研究

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ボロフェンに類似するホウ素二次元ナノシートの発見

常圧大気下で簡便に合成できるホウ素原子層物質

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2019.08.23

要点

  • 常圧・大気下でホウ素と酸素からなる原子層物質の合成に成功
  • 多積層結晶の異方的な電気特性を解明
  • 層間に導入されたカチオンにより簡単な原子層剥離が可能

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の神戸徹也助教、山元公寿教授らの研究グループは、ボロフェンに類似するホウ素二次元ナノシートを常圧大気下で簡便に合成することに成功した。この構造体では、ホウ素と酸素からなる単原子層がカリウムカチオン層と交互に積層しており、層間に働く結合力が弱いため、ホウ素と酸素の原子層を簡単に取り出せることが分かった。

ボロフェンは、ポストグラフェン材料として近年注目を集めているが、高真空下など特殊な環境下でしか合成できず、実際に利用することは不可能と考えられてきた。本研究で確立した手法では、溶液プロセスによりホウ素原子層物質をきわめて簡便に合成でき、様々な材料への展開が見込める。

本研究は2019年8月2日発行の米国化学会誌の「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

背景

2004年に、グラファイトからの剥離により単原子層物質[用語1]であるグラフェンが得られて以降、グラフェンの電子材料や熱電素材等への利用が盛んに研究されてきた。近年になり、ポストグラフェン材料としてボロフェンが注目されている。ボロフェンは、炭素の隣の族の元素であるホウ素からなる原子層物質であり、物理的な高強度性に加え、高い柔軟性を備えている。しかしながらボロフェンは、高真空下の金属面上でしか安定に存在できないため、それが実用化に向けた課題とされてきた。

研究成果

本研究では、水素化ホウ素カリウム(KBH4)を原料として、ボロフェンに類似する「ボロフェン類縁ホウ素二次元構造体」を、常圧大気下できわめて簡便かつ大量に合成する手法を確立した。

図1. 合成したホウ素二次元構造体の骨格構造

図1. 合成したホウ素二次元構造体の骨格構造

ホウ素二次元構造体から得られた結晶は、ホウ素と酸素からなる単原子層と、カリウムカチオン[用語2]からなる層とが交互に積層した構造であることが分かった。この結晶は、各層の面に平行な方向と、面に垂直な方向で、異なる電気特性を示した。

またこの結晶では、層間の結合力が弱いため、物理的な圧力や溶媒和[用語3]により、各層を簡単に剥離できることが分かった。この剥離法により、数ミクロンを超える大きさのホウ素シートやその単原子層を作ることができた。

図2. 液相合成したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(A)合成後の写真と(B)SEM像。(C)原子層とカリウムが交互積層した結晶構造。剥離したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(D)走査型透過電子顕微鏡像と(E)原子間力顕微鏡像。
図2.
液相合成したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(A)合成後の写真と(B)SEM像。(C)原子層とカリウムが交互積層した結晶構造。剥離したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(D)走査型透過電子顕微鏡像と(E)原子間力顕微鏡像。

研究の経緯

当研究グループはこれまでに、典型金属クラスターの合成と構造、物性について研究し、13族元素であるアルミニウムクラスターの特性を明らかにしてきた。そこで同じ13族元素としてのホウ素にも着目した。ホウ素はクラスター化[用語4]することで平面構造をとることが理論計算から示されており、その挙動はアルミニウムとは全く異なる。こうした元素の基礎物性の差から、ホウ素の集合体はこれまでにない構造をとるのではないかと考えた。

今後の展開

簡便に大量合成が可能という利点を用いて、様々な応用研究への展開が可能となる。例えば、今回合成された単原子構造は、グラフェンのような電子部材への応用が期待できる。またこの単原子層が積層した構造体は、層間に弱い相互作用があることと、多くのカチオンを含むことから、高誘電材料等への応用も期待される。

謝辞

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、東京工業大学技術部すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォーム、株式会社リガク、およびダイナミック・アライアンスの支援・協力を受けて行なわれた。

用語説明

[用語1] 単原子層物質 : 1原子の厚さを持つ物質群。グラフェンが有名。一般的なバルク物質には無い機能が発現できる。

[用語2] カチオン : 正の電荷を持った陽イオン。1価のカチオンとしては、プロトン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどがある。

[用語3] 溶媒和 : イオンなどが溶媒分子によって取り囲まれることで、溶液中に拡散されるようになること。

[用語4] クラスター化 : 原子や分子の集合体を形成すること。ここでは同一元素からなる原子の集合体(粒子)を形成することを意味している。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Solution Phase Mass Synthesis of 2D Atomic Layer with Hexagonal Boron Network
著者 :
Tetsuya Kambe, Reina Hosono, Shotaro Imaoka, Akiyoshi Kuzume, and Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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