東工大ニュース
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公開日:2014.05.09
東京工業大学大学院社会理工学研究科の林直亨(はやし・なおゆき)教授らの研究グループは、急いで食べる時に比べて、ゆっくり食べる方が食後のエネルギー消費量が増加することを明らかにした。300kcalのブロック状の食品をできるだけ急いで食べると、その後、90分間のエネルギー消費量は体重1kg当り平均7calだった一方、食塊がなくなるまでよく噛んで食べた時には180calと有意に高い値だった。また、消化管の血流もゆっくり食べた時の方が有意に高くなったことから、ゆっくり食べると消化・吸収活動が増加することに関連してエネルギー消費量が高くなったものと推察される。
この成果は、ゆっくりよく噛んで食べることが良い習慣であることの裏づけとして、また咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。
本研究は、5月1日に欧州の肥満学会誌「オベシティ(Obesity) 誌」に掲載された。
被験者10名に20分の安静測定後、300kcalのブロック状の食品を与えた。その食品をできるだけ急いで食べる試行と、できるだけゆっくり食べる試行とを行った。前者では平均103秒、咀嚼回数が137回、後者では497秒、702回だった。安静時から摂食、摂食後90分までの酸素摂取量を計測し、食事誘発性体熱産生量(用語1)を算出した。また、腹腔動脈(用語2)と上腸間膜動脈(用語3)の血流量を計測した。
その結果、食後90分間のエネルギー消費量は急いで食べた試行の場合、体重1kg当り平均7calだった一方、ゆっくり食べた時には180calと有意に高い値を示した。急いで食べるよりも、よく噛んでゆっくり食べた方がエネルギー消費量が大幅に増えた。体重60kgの人がこの食事を1日3回摂取すると仮定すると、咀嚼の違いによって1年間で食事誘発性体熱産生には約11,000kcalの差が生じる。これは脂肪に換算するとおよそ1.5kgに相当する。
消化管の血流もゆっくり食べた方が有意に高くなった。ゆっくり食べると消化・吸収活動が増加することに関連して、エネルギー消費量が高くなったものと推察される。
なお、発表論文には100kcalの試験食を用いた同様の結果も掲載されている。
多くの横断研究で、食べる速さが速いと感じている人が太り気味であることが示されている。また、実験研究では早食いが過食につながることが示されていた。このように早食いが過食に関連し、それが原因で体重が増加する可能性が示唆されている。ところが、一定量の食事を摂取した場合にも、食べる速さが体型に何らかの影響を与える可能性があるのかについては明らかにはなっていなかった。
林教授らの研究グループは咀嚼をしただけで、消化管の血流量が増加することを2008年に観察している。また、消化管の血流量がエネルギー消費量と関係することが知られている。そこで、一定量の食事を摂取させた時にも、ゆっくり咀嚼した方が食後のエネルギー消費量(食事誘発性体熱産生)が増加するとの仮説を立て、咀嚼が食事誘発性体熱産生に与える影響を検討した。
ゆっくりよく噛んで食べることが良い習慣であることの裏づけとして、また咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。
用語説明
1. 食事誘発性体熱産生: |
摂食後に起こる栄養素の消化・吸収によって生じる代謝に伴うエネルギー消費量の増加である。基礎代謝量の1割程度を占める。 |
2. 腹腔動脈: |
食道、胃、十二指腸の上部などに血液を送る動脈。 |
3. 上腸間膜動脈: |
十二指腸の下部から腸の大部分までの範囲に血液を送る動脈。 |
論文情報
論文タイトル: |
The number of chews and meal duration affect diet-induced thermogenesis and splanchnic circulation |
雑誌名: |
Obesity, Volume 22, Issue 5, pages E62-E69, May 2014 |
DOI: |
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執筆者: |
Hamada Y, Kashima H, and Hayashi N. |
図 体重当たりの食事誘発性体熱産生量の変化(安静値との差で示した)を時間毎に示した。●が急いで食べた試行を、○がゆっくり食べた試行を示す。食後5分後には、両試行の間に差が見られ、食後90分まで続いた。
♯:試行間の有意差 *:摂食前の安静時エネルギー消費量との間の有意差
お問い合わせ先
東京工業大学 大学院社会理工学研究科
人間行動システム専攻
教授 林 直亨(はやし なおゆき)
TEL: 03-5734-3434
FAX: 03-5734-3434
Email: naohayashi@hum.titech.ac.jp