- 放射性同位元素(RI)
- 物質を構成する原子核には、構造が不安定なため時間とともに放射線を出しながら原子核が崩壊していくものがある。このような原子核を放射性同位元素(RI)と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、希少同位体、ラジオアイソトープとも呼ばれる。同じ元素であっても中性子の数が異なるものを同位体と呼ぶが、同位体は安定なものと不安定なものに分類される。
東工大ニュース
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公開日:2012.10.22
理化学研究所(野依良治理事長)と東京工業大学(三島良直学長)は、あらゆる種類の放射性同位元素(RI)※1ビームのスピン※2の向きを、効率よく一定方向にそろえる手法を開発しました。これにより今まで困難だったRIの詳細な性質の解明だけでなく、RIビームをスピンの供給源として用いる物質科学などへ応用が可能になります。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)偏極RIビーム生成装置開発チームの上野秀樹 チームリーダー、市川雄一 元 基礎科学特別研究員(現 東京工業大学特任助教)らを中心とする国際共同研究グループ※3の成果です...
理化学研究所(野依良治理事長)と東京工業大学(三島良直学長)は、あらゆる種類の放射性同位元素(RI)※1ビームのスピン※2の向きを、効率よく一定方向にそろえる手法を開発しました。これにより今まで困難だったRIの詳細な性質の解明だけでなく、RIビームをスピンの供給源として用いる物質科学などへ応用が可能になります。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)偏極RIビーム生成装置開発チームの上野秀樹 チームリーダー、市川雄一 元 基礎科学特別研究員(現 東京工業大学特任助教)らを中心とする国際共同研究グループ※3の成果です。
理研仁科加速器研究センターは、2007年に世界最先端のRIビーム供給施設であるRIビームファクトリー(RIBF)※4を本格稼働させました。RIBFが供給できるRIビームの数は、史上最多の約4,000種にものぼると予想されていますが、スピンの向きを一定方向に揃える“有効なスピン操作”が行えるビームは、そのうちわずか数十種類だけでした。
スピンがそろった有効なスピン操作ができるRIビームを得るためには、スピンの向きを整列させる「スピン操作効率」と、スピンがそろったRIビームの「収量」という2つの要素を同時に満たさなくてはなりません。通常、向きのそろったスピンを抽出するためには、RIビームの成分のうち不要なものを排除しますしかし、不要な部分のみを排除することは難しく、必要な成分も同時に排除してしまうため結果的にRIビームの収量は減ってしまうという問題がありました。
そこで研究グループは、このように相反する2つの要素を両立させる新たなスピン操作法「分散整合2回散乱法」を開発しました。RIの生成反応を2段階にしてスピン操作効率の向上を図りつつ、さらに、スピンがそろったRIビームだけを抽出するスリットの数を2つから1つに減らして生成過程で起きるロスを減らし収量の減少を最小限にしました。RIBFで行われた本手法の実証実験では、スピンの操作効率と収量で決まる有効なスピン操作の測定効率が、従来に比べ50倍以上になることが明らかになりました。
RIビームは、その種類の多様性からさまざまな用途が開発されつつあります。RIBFという世界最高性能のRIビーム供給能力と、本手法による有効なスピン操作を組み合わせることによって、生成可能な「スピン操作RI」の種類が格段に増えることになります。例えば、RIBFで利用可能な全ビームは平均で約10倍、特にウランビームの場合は約50倍に増加します。これにより、未知のRIの詳細な性質に関する基礎研究が進展し、新たなRIビームをスピン供給源として用いることで物質科学などの応用研究の可能性が大きく広がることが期待できます。
本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Physics』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(10月21日付け:日本時間10月22日)に掲載されます。
Y. Ichikawa, H. Ueno, et al., “Production of spin-controlled rare isotope beams”
Nature Physics, 2012 doi: 10.1038/NPHYS2457
報道担当・問い合わせ先
(問い合わせ先)
独立行政法人理化学研究所
仁科加速器研究センター
偏極RIビーム生成装置開発チーム
チームリーダー 上野 秀樹(うえの ひでき)
TEL:048-462-7681 FAX:048-462-7494
国立大学法人東京工業大学
大学院理工学研究科 基礎物理学専攻 旭研究室
特任助教 市川 雄一(いちかわ ゆういち)
TEL:03-5734-2716 FAX:03-5734-2716
(報道担当)
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715
補足説明
図1 新手法「分散整合2回散乱法」適用時の実験レイアウト
本研究で開発した新しいスピン操作法「分散整合2回散乱法」は、2段階核反応と分散整合という2つの新しいアイデアに基づく。2段階核反応ではスピン操作効率の最大化を、分散整合では収量減少の最小化を図る。
一次ビームである48Caは、一次標的に入射して多数の陽子や中性子がはぎ取られ、33Alの二次ビームを生み出す。33Alは分散整合条件を満たしながら二次標的に入射して、1個の中性子がはぎ取られる。次に、ある特定の速度を持つ集団を選択できるスリットを通して、スピンの向きがそろったRIビームを三次ビームとして得ることができる。
図2 分散整合2回散乱法で重要な開発要素の1つである「2段階核反応」
核反応によって生じるビームの速度(運動量)の広がりを光の波長の広がり(色)に例えた。1回目の標的を通過して取り出される2次ビームは、最終目的とするRIより陽子あるいは中性子が1つだけ多い核になるように設定する。その結果、2回目の反応ではスピン操作効率を最大化することができる。これによりどのようなビームから生成されたRIでもスピン操作が可能となる。
図3 分散整合2回散乱法でもう1つの重要な開発要素「分散整合」
分散整合条件を満たすように2次ビームを輸送すると、1回目の反応で速度を抽出しなくても2回目の反応で同じ速度変化したもの、つまりスピンが整列したRIビームを網羅的に収集することができるため、スリットを省略することができる。通常は原子核の緻密なエネルギー構造を調べるのに用いる。
図4測定可能なRIの広がりを表した核図表
1日間の測定時間で原子核の磁気モーメントの値を決定できるRIの範囲をシミュレーションした。18O、48Ca…はRIBFで用いられる代表的な1次ビームの原子核を示す。赤色が従来の手法で到達可能な範囲、青色が新手法で到達可能な範囲。従来に比べて圧倒的に到達可能な範囲が広がったことが分かる。
本件に関するお問い合せ先
市川雄一
大学院理工学研究科 基礎物理学専攻 特任助教
電話: 03-5734-2716
FAX: 03-5734-2716
URL: http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys2457.html