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新しい珪酸塩強誘電体の発見と機構解明

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公開日:2015.02.16

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の谷口博基助教(現名古屋大学理学部准教授)と伊藤満教授の研究グループは、新しい4配位型珪酸塩強誘電体を開発しその強誘電性発現の原理を解明した。

研究の背景

現在、実用化されている代表的な強誘電体[用語1]はペロブスカイト型構造[用語2]を有するBaTiO3やPbTiO3をベースとする物質群である。70年以上前に発見されたペロブスカイト型酸化物における強誘電性発現のメカニズムは第一原理計算[用語3]や構造解析によりほぼ全容が解明され、ペロブスカイト型構造における金属元素と酸素間の化学結合の役割も明らかにされてきた。伊藤教授らの研究グループはペロブスカイト型強誘電体に関する研究結果を集約し、結果に基づき演繹的に新しい強誘電体を創出することを試みた。従来は強誘電体を作ることが難しいと考えられていた珪酸塩(シリケート)で強誘電性を得ることに成功し、想定していた強誘電性発現の機構も証明した。

研究成果

これまでの研究からABO3型ペロブスカイト型構造中でAサイトイオンの果たす役目について検討し、AイオンとBイオンの果たす役割を定量化し、Aと酸素Bと酸素の結合に着目して構成元素を選択し、ペロブスカイト型構造類似構造を持つ珪酸塩に着目した。図1左は強誘電体として有名なAurivirius型酸化物(Bi2O2)(An-1BnO3n+1)(n=1-8)のうちn=1、B=Wの場合、すなわち、Bi2WO6の構造を示す。この構造は(001)面の構造から明らかなように、Bi2O2層とWO6層が交互にc軸方向に積み重なった構造をしており、これに対してB=Siの場合、図1右に示すとおり、Bi2O2層とSiO4鎖が1次元的に伸びた構造からなっている。

両構造の差は明らかに2次元的WO6層と1次元SiO4鎖のみである。一般的に、SiO4四面体中でのシリコンと酸素との結合は強く、外場によりSiO4四面体の変形は難しく、特に、中心のシリコン原子を変位させて強誘電性を発現させることは難しいと考えられてきた。本系のように2種類の金属元素を含む酸化物の場合、酸素に隣り合う異なる2種類の金属と酸素との結合は競合する。電子の数は決まっているのでA-Oの共有結合性が強くなれば隣り合うB-Oのそれは弱くなる。つまり、共有結合性とイオン性の相補性により-Bi-O-Si-におけるBi-OとSi-Oの結合の性格が決まる。

強誘電体Bi2WO6とBi2SiO5の構造の比較

図1. 強誘電体Bi2WO6とBi2SiO5の構造の比較

Bi2SiO5において高温相は中心対称性、つまり常誘電性であるCmCmの空間群を有し、温度低下とともに673 K(400℃)で非中心対称、極性空間群Ccをもつ強誘電体構造へと変化する。この変化は図2に示すとおり673 K以下ではBiが酸素側に移動してBiのもつ6s電子と酸素がもつp電子との結合を強くする。このBiの移動によりBiとO間で電気の偏りが生じ、電気双極子が生じる。このBi-O層での構造変化に同期してSiO4鎖でもSiが中心位置から移動してSiO4からSiO3を単位とするような構造変化が生じ、ここでもSiの変位によって誘起される電気双極子が生じる。

300 Kと773 KにおけるBi2SiO5の構造の比較。(b)(d)における矢印はイオンの変位によって生じる電気双極子モーメントを示す。

図2. 300 Kと773 KにおけるBi2SiO5の構造の比較。(b)(d)における矢印はイオンの変位によって生じる電気双極子モーメントを示す。

図2(b)(d)から明らかなようにBi2O2レイヤーとSiO3レイヤーでは電気双極子モーメントの方向が逆方向を向いている。つまり、正確に表現すればこの物質はフェライトで代表されるフェリ磁性体と類似の双極子配列を持つフェリ誘電体[用語4]であることがわかる。構造解析と第一原理計算に基づく電気分極の値は25μC/cm2であり、この値は実用上最も重要な強誘電体の1つであるチタン酸バリウムとほぼ同じ大きさである。さらに重要なことは、相転移に伴って原子が一方向に一斉に変位して電気的な偏りが生じること(光学モードのフォノンの凍結)で強誘電性が発生するというメカニズムが、光学測定、精密構造解析、第一原理計算で矛盾無く説明できたことである。

図3(a)は第一原理計算により求められたフォノンの分散を示している。高温相の常誘電体CmCm相では負の周波数を持つ強誘電性ソフトモード[用語5]が存在し、低温の強誘電体相では振動数がゼロになる(つまり、非中心対称性の構造に変化する)。本系の強誘電性がBi-Oの共有結合性の変化で誘起されるSiO4中のSi-Oの共有結合性の不均一化に伴う結合間距離の長短化が鎖のねじれiで表現され、図3(b)で示す定常的に鎖のねじれが存在する場合が強誘電相であることがわかる。

高温相(CmCm相)と低温相(Cc相)におけるフォノン周波数の方向依存性(a)。上2つの構造に対するねじれ運動モードが(a)における光学ソフトモードに対応しており、このモードの振動数がゼロになる温度が強誘電相転移点に相当する(b)。

