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東工大とロンドン芸大CSM合同シンポジウム「科学・アート・デザインの実験 The Experiment」開催報告

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公開日:2017.09.20

5月27日、東京・渋谷ヒカリエにて、東工大とロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズ校(以下、CSM)との合同シンポジウム「科学・アート・デザインの実験 The Experiment」が開催されました。科学技術、人文社会科学の研究者や、アーティスト、ファッションデザイナーなど、多様な分野の専門家が集まり、「実験」とは何かをそれぞれの視点から語り合いました。あまり例のない挑戦的なテーマではありましたが、300名を超える来場者があり満員となりました。多くの来場者が見守る中、理工系の知とアート、デザインの融合による新しい文化・思考の創生を目指す新プロジェクトのキックオフとして、セッション1・2、キーノートセッションとも活発な議論が繰り広げられました。

開場時に日英の同時通訳機が希望者に配布され、環境・社会理工学院 融合理工学系のトム・ホープ准教授を総合司会、工学院 機械系のセリーヌ・ムージュノ准教授をディスカッション・リーダー、そしてリベラルアーツ研究教育院の池上彰特命教授をキーノートセッションのモデレータとして迎え、開催しました。

科学とデザインの融合や連携の必要性について、昨今取り上げられることが増えています。しかし、チームの間で、あるいは個人の単位で、どのように異分野が融合していくか、またどのように協力することが可能か、その「結び目の部分」を見つめる機会は多くありません。まずは互いの創作手法、研究手法を言語化してテーブルに乗せることで、コミュニケーションの基盤を作ろうというのが今回のシンポジウムの狙いです。

科学技術の急速な発展により社会、経済、生活が激変する中、大学には異分野、異文化の英知を結集する難しい課題が求められています。東工大の三島良直学長は冒頭挨拶で、「科学の実験手法は比較的世間に知られているものの、アートやデザインの分野にはそもそも実験があるのか、どんな手法があるのかも知られていない」ことに言及し、まずは両者が分かりあうことの必要性を強調しました。一方で、CSMのジェレミー・ティル学長は、「世界で起きている問題は、ハイブリッドな考え方で解決策を考えねばいけない。アート・デザインと科学の間で手法や洞察を共有し、境界を越えていきたい」と熱く語りました。

東工大の三島学長
東工大の三島学長

CSMのティル学長
CSMのティル学長

セッション1「デザインと産業」では、建築家の豊田啓介氏、新進気鋭のファッションデザイナー山縣良和氏、菌糸体を利用したテキスタイル(織物)を考案するCSMのキャロル・コレット教授が登壇しました。コレット教授は「成功基準を明確にするためには仮説が必要。成果を論文にして社会に影響を与え始めたとき、デザインは社会に問題を投げかけるものになる」との自身の見解を語りました。豊田氏のプレゼンテーションでは、静的に見られがちな建築というものに対して「動きを持たせ街とコミュニケーションさせる」という豊田氏の発想に、会場が驚きと感銘を受けました。

東工大の広瀬茂男名誉教授
東工大の広瀬茂男名誉教授

セッション2のテーマは「アートと科学技術」です。ヘビ型ロボットで知られる東工大の広瀬茂男名誉教授、準知的粘菌などと協働するアーティストであるCSMのヘザー・バーネット学科長、地域性を活かしたインスタレーション、アート教育を展開する東京藝術大学の日比野克彦教授が登壇し、実験との向き合い方が議論されました。バーネット学科長は「実験はクリエイティブの根幹にある」とし、広瀬名誉教授は「実験は理論と現実をつなぐ。思考ではわからないことが実験で理解でき、新しい視野を与えてくれる」と語りました。

最後のキーノートセッションでは、池上特命教授がモデレータとして登場し、あらためて「実験」とは何かを見直す議論となりました。ティル学長の「アート・デザインは美しく、洗練されたものを作り出すだけでなく、社会との関わりによって政治、経済をも変える力を持つ」という言葉が印象的でした。その他、現代アートを専門とするリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授、分子ロボットを専門とする情報理工学院 情報工学系の小長谷明彦教授、また、シンポジウム企画チームのリーダーであり言語学、翻訳学が専門の環境・社会理工学院 融合理工学系の野原佳代子教授が登壇しました。

伊藤准教授の「視覚障がい者は頬に感じる風で街の様子を掴む。標準と違うからこそ気づくこともある」などの語りには、多くの来場者が共感しました。小長谷教授は、「生体の微小管を使って人工的に制御できる分子ロボットが、将来、がん治療にも役立つようになるかもしれない」と語りました。

キーノートセッションの様子
キーノートセッションの様子

野原教授は最後に、「今回のような異分野コミュニケーションでは、各自の言語間の文化的背景が違うため、必ず意味の理解にズレが生じるものだが、そこにこそ面白さがある。相手によって表現を変え、内容を調整することが翻訳であり、今回の議論はある種の実験である」とし、そのズレから新しい学問が生まれる可能性を示唆しています。

「実験」にはそれぞれ、異なる立場があり見方があります。「実験」という立場をとらないアプローチもあること、また、「実験」を軸に、多様な分野を斬っていく、互いの違いと共通点を見出す、そのきっかけを垣間見る機会となりました。池上特命教授が今回の議論を「大きな可能性をはらむ社会的実験」と総括して、本シンポジウムは終了の時を迎えました。

後日、一般来場者に対して、「今回のシンポジウムで何が得られたか」、「どこが印象に残ったか」などのアンケートを実施しました。

「方向の違う専門家たちのコラボレーションにより、結論が膨らみを持ち、多角的な視点によりさらなる改善もできるということが多々見受けられた」「実践的な英語の学習にもなり、大満足」「充実した内容だったので、丸ごとテレビやネットでの配信にも需要があるのでは」「根源的なテーマをとりあげてもらった」「渋谷の一等地でチャレンジしたことに意味があった」といった、たくさんのポジティブなご意見をいただきました。一方で、「発表演題が多すぎて、ディスカッションの(所要)時間が少なかった」「各発表間のつながりが感じられず、事前にもっと調整が必要」といった注文もいただきました。

今回のシンポジウムの実施を受けて、本プロジェクトの関係者が想像していたよりもずっと、一般来場者はアンテナ感度が高く、科学技術とアート・デザインの結び目の未来を熱く考えていることがわかりました。今後も東工大にしかできない次世代の創造性を、CSMとともに思考していきます。CSMとのコラボレーションは2017年秋から本格化しますので、ぜひこれからも本プロジェクトにご期待ください。

お問い合わせ先

東工大×CSM「The Experiment 科学・アート・デザインの実験」事務局

E-mail : tokyotechxcsm@tse.ens.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3521

9月21日13:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。

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