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東北沖地震後の地盤隆起の原因を解明

地震を起こした断層深部でのゆっくりとしたすべりが隆起を支配

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2019.09.27

発表のポイント

  • 実験岩石学的知見に基づき、東北地方沿岸部の地盤隆起をモデル化することに成功
  • 隆起は、地震時に大きくすべった領域の深部で、断層がゆっくりとすべることにより発生
  • 隆起過程は、ゆっくりとした断層すべりとマントルの流動の両方に影響を受ける
  • 今後の地盤隆起過程の予測には、実験岩石学的知見が必要

概要

沈み込み帯[用語1]などで起こる巨大地震のあとには、余効変動と呼ばれる大きな地殻変動が現れることが知られています。余効変動は、一般的に、地震を起こした断層深部での、揺れを起こさないゆっくりしたすべり(余効すべり[用語2])と水飴のようなマントルの流動(粘弾性緩和[用語3])の組み合わせによって引き起こされます。東北大学 大学院理学研究科 武藤潤准教授、太田雄策准教授、および海洋研究開発機構、東京大学地震研究所、東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 岩森光特定教授、南洋理工大学、南カリフォルニア大学からなる合同研究チームは、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)後の余効変動の観測データとそれらを説明する数値解析から、現在活発に隆起している東北地方沿岸部は、地震時に大きくすべった領域のさらに深部での余効すべりによって引き起こされていることを突き止めました。また余効すべりと複雑なマントル流動の相互作用が今後の沈降の回復に大きく影響することを世界で初めて示しました。このことは、人々の生活に直結する地面の鉛直変動[用語4](隆起・沈降)の観測を説明するとともに、その将来予測を行うためには、岩石の流動する特性や断層の摩擦特性及びそれらの相互作用を正確に考慮する必要があることを示しています。

背景

これまで、マグニチュードが8を超える大地震後の余効変動から、地下の粘性構造や断層上の摩擦特性といった岩石のレオロジー[用語5]特性を推定する試みが行われてきました。特に2011年東北沖地震後の余効変動に関しては、海域での観測網の発達と数値モデリングの進展から、実験岩石力学から提唱されるような複雑な岩石レオロジーを考慮したモデリングも盛んに行われています。しかし、我々の生活に関係する鉛直変動の観測結果に関しては未だ説明がなされてきませんでした。今回、岩石の流動と摩擦特性を用いて温度依存、流体量の不均質性を考慮した余効変動モデルを構築することで、水平変動・鉛直変動およびそれぞれの時系列を説明することができました。

成果

東北地方全域で観測されている余効変動は東北沖地震から5年たった2016年でも活発に進行しています。地震時に最大で1 m程度沈降した沿岸部は隆起を続けていますが、地震前の地面の高さを取り戻していません。そこで、宮城―山形を通りかつ地震時に大きく滑った日本海溝に直交する2次元の測線を作成し、この領域での余効変動解析を行いました。この地域は、国土地理院が全国に展開するGNSS観測網[用語6](GEONET)に加えて、東北大学が独自のGNSS連続観測網を展開しており、非常に高密度な観測が可能です(図1)。室内での変形実験から報告されている岩石の複雑な変形特性(非線形レオロジー[用語7]特性)を反映させるため、余効変動モデルでは、日本列島直下の温度構造・流体分布を考慮し、地下の粘性構造を決定しました。さらに地震を起こしたプレート境界深部での余効すべりを再現するため、岩石変形実験から提唱されている摩擦法則を適応しました。

今回、岩石の流動と摩擦特性を用いて温度依存、流体量の不均質性を考慮した余効変動モデルを構築することで、水平変動・鉛直変動およびそれぞれの時系列を説明することができました(図2)。計算された変動場をよく見てみると、現在観測されている太平洋沿岸部の隆起は、地震時に大きくすべった断層深部での余効すべりが引き起こしていることが明らかになりました(図2B、D、3)。また、岩石の非線形レオロジーを考慮することで、地震の応力変化によって、マントルの有効粘性が著しく下がり、大きな変形が起こっていることが推測されます。プレート境界深部での余効すべり、マントルでの粘弾性緩和とも地震によって生まれた応力で駆動されるため、両者は力学的に相互作用し、観測される地表変動(とくに沿岸部の隆起)に影響を及ぼすことがわかりました。具体的には、地震によってプレート境界に生じた応力をマントルでの遷移的な流動で緩和することも可能ですし、逆にマントルに生じた応力をプレート境界の余効すべりで緩和することも可能です。このような相互作用は、地震直後は無視しうるものですが、時間とともに徐々に大きくなっていき、牡鹿半島の隆起量も相互作用の影響を受けます(図4)。東北日本弧全体では、2011年から2016年までの5年間に観測された歪の最大30%程度が相互作用によって引き起こされることがわかりました(図5)。今回得られた成果は、今後どのように、またどの程度の時間をかけて、沿岸部の沈降が回復するのかを評価するためには、実験岩石学的な知識が欠かせないことを示しています。

