東工大ニュース

タンパク質中の還元型チオール基の定量を可能にするDNAマレイミドの開発

RSS

公開日:2013.11.11

要点

  • DNAを利用した新規タンパク質チオール基定量用マレイミド試薬の合成
  • 電気泳動において、タンパク質の種類や泳動条件に依らない一様な移動度変化を与え、フリーのチオール基の逆算が可能になる。

概要

我々は、タンパク質中のチオール基の酸化還元状態を検出するために、DNAにマレイミド基を導入した新規マレイミド試薬(DNAマレイミド)を合成した。これは、従来用いられてきた複数のマレイミド試薬の欠点を克服するもので、幅広い種類のタンパク質に適用可能である。DNAマレイミドを用いることにより、酸化還元状態の検出のみならず、還元状態であるチオール基の数を直接決定することが可能になった。

研究の背景と経緯

タンパク質は、細胞内の状況に応じて様々な翻訳後修飾を受けている。翻訳後修飾の代表的なものの1つが、システインのチオール基の酸化である。チオール基の酸化でもっとも一般的なのはジスルフィド結合形成であるが、その他にもスルフェン化、グルタチオン化、ニトロソ化などが知られている。チオール基の酸化還元(酸化還元制御)によってタンパク質の機能が制御されていることや、チオールによる制御が生理的に重要な意味を持つことは広く知られている。チオール基の翻訳後修飾によるタンパク質の機能制御を理解するためには、個々のチオール基の酸化還元状態を検出することが必須である。

この検出には、これまで4-acetamido-4- maleimidyl-stilbene-2,2-disulfonate(AMS)やPEGマレイミドというチオール基修飾試薬が一般に用いられてきた。これらのチオール基のみに特異的に結合するマレイミド試薬を用いることで、対象タンパク質のシステインの酸化還元状態、すなわち、チオール基の数に対応した分子量の増加をもたらし、この分子量の増加は電気泳動法上の移動度変化として容易に検出できる。しかし、AMSは分子量が500程度と小さいため、大きなタンパク質(50,000~)では、移動度変化が有意にあらわれない。一方、PEGマレイミドの分子量は5,000程度ではあるが、電気泳動法で検出される移動度変化はチオール基の数と正確には一致しない。さらに、PEGマレイミドは重合反応によって合成された化合物であり、分子量分布が広いため、電気泳動法によって現れるタンパク質のバンドがブロードになる。このため、正確なチオール基数の定量が出来ない。このような点から、従来のマレイミド試薬は、チオール基が酸化型なのか還元型なのかを区別することはできても、酸化還元に関わるチオール基の数を決定することは困難だった。

研究成果

今回、我々が新規に開発したDNAマレイミドは、これらの欠点を克服し、タンパク質中のチオール基の数を直接定量することを可能にした。DNAマレイミドは、24塩基の一本鎖DNAの5'末端にリンカーを介してマレイミド基が導入された構造をもっている。DNAマレイミドは、その分子量が大きいため、AMSに比べて極めて大きな移動度変化をもたらす(Fig.1)。また、PEGマレイミドは、電気泳動条件により、得られる移動度変化が異なってしまうが、DNAマレイミドの場合は、電気泳動条件に依らない一様な移動度変化を与える(Fig.2)。DNAマレイミドの付加によって起こる移動度の変化は、タンパク質の種類や電気泳動条件に依存せず一律に9 kDa相当分であった。そのため、電気泳動上で観察される分子量のみから、還元型チオール基の数を決定することが可能になった。

Fig.1 (左) AMS と DNA マレイミドの比較 / Fig.2 (右) PEG マレイミドの電気泳動条件依存性

今後の展開

本試薬は、DNAの長さ次第で様々な大きさのタンパク質にも適用可能であり、酸化還元制御の分子レベルでの解明に用いられることが期待される。また、タンパク質に結合した後でもDNAとしての機能を損なっていないため、ハイブリダイゼーションなどを利用したさらなるアプリケーションへの応用も可能である。

論文情報
  • 著者:原怜、野島達也、清尾康志、吉田賢右、久堀徹
  • 論文タイトル:DNA-maleimide: An improved maleimide compound for electrophoresis-based titration of reactive thiols in a specific protein
  • 掲載雑誌:Biochimica et Biophysica Acta 1830, 3077 (2013)
  • Digital Object Identifier (DOI):10.1016/j.bbagen.2013.01.012outer
  • 所属:資源化学研究所

RSS