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転写時のRNAの長さを制御する仕組みが明らかに ―がん化のメカニズム解明につながると期待―

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公開日:2014.07.02

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の山口雄輝教授と山本淳一研究員らは、遺伝子(DNA、デオキシリボ核酸)から作られるRNA(リボ核酸)の長さを、RNAポリメラーゼII(用語1)に結合する「NELF」というタンパク質が制御していることを突き止めた。遺伝子発現のエンジンともいえるRNAポリメラーゼIIにNELFが直接作用して、RNAの長さを適切にコントロールする仕組みを発見したもので、学術的な意義だけでなく、がん化の仕組みの解明につながると期待される。

NELFの働きを人為的に阻害すると、snRNA(用語2)やヒストンメッセンジャーRNA(用語3)といった本来は短いRNAが適切なプロセシング(加工・処理)を受けず、異常に長いRNAが作られるようになる。その結果、機能的に重要なsnRNAやヒストン(用語4)が働けなくなり、細胞は増殖できなくなることが分かった。

RNAポリメラーゼIIという酵素は遺伝子からRNAを写し取る(転写)。従来は、どこからどこまでが遺伝子で、どこからどこまでをRNAに写し取るべきかという情報はDNAの塩基配列に刻み込まれており、RNAポリメラーゼIIは正確に転写を行なうと考えられていた。

この成果は6月27日(英国時間)に英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications = Natureの姉妹誌)」に掲載される。

RNAポリメラーゼIIによって作られる3種類のRNA

図. RNAポリメラーゼIIによって作られる3種類のRNA

NELFはプロセシングの経路の選択に関わっている

図. NELFはプロセシングの経路の選択に関わっている

用語説明

(用語1) RNAポリメラーゼII
遺伝子発現のエンジンともいえる酵素で、細胞内の遺伝子の大部分がこの酵素によってRNAへと写し取られる。

(用語2) snRNA
メッセンジャーRNAとは異なりタンパク質の情報を持たず、RNAとして機能している。細胞の核内で起こるスプライシングという反応(メッセンジャーRNAの中からタンパク質を作るのに邪魔な配列を取り除く反応)に関わっている。

(用語3) メッセンジャーRNA
遺伝子→メッセンジャーRNA→タンパク質、という有名なセントラルドグマに登場するRNAの一種。タンパク質のアミノ酸配列に関する情報を含んでおり、遺伝子からタンパク質が作られる過程の中間体として機能する。

(用語4) ヒストン
1メートルにおよぶ紐状のゲノムDNAを、十万分の一以下の大きさの細胞の核内に収納するのに必要なタンパク質。ヒストンタンパク質はヒストンメッセンジャーRNAから作られる。

本成果の発表先と発表日

著者:
Junichi Yamamoto, Yuri Hagiwara, Kunitoshi Chiba, Tomoyasu Isobe, Takashi Narita, Hiroshi Handa, Yuki Yamaguchi
発表先:
Nature Communications
論文タイトル:
DSIF and NELF interact with Integrator to specify the correct post-transcriptional fate of snRNA genes
DOI:

お問い合わせ先

大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 教授
山口 雄輝
TEL: 045-924-5798
Email: yyamaguc@bio.titech.ac.jp

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