図3. 高温相(CmCm相)と低温相(Cc相)におけるフォノン周波数の方向依存性(a)。上2つの構造に対するねじれ運動モードが(a)における光学ソフトモードに対応しており、このモードの振動数がゼロになる温度が強誘電相転移点に相当する(b)。

今後の展開

従来、チタン酸バリウムを代表とするペロブスカイト型六配位酸化物が強誘電体研究の中心であった状況を、物質探索の枠を拡げるという観点からも本系のような珪酸塩でしかも4配位系で従来型の強誘電体に匹敵する分極の値を有する物質が見つかった意義は大きい。さらに、Bi2SiO5ではペロブスカイト型強誘電体と同様な変位型の機構で相転移することが重要である。本研究を契機として、化学結合を利用した非ペロブスカイト、非六配位、非酸化物系での強誘電体の新物質探索が現実的であることが理解され、物質から材料への橋渡しが可能になると考えられる。

用語説明

[用語1] 強誘電体 : 温度低下とともにキュリー温度で誘電率が発散して相転移を起こし低温相で自発誘電分極を有する物質。低温相では正負イオンが高温相から変位して中心対称性を有しておらず、強磁性体の磁化曲線に似た分極-電場曲線でヒステリシスを示す。大別して変位型強誘電体と規則-不規則型強誘電体が代表例である。前者にはBaTiO3、PbTiO3、LiNbO3、SbSIがあげられる。20世紀後半にペロブスカイト型強(反)誘電体としてPbTiO3、PbZrO3(反強誘電体)、Pb(Zr,Ti)O3が発見され研究された。実用に供せられている物質としてBaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3が有名である。後者として東工大名誉教授沢田正三氏が発見したNaNO2が代表例としてあげられる。

[用語2] ペロブスカイト : 19世紀ロシアの科学者ペロフスキーによって発見された天然鉱物灰チタン石(CaTiO3)。ABO3型の複酸化物の総称。

[用語3] 第一原理計算 : 原子レベルやナノスケールレベルにおける物質の基本法則である量子力学(第一原理)に基づいて、原子番号だけを入力パラメーターとして、非経験的に物理機構の解明や物性予測を行う計算手法。

[用語4] フェリ誘電体 : 結晶が2種類の副格子からなり、それぞれ逆向きの電気双極子モーメントを有する物質。フェライトでは磁気双極子が同様な配列を有する。通常の強誘電体との区別は難しい。

[用語5] 強誘電性ソフトモード : 強く非調和的な低エネルギー光学フォノンであり、相転移温度に向かって振動数を減少(ソフト化)させ、最終的に凍結することで強誘電性相転移を誘起する。(一次相転移では、ソフト化の途中で相転移が生じて凍結しない。)このソフトモードの不安定化によって生じた強誘電性を有する物質は"変位型強誘電体"と呼ばれるが、ペロブスカイト型酸化物強誘電体にはこの型の強誘電体が特に多く、これまでに極めて多くの研究がなされてきた。しかしながらソフトモードが強誘電性相転移にまつわる諸物性を定性的ではあるが非常に良く説明する一方で、何故ソフトモードが存在するかという、"材料設計に応用できる形での"直感的な描像は未だ確立していない。

論文情報

論文タイトル :
Ferroelectricity Driven by Twisting of Silicate Tetrahedral Chains
掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition 52, 8088 (2013).
DOI :
著者 :
Hiroki Taniguchi1,2, Akihide Kuwabara3, Jungeun Kim4, Younghun Kim5, Hiroki Moriwake3, Sungwng Kim6, Takuya Hoshiyama7, Tsukasa Koyama7, Shigeo Mori7, Masaki Takata4,5,8, Hideo Hosono1,9, Yoshiyuki Inaguma10, and Mitsuru Itoh1
所属 :
1東京工業大学応用セラミックス研究所、2名古屋大学理学部、3(財)日本ファインセラミックスセンター、4公益財団法人 高輝度光科学研究センター、5東京大学大学院新領域創成科学研究科、6Sungkyunkwan University、7大阪府立大学、8理研播磨研究所、9東京工業大学元素戦略研究センター、10学習院大学理学部
論文タイトル :
Hierarchical Dielectric Orders in Layered Ferroelectrics Bi2SiO5
掲載誌 :
IUCrJ 1, 160 (2014)
DOI :
著者 :
Younghun Kim1,2, Jungeun Kim2,3, Akihiko Fujiwara3, Hiroki Taniguchi4, Sungwng Kim5, Hiroshi Tanaka6, Kunihisa Sugimoto2,3, Kenichi Kato2, Mitsuru Itoh7, Hideo Hosono7,8 and Masaki Takata1,2,3
所属 :
1東京大学大学院新領域創成科学研究科、2理研 放射光総合科学研究センター、3公益財団法人 高輝度光科学研究センター、4名古屋大学理学部、5Sungkyunkwan University、6島根大学、7東京工業大学応用セラミックス研究所、8東京工業大学元素戦略研究センター

謝辞

本研究は、文部科学省の元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型 電子材料拠点>により一部支援を受けたものです。

問い合わせ先

応用セラミックス研究所 教授 伊藤 満
Email : itoh.m.aa@m.titech.ac.jp
TEL : 045-924-5354
FAX : 045-924-5354

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