宮城県―山形県周辺での2012年9月−2016年5月までの余効変動観測と解析を行った2次元測線(黒線)。灰色矢印は国土地理院GEONETによる観測、白色矢印は東北大学による観測を示す。赤―青色は地面の鉛直変動を示し、赤が隆起、青が沈降を示す。海底での黄―黒色は、Iinuma et al. (2012) による地震時のすべり量を示す。
図1.
宮城県―山形県周辺での2012年9月−2016年5月までの余効変動観測と解析を行った2次元測線(黒線)。灰色矢印は国土地理院GEONETによる観測、白色矢印は東北大学による観測を示す。赤―青色は地面の鉛直変動を示し、赤が隆起、青が沈降を示す。海底での黄―黒色は、Iinuma et al. (2012) による地震時のすべり量を示す。
モデルにより計算された変位場(A, B)とそれぞれの観測点の時系列データ(C-H)。赤がGPSデータ、緑が余効すべりによる変位、青が粘弾性緩和による変位、黒が計算された変位(余効すべりと粘弾性緩和を足し合わせたもの)を示す。変位場および時系列とも、計算値(黒線)が観測値(赤点)とよく一致している。
図2.
モデルにより計算された変位場(A, B)とそれぞれの観測点の時系列データ(C-H)。赤がGPSデータ、緑が余効すべりによる変位、青が粘弾性緩和による変位、黒が計算された変位(余効すべりと粘弾性緩和を足し合わせたもの)を示す。変位場および時系列とも、計算値(黒線)が観測値(赤点)とよく一致している。
モデルによって推定された余効すべり量(赤、左軸)と地震時のすべり量(黒、右軸)。余効すべりは、地震時すべりがなくなる領域で最大値を取る。地震時すべり量はIinuma et al.(2012)による。
図3.
モデルによって推定された余効すべり量(赤、左軸)と地震時のすべり量(黒、右軸)。余効すべりは、地震時すべりがなくなる領域で最大値を取る。地震時すべり量はIinuma et al.(2012)による。
余効変動と粘弾性緩和の相互作用によって生じる牡鹿半島の隆起量の差。黒が計算値、赤点が観測値、灰色部分が相互作用によって生じうる垂直変動の誤差を示す。
図4.
余効変動と粘弾性緩和の相互作用によって生じる牡鹿半島の隆起量の差。黒が計算値、赤点が観測値、灰色部分が相互作用によって生じうる垂直変動の誤差を示す。
相互作用の大きさと垂直変動の関係。陸域の赤―青のコンターは垂直変位速度(赤が隆起、青が沈降)を示す。マントルウェッジ、海洋マントルの赤―青コンターは、力学的相互作用の効果を示す。余効すべりの起こっている震源域深部で相互作用が大きく(〜30%)、牡鹿半島の隆起に影響を及ぼすことを示す。
図5.
相互作用の大きさと垂直変動の関係。陸域の赤―青のコンターは垂直変位速度(赤が隆起、青が沈降)を示す。マントルウェッジ、海洋マントルの赤―青コンターは、力学的相互作用の効果を示す。余効すべりの起こっている震源域深部で相互作用が大きく(〜30%)、牡鹿半島の隆起に影響を及ぼすことを示す。

今後の展望

今回のモデルでは、実験室から報告されている岩石の複雑な変形特性を考慮することで、現在活発に起こっている東北地方沿岸部の隆起を説明することができました。しかし、東北沖地震後8年間が経過しましたが、未だ地震時に沈降した多くの沿岸部は地震前の地面の高さを回復していません。今後は、得られたモデルを更に未来へと延長することで、どの程度の時間をかけて地震時の沈降を回復していくかを検討していきます。

用語説明

[用語1] 沈み込み帯 : 地球を覆う硬い岩盤からなるプレートが2つぶつかり、1つのプレートの下に別のプレートが沈み込んでいる地帯

[用語2] 余効すべり : 地震後に地震断層が揺れを起こさず、ゆっくりとすべる現象

[用語3] 粘弾性緩和 : 地震による応力変化で岩石が水飴のように流動する現象

[用語4] 鉛直変動 : 地盤の隆起や沈降など上下方向の運動

[用語5] レオロジー : 物質が変形する様子のこと

[用語6] GNSS観測網 : Global Navigation Satellite System(全球測位衛星システム)は、GPS等を使った衛星による測位システムの総称

[用語7] 非線形レオロジー : 岩石が変形する際の原因となる応力と結果であるひずみ速度が非線形関係をもつこと

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Coupled afterslip and transient mantle flow after the 2011 Tohoku earthquake
著者 :
J. Muto1,*, J. D. P. Moore2,*, S. Barbot2,3, T. Iinuma4, Y. Ohta5, H.Iwamori4,6,7
所属 :
1東北大学 大学院理学研究科 地学専攻、東北大学 災害科学国際研究所
2Earth Observatory of Singapore, Nanyang Technological University, Singapore
3Department of Earth Sciences, University of Southern California
4国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海域地震火山部門
5東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻、東北大学 災害科学国際研究所
6東京大学 地震研究所
7東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
DOI :
URL :

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准教授 武藤潤

E-mail : muto@tohoku.ac.jp

海洋研究開発機構 海域地震火山部門

地震津波予測研究開発センター

研究員 飯沼卓史

E-mail : iinuma@jamstec.go.jp

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系

特定教授 岩森光

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