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マイクロ波を用いバイオマスの超急速熱分解を実現

精密制御の半導体マイクロ波発振器による高効率加熱

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2019.11.25

要点

  • マイクロ波発振器とシングルモード型空洞共振器でバイオマスを高効率加熱 
  • 稲わらを最大毎秒330 ℃で超急速に昇温し熱分解に成功
  • 共振周波数測定によりマイクロ波加熱中に急速熱分解による炭素化を観測

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の椿俊太郎助教、和田雄二教授らは産業技術総合研究所マイクロ化学グループの西岡将輝上級主任研究員とともに、マイクロ波[用語1]を用いてバイオマスの超急速熱分解に成功した。半導体式マイクロ波発振器[用語2]円筒型空洞共振器[用語3]を用い、マイクロ波の照射条件を精密制御してバイオマスに強電界を印加することにより、稲わらを最大毎秒330 ℃に急速昇温することができた。

従来のマグネトロン式のマイクロ波装置[用語4]を用いたバイオマスの熱分解では、バイオマスに集まる電界強度が低いため、マイクロ波の吸収性が高い熱媒体を添加する必要があった。今回は半導体式のマイクロ波を用いて高い共振状態を作り出すことにより、熱媒体を用いることなくバイオマスを600 ℃以上に急速昇温することができた。

研究成果は英国王立化学協会の「Green Chemistry(グリーン・ケミストリー)」オンライン版に11月22日(英国時間)に掲載された。

研究の背景

バイオマスの急速熱分解によって、合成ガス(一酸化炭素および水素の混合気体)、バイオオイル(タール)、バイオチャー(炭素材料)などの有用な化学物質を得ることができる。しかし、バイオマスは熱伝導率が低く、水分含有量が高いため、効率的に加熱するためにはバイオマスを微粉末化して熱伝導性を高めつつ、高温に加熱した熱媒体と接触させる必要があり、プロセスの効率向上が求められていた(図1A)。

マイクロ波加熱はバイオマスの加熱効率を高める方法として検討されてきた。だが、従来のマグネトロンを用いたマイクロ波加熱方式では高い電界強度を得ることができないため、マイクロ波吸収性のよい熱媒体として炭素やシリコンカーバイド(SiC)を添加する必要があった(図1B)。

そこで本研究チームは、半導体式のマイクロ波発振器を用いてマイクロ波の照射条件を精密に制御することにより、高強度のマイクロ波をバイオマスに集中し、熱媒体を用いることなく、省電力での急速なバイオマスの熱分解を検討した(図1C)。

従来の外部加熱方法およびマグネトロン式のマイクロ波加熱と、本研究における半導体式のマイクロ波を用いたバイオマスの加熱方法の比較
図1.
従来の外部加熱方法およびマグネトロン式のマイクロ波加熱と、本研究における半導体式のマイクロ波を用いたバイオマスの加熱方法の比較

研究成果

今回の研究ではバイオマスのモデル原料(セルロースとアルカリリグニン)と実際に排出されるバイオマス原料(稲わら)に対して、共振周波数[用語5]の自動追跡が可能な半導体発振式のマイクロ波加熱の効果を検証した。この装置を用いた場合、マイクロ波照射後12秒以内に稲わらが600 ℃以上に加熱され、最大の昇温速度毎秒330 ℃に達した(図2A)。

また、バイオマスの熱分解反応中に炭素化が進行する過程を共振周波数の変化を追跡することで、直接観測することができることを見出した。急速昇温が生じる間に共振周波数が大きく低下していることから、昇温に伴いバイオマスの急激な炭素化が進行していることが確認された(図2B)。

これらの結果から、半導体式のマイクロ波発振器を用いて高度に制御したマイクロ波を用いることにより、熱媒体を使用せずにマイクロ波のエネルギーをバイオマスに直接伝送し、超高速に熱分解できることを実証した。

半導体式マイクロ波装置を用いた稲わらの急速昇温。マイクロ波加熱時の(A)温度変化、および(B)共振周波数の変化
図2.
半導体式マイクロ波装置を用いた稲わらの急速昇温。マイクロ波加熱時の(A)温度変化、および(B)共振周波数の変化

今後の展開

今回、開発した技術は林地残材や農業残滓などのバイオマスだけでなく、プラスチックや食品、汚泥、医療系ゴミなどの廃棄物の分解にも応用することができる。今後、化石資源由来のエネルギーから太陽光や風力発電などによる再生可能エネルギーへの転換が期待されている中、マイクロ波加熱は電気エネルギーを用いて駆動することができる。クリーンなエネルギーを用いた効率的なマイクロ波加熱により、低消費電力で二酸化炭素の排出削減が可能なプロセスで未利用炭素資源から有用化合物が製造できるようになると期待される。

半導体式マイクロ波加熱装置を用いた未利用バイオマス資源から有用炭素化物の製造

図3. 半導体式マイクロ波加熱装置を用いた未利用バイオマス資源から有用炭素化物の製造

用語説明

[用語1] マイクロ波 : 電磁波の一種で周波数が300 MHz~300 GHzの帯域のものを指す。2.45 GHzは電子レンジでも利用される。

[用語2] 半導体式マイクロ波発振器 : 従来のマイクロ波の発振方式は、マグネトロン(電子管)式が主流であった。窒化ガリウム(GaN)などの半導体を用いた増幅器が開発され、省エネルギー化が可能なマイクロ波デバイスとして普及が進んでいる。

[用語3] 円筒型空洞共振器 : 内部に単一のマイクロ波の定在波が生じる、シングルモード型の空洞共振器。本研究ではTM010モードと呼ばれるモードが生じ、電場の最大点に試料を配置することで効率的な加熱が可能となる。

[用語4] マグネトロン式のマイクロ波装置 : いわゆる電子レンジと同じ構造をしたマルチモード型のマイクロ波加熱装置。庫内に単一のモードが存在しない。マグネトロンの発振周波数がブロードであることや、金属製羽根を用いて定在波を防ぐことにより、試料の均一な加熱が可能である。一方、加熱効率はシングルモード型に劣る。

[用語5] 共振周波数 : シングルモード型の空洞共振器の内部に生じる共振周波数。空洞共振器に非加熱物質を装荷した場合、共振するマイクロ波を入力することで高い加熱効率を得ることができる。共振周波数は温度や試料の化学的変化によって大きく変動する。入力するマイクロ波の周波数をダイナミックに変化させることで、高い加熱効率を維持することができる。

謝辞

本研究は環境研究総合推進費 革新研究開発(若手枠)「マイクロ波加熱を利用した未利用バイオマスの高速炭化システムの開発」のほか、科学研究費助成事業基盤研究(S)および若手研究(A)の支援を受けて実施した。

論文情報

掲載誌 :
Green Chemistry
論文タイトル :
Ultra-fast pyrolysis of lignocellulose using highly tuned microwaves: Synergistic effect of cylindrical cavity resonator and frequency-auto-tracking solid-state microwave generator
著者 :
Shuntaro Tsubaki, Yuki Nakasako, Noriko Ohara, Masateru Nishioka, Satoshi Fujii, Yuji Wada
DOI :

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