面に担持した触媒が低温、低圧化に有効なことが、東京工業大学 尾崎萃、秋鹿研一(現名誉教授)らによって見出され、近年工業化されました。しかしながら、ルテニウム触媒は、水素の圧力が高くなると活性が低下してしまうという大きな欠点がありました。アンモニアは液化して回収する方が、工業的に利点が大きいため、ある程度加圧した条件(10気圧程度)で効率よく働くことが触媒の必須条件になります。

本研究で得られた結果・知見

本研究では、以下に列挙する点において、これまでのアンモニア合成用のルテニウム触媒と比較して、性能を飛躍的に向上させることに成功しました。

  • これまでのルテニウム触媒よりも活性が~10倍高い
  • 反応の活性エネルギーをこれまでの半分に低減
  • 10気圧程度の加圧条件において、性能が大きく向上

本研究で用いた触媒は、C12A7エレクトライドという細野グループが開発した物質の表面にナノサイズのルテニウムの微粒子を担持させたものであり、窒素分子の強い結合を切れやすくし、高圧の水素のもとでもルテニウムの活性を損なわせないことが成功の鍵となりました。

C12A7は12CaO·7Al2O3という石灰とアルミナから構成された化合物で市販のアルミナセメントの構成成分の一つです。C12A7は図1のように直径0.5ナノメートル程度のカゴ状の骨格が繋がった構造をしています。2003年にこのカゴの中に電子を入れると、絶縁体から電気がよく流れる状態に変化できることを発見。この金属のように電気をよく流すC12A7エレクトライドが、電子を外部に極めて与えやすい性質であることも見出していました。電子を与えやすい物質は、アルカリ金属のように化学的にも熱的にも不安定なのが一般的ですが、この物質は安定で容易に取り扱うことができます。また、化学反応が生じる表面にも図1のように電子が入ったカゴが存在する処理方法を2011年までに確立しました。

このC12A7エレクトライドにルテニウムを固定化すると、窒素と水素から非常に効率よくアンモニアを合成することができ、従来のルテニウム触媒(セシウムを添加したMgO、バリウムを添加した活性炭にルテニウムを固定化した触媒)と比較して10倍以上高い触媒活性を示しました(図1)。さらに、アンモニア合成の活性化エネルギーは、従来の触媒のおよそ半分であることも明らかとなりました(図1)。

様々な圧力条件下でアンモニア合成反応を調査すると、従来のルテニウム触媒では、触媒活性は全く向上しませんでした。これは、ルテニウム表面が解離吸着した水素原子によって覆われる現象(水素による被毒効果)によって、窒素の解離が阻害されるためであることが知られています。一方、C12A7エレクトライドに固定化したルテニウム触媒では、圧力に依存して触媒活性が大きく向上することがわかりました(図2)。これは、C12A7エレクトライドに固定化されたルテニウム触媒が水素による被毒を受けていないことを示しています。アンモニアは、液化して回収する方が、工業的に利点が大きいため、ある程度加圧した条件(10気圧程度)で効率よく働くことは、実用的観点からも意義が大きいことがわかります。

以上の結果から、C12A7エレクトライド表面に固定化したルテニウム触媒が高い触媒活性を示した原因は、次の2つの要因が考えられます。1つ目は、C12A7エレクトライドの表面では、電子がルテニウムのナノ粒子を介して窒素分子に移動するために、窒素分子が原子に解離しやすい状態になり、水素原子との反応が容易になったこと。2つ目は、C12A7エレクトライドのカゴが電子だけでなく水素を収納できる性質を有しており、水素による被毒効果を防ぐことが可能になったことが考えられます。つまり、ルテニウム粒子の表面で解離してできた水素原子は、ルテニウム上に吸着せずに、C12A7のカゴの中に収納され、その後に窒素分子が解離して窒素原子ができると速やかに反応してアンモニア分子を生成出来ることが考えられます(図4)。このように、C12A7エレクトライドの電子を与える高い能力(しかも化学的に熱的に安定)と水素を収納できる性質が今回の成果を可能にしました。

