東工大ニュース
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公開日:2015.08.25
貧栄養土壌でも葉と根に油脂蓄積する植物を開発
―地球温暖化抑制と再生可能エネルギー生産の両立への第一歩―
東京工業大学大学院生命理工学研究科の下嶋美恵准教授、円由香技術員らの研究グループは、リンが欠乏した生育環境でも葉や根で油脂(TAG[用語1])を高蓄積できる植物を開発した。リン欠乏に応答して遺伝子発現量を増大させる遺伝子発現調節領域と油脂合成酵素遺伝子を組み合わせてシロイヌナズナ[用語2]に導入し、葉や根で油脂を顕著に蓄積する形質転換体の作出に成功した。
今後、油脂に含まれる脂肪酸の改変および油脂蓄積量の増大を目指すことにより、国内外に広がっているリン欠乏土壌を有効に活用したバイオエネルギー生産および二酸化炭素(CO2)削減による地球温暖化抑制への貢献が期待される。
下嶋准教授らは先に、リン欠乏に着目して植物の葉や根における油脂蓄積を解析した。その結果、リン欠乏にさらされた植物の葉や根では顕著な油脂蓄積が起こることを発見、この成果をもとにシロイヌナズナ形質転換体を作出した。
研究成果は、スイス科学雑誌「フロンティアズ イン プラント サイエンス(Frontiers in Plant Science)」オンライン版に8月12日付で公開された。
下嶋准教授らは、シロイヌナズナ、タバコ、トマトなどの植物をリン欠乏下で生育させると、比較的高い光合成能を保ったまま、通常ではほとんど油脂を蓄積しない葉や根に油脂を高蓄積することを発見した(図1)。また、葉における油脂蓄積量は、葉でデンプンを蓄積しないシロイヌナズナの変異体では野生株よりも顕著に多いことを明らかにした(図2)。
これらの研究結果を受けて、研究グループはリン欠乏応答性プロモーター(リン欠乏条件下で、その下流につないだ遺伝子の発現量を増大させる遺伝子発現調節領域)を、油脂合成酵素遺伝子と組み合わせてシロイヌナズナの野生株とデンプン欠損変異体に導入した。その結果、リン欠乏生育の際に葉や根で油脂を顕著に蓄積する植物体の開発に成功した(図3)。
植物油脂は通常、種子に高蓄積し、葉や根では微量にしか蓄積しない。植物において光合成で得られたエネルギーは、葉では通常はデンプンとして葉緑体中に一時的に貯蔵されるからである。しかし、バイオマスが大きい葉において、植物の光合成能を維持しながら油脂を高生産できれば、油脂に含まれる脂肪酸の改変も可能になるため実用化に一歩近づく。また、リンは植物の生長に欠かせない栄養素の1つであるが、リンが欠乏した土壌は世界中に広がっており、リン鉱石の枯渇によるリン肥料の価格上昇とリンの過剰施肥による土壌汚染がしばしば問題となっている。
これまでに、栄養が十分与えられた条件で葉に油脂を高蓄積する植物体の開発は海外のグループにより報告があるが、リン欠乏のため利用されていない国内外の農耕不適地の積極的な活用を同時に見据えた植物葉での油脂生産基盤技術の構築については国内外において例がない。
今後、油脂蓄積量をさらに増大させる、油脂に含まれる脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸など付加価値性の高い脂肪酸に改変するなどの改良を加えることで、この成果を活用してリン欠乏土壌で生育させた植物の葉・根における油脂生産の実用化に結び付くことが期待できる。
用語説明
[用語1] TAG : トリアシルグリセロール。1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した中性脂肪の1つ。
[用語2] シロイヌナズナ : 学名Arabidopsis thaliana、植物分子生物学の研究分野では、全ゲノム配列が2000年に決定されており、遺伝子情報および遺伝子操作技術が整備されていることから、モデル植物として基礎研究に利用されている。
論文情報
掲載誌 : |
Frontiers in Plant Science |
論文タイトル : |
An engineered lipid remodeling system using a galactolipid synthase promoter during phosphate starvation enhances oil accumulation in plants |
著者 : |
Mie Shimojima, Yuka Madoka, Ryota Fujiwara, Masato Murakawa, Yushi Yoshitake, Keiko Ikeda, Ryota Koizumi, Keiji Endo, Katsuya Ozaki, Hiroyuki Ohta
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DOI : |
特記事項
問い合わせ先
大学院生命理工学研究科生体システム専攻
准教授 下嶋美恵
Email : mshimoji@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5527
東京工業大学 広報センター
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661