東工大ニュース

金属元素を精密に組み合わせ、新たな機能をもつ合金を創成 プレスセミナーを開催

超高分解能電子顕微鏡(TEM)で観察した金属原子画像を公開

RSS

公開日:2019.06.07

プレスセミナーの様子
プレスセミナーの様子

5月22日、科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニットの山元公寿教授、同研究院 化学生命科学研究所の塚本孝政助教が、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による創造科学技術推進事業(ERATO:Exploratory Research for Advanced Technology)「山元アトムハイブリッドプロジェクト」のプレスセミナーを、本学すずかけ台キャンパスにて行いました。プレスセミナーには5社が参加しました。

アトムハイブリッド法は、「デンドリマー(樹状高分子)」と呼ばれるかごのような分子の中に、複数の種類の金属元素を様々な組み合わせで取り込ませ、「サブナノ」サイズ(約1 nm)の微小な金属粒子や合金粒子を創り出す方法で、従来技術では難しかった多種類の元素からなる合金の作製を実現しています。

山元教授は、サブナノ合金微粒子の模型や、3Dプリンタで作ったデンドリマーの模型を使いながら、アトムハイブリッド法についてわかりやすく紹介しました。塚本助教からは、デンドリマーを使うアトムハイブリッド法は「山元アトムハイブリッドプロジェクト」独自の技術で、同様の研究を行っているグループはまだないこと、さらに多種類の金属を組み合わせたサブナノ粒子を合成するために、デンドリマーの構造も工夫していることについて説明がありました。続いて、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の今岡享稔准教授から、透過型電子顕微鏡を用いたサブナノ粒子観察のデモンストレーションを披露しました。

合金はいろいろな産業分野に応用できるため、新しい合金の創成技術へのメディアの関心は非常に高い様子で、質疑も活発に行われました。

開発の背景とポイント

物質をナノサイズ(10~100 nm)まで小さくしていくと比表面積が増大し、それにともない化学活性も向上することが知られています。このような性質から、ナノ粒子は触媒をはじめとした様々な分野で活用されています。ナノ粒子よりもさらに小さい1 nmほどのサブナノ粒子にすると、物質の性質が劇的に変化することがわかっています。

例えばアルミニウム原子13個からなるサブナノ粒子は、ハロゲンの性質をもつようになりますが、11個や14個の粒子では別の性質を示します。このような原子の数を精密に制御したサブナノ粒子を作ることができれば、卑金属元素に貴金属の性質を持たせたり、全く新しい機能をもたせたりすることが期待できます。

しかし、これまでの技術では、サブナノサイズの粒子を作る際、原子数を精密に制御することや、作製した粒子を安定的に保持することが困難でした。

山元教授らはデンドリマーに着目し、新たに開発したデンドリマーには、金属イオンと結合をつくるイミンと呼ばれるユニットが多数組み込まれています。そのため、このデンドリマーは金属イオンを取り込む能力を持っており、しかも、デンドリマーの内側から順番に金属イオンを配置できる仕組みになっています。このデンドリマーを使うことで、金属元素の種類、原子数、配合比を精密にコントロールできるようになったのです。最終的に、デンドリマーの中に集積した金属イオンを還元させることで、狙ったサブナノ合金粒子を作製することができます。

現在、元素は全部で118種類発見されていて、安定元素は81種類が知られています。この中から希ガス・毒物を除いた70種類がアトムハイブリッド法の対象になりますが、既に50種類以上の元素についてデンドリマーに集積させることに成功しています。

また、1つのデンドリマーの中に複数の種類の金属元素を集積することで、現在6種類の金属元素を混合した合金粒子を作ることに成功しています。

サブナノ粒子の模型を用いて説明する山元教授

サブナノ粒子の模型を用いて説明する山元教授

今後の展望

70種類の元素の合金を考えたとき、元素の種類と配合比の組み合わせは無限にあります。今後の展望として塚本助教から、卑金属元素から高付加価値材料を開発するといった、新しい機能をもつサブナノ粒子の創成の戦略について説明がありました。実際に合成して新しい機能をもつサブナノ粒子を探すという網羅的探索に加えて、コンピュータシミュレーションで、触媒活性や光学特性、磁性などを持つ高機能なサブナノ粒子を予測し合成することも併用していこうと考えていることにも触れられました。

高機能なサブナノ粒子の合成について説明する塚本助教

高機能なサブナノ粒子の合成について説明する塚本助教

透過型電子顕微鏡によるサブナノ粒子の観察

セミナーの場所を実験室に移して行われた透過型電子顕微鏡でのデモンストレーションでは、今岡准教授がカーボン担体上の白金/金/パラジウム三元素サブナノ粒子の実画像を披露しました。さらに原子分解能の実時間ムービー画像と、EDS分析(元素成分分析)データをPC画像(パソコン画像)で説明しました。

サブナノ粒子の分析データを説明する今岡准教授
サブナノ粒子の分析データを説明する今岡准教授

透過型電子顕微鏡
透過型電子顕微鏡

山元公寿教授のコメント

複数種類の金属元素を混ぜると新たな機能をもつことは以前から知られており、触媒、超電導物質、半導体などに使われています。しかし、従来技術での3元素を超える混合は、均一にならなかったり、相分離してしまうなどの問題があります。私たちのアトムハイブリッド法では、最大6種類の金属元素を精密に混合することに成功しています。合成したサブナノ粒子があらたな機能をもつこともわかってきました。サブナノの世界はナノスケールとは全く違う様相をみせ、研究としても産業応用としてもとても魅力的です。この世界の探究をさらに推進し、有用な物質の創成にチャレンジしていきます。

プレスセミナーを行った山元教授(左)と塚本助教(右)

プレスセミナーを行った山元教授(左)と塚本助教(右)

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

RSS