研究の今後の展開・波及効果

今回の成果により、多大なエネルギー消費型プロセスである従来のアンモニア合成プロセスの大幅な省エネルギー化が期待できます。また、C12A7エレクトライドは、カゴの中に電子だけでなく水素を収納できる性質を有することによって、ルテニウム触媒の性能を大幅に向上できることから、希少元素であるルテニウムの使用を大幅に低減できます。今後、実用化を目指す上で、C12A7エレクトライドを高表面積化することでさらなる性能向上を行うことと、新たなアンモニア製造プロセスのシステムの構築が課題となります。さらに、より詳細な反応機能の解明や、触媒としてルテニウムに替わる安価な金属の検討を行うことで、さらに優れた特性の安価な触媒材料の創出が加速されるものと考えられます。

本研究成果は内閣府総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プロジェクト(FIRST)により、日本学術振興会を通して助成されたものです。また一部はMEXT 元素戦略プロジェクト(拠点形成型)の支援を受けました。

用語解説

  1. C12A7エレクトライド:
    エレクトライドとは、電子が正に帯電した骨格とイオン結合した化合物であり、電子が陰イオンとして機能します。C12A7は直径0.5ナノメートル程度のカゴ状の骨格が繋がった構造をしており、カゴの内部に電子を入れることで安定なエレクトライドとなることが2003年に細野グループによって発見されました。この物質は金属のようによく電気を通し、低温では超伝導を示すこともわかっています。
  2. 触媒:
    触媒とは、化学反応系に少量存在して、化学反応を著しく加速したり、特定の反応だけを起こしたりするが、それ自体は反応の前後で変化しない物質です。
  3. 活性化エネルギー:
    反応の出発物質の基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことであり、このエネルギーが小さいほど、その反応は容易になります。反応中に触媒が存在することで、活性化エネルギーを下げることが可能です。
  4. 仕事関数:
    物質表面から1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーのことであり、この値が小さいほど、電子が飛び出しやすく、電子を与えやすいことを意味します。アルカリ金属のように仕事関数の小さな物質は、化学的に不安定なことが一般的。C12A7エレクトライドは仕事関数が金属カリウムと同程度と極めて小さいが、化学的にも熱的にも安定という特徴をもつ。

論文名、掲載誌および著者

Ammonia synthesis using a stable electride as an electron donor and reversible hydrogen store

(和訳:電子注入および可逆的な水素吸蔵能を有する安定なエレクトライドを使ったアンモニア合成)

掲載誌: Nature Chemistry(ネイチャーケミストリー)

著 者:北野政明,井上泰徳,山崎遥平,林文隆,神原慎志,松石聡,横山壽治,Kim Sung-Wng,原亨和,細野秀雄

お問い合わせ先

<C12A7エレクトライドについて>

細野 秀雄
東京工業大学フロンティア研究機構 教授(応用セラミックス研究所教授兼任)

〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259   郵便箱S2-13

電話 045-924-5009、ファックス 045-924-5196 e-mail: hosono@msl.titech.ac.jp

<触媒反応について>

原 亨和
東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授

〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259 郵便箱 R3-33

電話 045-924-5311、ファックス 045-924-5381 Email: mhara@msl.titech.ac.jp

図1.C12A7 の結晶構造。ナノメートルサイズのカゴから構成されています。カゴの内部には酸素イオン(青,O2-)が入っています。C12A7エレクトライドでは、カゴの内部に酸素イオンの代わりに電子(緑,e-)が入っています。

図2.様々な材料にルテニウムを担持した触媒を用いたアンモニア合成の触媒性能(黒棒)とその活性化エネルギー赤棒)の比較

図3.様々な圧力条件下で行ったアンモニア合成反応の結果。赤丸:ルテニウムを担持したC12A7エレクトライドの触媒性能、黒丸:ルテニウムを担持したセシウム添加MgOの触媒性能

図4.ルテニウムを担持したC12A7エレクトライド上でのアンモニア合成のメカニズム。C12A7エレクトライドは、カゴの中の電子がルテニウムに供与され、それが窒素分子に移動して、N≡N 結合を切れやすくするだけでなく、水素を収納できる性質を有することによって水素の被毒を抑制し、ルテニウム触媒上でのアンモニア合成反応を促進します。

本件に関するお問い合せ先
細野秀雄
フロンティア研究機構 教授
電話: 045-924-5009   FAX: 03-5734-5196
E-mail: hosono@msl.titech.ac.jp
URL: http://www.nature.com/nchem/journal/vaop/ncurrent/full/nchem.1476.htmlouter

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