東工大ニュース
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大学院生命理工学研究科の木村宏教授が、ロバート・フォイルゲン賞(Robert Feulgen Prize)を受賞しました。
ロバート・フォイルゲン賞は、国際組織化学学会(The Society for Histochemisty)により、組織化学・細胞化学分野で新規の方法の開発や新規の発見を行った研究者に与えられる賞で、1971に創設されました。日本人で初の受賞です。
木村教授は、第57回国際組織化学学会シンポジウム(57th Symposium of the Society for Histochemistry/24th Wilhelm Bernhard Workshop on the Cell Nucleus)で受賞講演を行いました。
生きた細胞内における蛋白質翻訳後修飾の可視化法の開発
細胞内の多くの蛋白質は、リン酸化、アセチル化、メチル化などの翻訳後修飾をうけることで、蛋白質間相互作用や酵素活性などの機能が制御されます。これらの翻訳後修飾を細胞レベルで検出するために、特定の修飾に特異的な抗体による免疫染色が用いられます。しかしながら、通常の免疫染色では、細胞や生体サンプルを化学固定する必要があるため、生きた細胞を用いた解析は不可能でした。木村教授らは、モノクローナル抗体由来のプローブを用いて、生きた細胞内で内在性蛋白質の翻訳後修飾を可視化し、その動態計測を行う方法を世界で始めて開発しました。木村教授らが開発した一つの方法は、抗体から抗原結合断片を調製し、蛍光標識した後に、細胞に導入する方法です。もう一つは、抗体の抗原結合部位をコードする遺伝子をクローニングして、蛍光蛋白質との融合蛋白質として発現させる方法です。これらの方法により、培養細胞中のクロマチンの主要成分であるヒストン蛋白質のリン酸化、アセチル化、メチル化、及び、転写を担う酵素であるRNAポリメラーゼIIのリン酸化の動態を明らかにしました。また、マウスやショウジョウバエの初期胚におけるヒストン蛋白質のアセチル化動態も解明しました。
今回の受賞を受けて、木村教授は以下のようにコメントしています。
ヒストンの翻訳後修飾は、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たしていますが、その全貌は明らかになっていません。今回のロバート・フォイルゲン賞の受賞対象となった生細胞イメージング法により、細胞内や生体内においてヒストン修飾がどのようにダイナミックに変化し、転写の制御に働くのかが少しずつ分かってきました。これからも新規の方法を開発しながら、生命現象の謎に迫っていきたいと思います。