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「生命とは何か? ―生命科学と複雑系科学―」開催報告

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公開日:2015.05.07

昨年に続き、高校生を対象にした公開講座「生命とは何か? ―生命科学と複雑系科学―」が開催されました。この講座は東工大基金を活用した日本再生プロジェクト「ものつくり人材のすそ野拡大支援」事業の支援を受けて行われました。

公開講座用ポスター
公開講座用ポスター

近年の生命科学は生命現象を要素に分解して理解しようとする要素還元型の研究手法によって、生命現象の構成要素(DNA、タンパク質、細胞など)の構造と機能が明らかにされてきていますが、未だに“生命とは何か?”に対する明確な答えは得られていません。そこで、将来の生命科学の発展には、これらの構成要素の関連性、協調性、統合性など生命現象全体の振る舞いや創発性に焦点を置く「複雑系科学」の研究手法が必要不可欠になると考えられています。今回の公開講座では、この複雑系科学の例としてBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応をモデルとして使いました。

BZ反応とは化学者ベロウーソフが1951年に発見した化学現象です。ベロウーソフは単純な「化学反応が複雑なリズムやパターンを作り出す」ということを世界で初めて報告しましたが、この奇妙な現象は当時の学問の世界では認められませんでした。しかし、後に、化学者ジャボチンスキーがベロウーソフの追試実験を行い、化学反応のリズムがより明瞭な形で現れる系を確立し、学会で認められ、2人の名前をとって、 Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応と呼ばれるようになりました。現在では非線形化学振動反応(複雑系のモデル反応の一つ)として有名です。

公開講座では、この化学反応系の時間的秩序※1、空間的なパターンダイナミックス※2、さらにはパターンの創発現象※3に着目して、注意深く観察することにより、化学反応と生命系の振る舞いとの類似性を理解し、考えることを目的としました。BZ反応においてのマロン酸は生命系における食物、臭素酸カリウムは酸素、フェロインは酵素に対比できます。つまり、BZ反応は生命系の代謝回路のモデルでもあり、このような観点から、高校生が生命現象を複雑系科学という新たな切り口で見つめるためにコンピュータ画像解析も取り入れました。

BZ反応動画の画像解析
BZ反応動画の画像解析

まず、濱口幸久名誉教授からの「生物である私たちの体は一個の受精卵が、46回の細胞分裂を繰り返すことで生じる60兆個の細胞からできていて、この細胞分裂のたびに『サイクリン』というタンパク質の量が増減するリズムが認められます。このようなリズムを今回観察するBZ反応でも観ることができます」という話から始まりました。

実際の実験は、BZ反応のための試薬を混ぜると反応が開始します。そして、パターンが形成され、色調が変化する様子をデジタルカメラに録画しました。この動画をコンピュータに取り込み、ImageJというソフトで画像解析を行いました。一定域の画像を時間経過で並べて一定域の時間的連続変化が判別できる画像(キモグラフ)を作成しました。このようなキモグラフからBZ反応の時間的な色調変化、パターン変化、反応速度などを理解することができます。

BZ反応中のシャーレ
BZ反応中のシャーレ

BZ反応のキモグラフ
BZ反応のキモグラフ

溶液中にツバメ型のろ紙を入れた時のBZ反応
溶液中にツバメ型のろ紙を入れた時のBZ反応

終了後、高校生から「興味深い実験と講義を体験し、反応という初めて学ぶ化学現象を通して、生物学だけでなく化学、そして物理学にまで幅広い知識を得ることができ、次回も参加したい。ありがとうございました。」といったメールが寄せられました。参加者は複雑系科学の現象から生命系を考えるきっかけを得て、大変意義のある公開講座になったようです。

※1
時間的秩序 : 規則正しく反応溶液の色調が変化すること。生命系における拍動、呼吸、サーカディアンリズムなど
※2
パターンダイナミックス : 反応溶液の色調変化によるパターンの時間的変化、リズムの出現、空間的な秩序など。発生、形態形成、成長など
※3
創発現象 : 部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること。

東工大基金

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問い合わせ先

佐藤節子

Email : bzreaction@kisoseibutsu.bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2700

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