東工大ニュース

Science & Engineering, Communication Project開催報告

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公開日:2013.09.05

昨年度からスタートした「大学の世界展開力強化事業」サマープログラム。その一環のサマースクールで今年新しい授業、Science & Engineering, Communication Project(以下SECPと表記)を開設しました。
7月3日から週1回(全4回)行われたSECPの様子を報告いたします。

昨年度第1回目のサマースクールの経験に基づき、今年度は、留学生と日本人学生、日本社会との接点を増やすことにとくに力を入れました。その接点も、単発イベントでの接点であるというよりも、一定以上の期間、一定の負荷のかかる作業において互いに協力し合い、助け合うような場を想定しました。そこで7月3日から24日までの毎週1回、全4回からなるこの授業が設定されたのです。サマースクールに参加している欧米、アジアからの留学生と東工大生には、共通のテーマが与えられました。今年のテーマは「橋を作る」。


7月3日 第1回目のグループワーク

6つのグループに分かれた留学生と東工大生は、簡単な物理学の知識に基づきそれぞれのグループでごく普通のストローを使って橋を作ります。橋は「最もコストがかからない橋」「最も美しい橋」「最も負荷に耐える橋」という3つの基準を踏まえたものでなくてはなりません。そこから各グループは設計を行い、第4回目である最終回に学外から招いた高校生に対して、留学生と東工大生がそれぞれの橋の設計や背景となる初歩的な物理学を説明し、作成させるのです。授業とグループ内、そして高校生に対しての指導とコミュニケーションもすべて英語で行うことも基本ルールとなっています。


SECPで作成した設計図をもとに
高校生を交えて橋を作成

SECPでは、約1ヶ月という期間の中で学生たちは「橋を作る」という共通のテーマを持ちつつ、自らの能力と主体性に基づいて授業に参加をしました。将来海外で仕事や研究プロジェクトに参加した際に不可欠となる、言語・国籍・文化・習慣などが異なる人間関係での複雑なコミュニケーションのシミュレーションです。 参加者の中には英語が母国語でない学生も過半数おり、彼らにとっては英語を用いて他人とコラボレーションをすることは非常にチャレンジングだったようです。一方、英語を母国語とする学生にとってもそれまで意識せず使ってきた自分の言語をきちんと相手に伝える良い訓練になったようでした。
何より、上記のような深く、高度なコミュニケーションを「楽しく」行うことがこの授業における最大の目的でした。楽しさが先立てば、そこに親しみや友情が生まれやすくなり、国籍や文化など、お互いが持つ様々な差異を理解し尊重することに繋がります。すべての参加者に「幸せな異文化経験」を経験してもらえるように準備を行い、授業を実施したのでした。一定以上の年齢になって、結果や利益を最優先するような場所で初めて多国籍・多文化の難しいコミュニケーションを経験し、そこで異文化や差異に対し不満や葛藤のほうが先立つ「不幸な異文化体験」の可能性を少しでも減らしたいと考えたからでした。
参加した東工大生、世界トップレベル大学からの留学生たち、計8カ国から構成された学生たちのバックグラウンドは学部学生から大学院生まで年齢も含めじつに多様でしたが、すでに高度な専門的知識や訓練を経た学生たちばかりでした。教員サイドからは方向性と橋作りの評価ルール、各種ガイドラインなどを示すのみで彼ら自身が試行錯誤し、最適なコミュニケーションを図る様子を見守り続けました。結果的に、こちらが予想していた以上に参加者たちは熱心に各自の課題に取り組み、議論を重ねる中でお互いの関係を育んでいく様子が見えました。テーマである「橋を作る」に関しても、どのグループも3つの評価基準に基づいたすばらしい橋も作り上げており、高校生を迎えての最終回では全員で非常に楽しく有意義な実験を行うことができました。


7月24日 橋の耐久性テスト様子

SECPの実施は今年度が初回だったということもあり、様々な課題や反省点はあります。サマープログラム全体での位置づけなども含め来年度はいっそうブラッシュアップさせたSECPを行いたいと、活動中のすべての参加者たちの活き活きとした姿と笑顔を思い出しながら考えているところです。

国際室 国際連携プランナー/特任准教授
西野可奈

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