東工大ニュース
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公開日:2015.11.09
東京工業大学大学院理工学研究科の吉松公平助教と大友明教授らの研究グループは、リチウムイオン電池[用語1]の充電・放電原理を用いることにより、チタン酸リチウム[用語2]の超伝導[用語3]状態制御(スイッチング)に成功した。
超伝導材料であるチタン酸リチウム薄膜を負極材に用いたリチウムイオン電池セル構造を形成して充電・放電操作を繰り返し行い、同時にチタン酸リチウムの電気抵抗を測定した。その結果、充電時には常伝導に、放電時には超伝導にと可逆的[用語4]に電気抵抗が切り替わることを実証した。
これにより、超伝導-常伝導状態のスイッチングが可能となり、超伝導エレクトロニクスの実現が期待される。研究成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」で11月6日に公開された。
東工大の吉松助教と大友教授らの研究グループは、リチウムイオン電池の動作原理に着目し、超伝導制御をリチウムイオンの移動で行う新たな電子デバイス原理の提案・実証を行った。同研究グループは、高品質なチタン酸リチウム薄膜を作製し、その薄膜を負極としたリチウムイオン電池構造を形成(図1)した。この電池に対し、充電・放電操作を行い、同時にチタン酸リチウム薄膜の電気抵抗を測定した。
その結果、超伝導状態のチタン酸リチウム薄膜にリチウムイオンを挿入する充電反応を行うと、常伝導状態への転移が観測された。一方、チタン酸リチウム薄膜からリチウムイオンを脱離する放電反応を行なうことで、超伝導状態を回復させることに成功した(図2)。
また、充電・放電操作前後での超伝導転移温度を比較したところ、両者が完全に一致しており「可逆的な超伝導転移」であることを発見した。この超伝導転移は、充電・放電サイクルを繰り返しても安定に発現する(図3)。すなわち、「超伝導・常伝導」状態を「On・Off」とする超伝導デバイスへとつながる成果である。
超伝導体は核磁気共鳴画像法(MRI)により医療分野で活躍し、送電ケーブルやリニアモーターカーなどへの応用が期待される重要な技術である。この超伝導現象を電子デバイスへと適用する超伝導エレクトロニクスに関しても、実用化に向けた研究が行われている。超伝導状態と常伝導状態のスイッチングには、非常に多くの電子が必要である。しなしながら、超伝導状態を制御できるほどの電子をそのまま扱う基盤技術が存在せず、実用化への道のりは遠いと考えられている。そのため、この超伝導状態を制御可能なスイッチング手法の開発が強く望まれていた。そこで、本研究では電子とイオンをペアで扱うリチウムイオン電池に着目した。イオンを同時に移動させることで、従来よりも遥かに多くの電子を超伝導体に与えることができると考えられる。
今回の結果は、リチウムイオン電池の充電・放電現象を用いて超伝導状態が制御できることを実証したものである。今後は、セル構造の小型化や全固体化などを進め、超伝導エレクトロニクス実現へ向けた応用研究へと進展させる。
用語説明
[用語1] リチウムイオン電池 : リチウムイオンが伝導を担い、充電により繰り返し使用できる二次電池の1つ。リチウムイオン電解液が正極材と負極材に挟まれた構造を持つ。現在、携帯電話やノートパソコンのバッテリーなどに幅広く利用されている。
[用語2] チタン酸リチウム : Li1+xTi2O4の組成で表される複合酸化物材料。リチウムの組成xが-0.3 ≤ x ≤ 1の範囲で存在し、リチウム組成により超伝導状態にも常伝導状態にもなる。
[用語3] 超伝導 : 物質を非常に低い温度まで冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象。
[用語4] 可逆変化 : 物質がある状態AからBへと変化した際に、再び状態BからAに戻ることができる場合に、可逆変化と呼ばれる。一方、戻ることができない場合には不可逆変化と呼ばれる。
論文情報
掲載誌 : |
Scientific Reports |
論文タイトル : |
Reversible superconductor-insulator transition in LiTi2O4 induced by Li-ion electrochemical reaction |
著者 : |
K. Yoshimatsu, M. Niwa, H. Mashiko, T. Oshima, and A. Ohtomo |
DOI : |
問い合わせ先
大学院理工学研究科応用化学専攻
助教 吉松公平
Email : k-yoshi@apc.titech.ac.jp
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大学院理工学研究科応用化学専攻
元素戦略研究センター(兼務)
教授 大友明
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