研究

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加熱だけで分子の形を環状に変換する手法を開発

環状構造の量産化とそれを利用した材料創製に貢献

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2020.01.14

要点

  • 環状分子は他の形状分子と比べ特異な機能・物性を発現するが、合成が困難
  • 溶媒中で加熱することで、選択的に単一の環状構造へと変換することに成功
  • 大量合成に適し工業利用はもちろん環状骨格の詳細な機能・特性の解析に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の青木大輔助教(JST さきがけ研究者兼務)、桑田繁樹准教授、大塚英幸教授らは、簡便な実験操作で、所望する分子骨格を環状のトポロジー(分子の形)へと変換する手法を開発した。

青木助教らは「加熱により安定ラジカル[用語1]を発生する分子骨格」と「環化させたい分子骨格」を重合反応で化学的に連結させ、直鎖状高分子[用語2]へと変換。その後に、直鎖状高分子を希釈し加熱することで、選択的かつ簡便に環状構造へとトポロジー変換させることに成功した。この手法に適用できる分子骨格は低分子から高分子と幅広く、環状構造の量産化とそれを利用した材料創製に役立つと期待される。

分子量が中程度以上の環状高分子も含む環状分子[用語3] は、古くから他の形状の分子とは異なる特異な機能・特性を発現することが知られている。しかし環状という特異なトポロジーは、その合成を困難にしており、純度よく大量に合成する手法の開発が望まれていた。

研究成果は1月9日「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

本研究の概念図

図1. 本研究の概念図

研究の背景

環状化合物、特に分子量が中程度からそれ以上の環状高分子は、古くから他の形状の化合物や高分子とは異なる特異な機能・特性を発現することが知られていた。しかし、一方で環状という特異な形状(トポロジー)は、その合成を困難にしており、狙った構造を選択的かつ大量に環状化する手法は今日の合成技術をもってしてもいまだ確立されていない。そのため、幅広い分野での工業的な利用はもちろん、学術的にも詳細な機能・特性の十分な解析は困難だった。

研究の経緯

環状化合物・高分子を合成[用語4]する際に最も重要となる反応ステップは「環化のプロセス」であり、いかに環化反応を効率よくかつ選択的に進行させるかが重要な鍵となる。今回の研究では、この環化のプロセスを副反応なく、自発的かつ選択的に引き起こすために動的共有結合[用語5]に着目した。

研究成果

青木助教らの研究グループは、環化のプロセスを副反応なく、自発的かつ選択的に引き起こすために動的共有結合に着目。中でも、熱によりその動的な特性を厳密に制御(on-off制御)することができる(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド骨格[用語6](以下 BiTEMPSと省略)は、以下の理由から研究を遂行する上で理想的な骨格であることを見いだした。

1.
100 ℃以上の加熱により特定の共有結合が可逆的に均一開裂し、安定ラジカルを発生する動的特性「on」状態、また加熱しなければラジカルは発生せず安定な共有結合として振る舞う= 動的特性「off」状態。
2.
熱によって発生する安定ラジカルの官能基許容性[用語7] は高いため種々の分子骨格に適用できる。
3.
安定ラジカルの結合交換反応が非常に早く起こる。
4.
加熱するだけで反応を誘起でき、酸素ケアや高価な触媒を必要としない。

以上のような特性を有する動的共有結合ユニットであるBiTEMPS骨格を、「環化させたい任意の構造」と重合反応させることで、共有結合で連結させ直鎖状高分子へと変換した。次に、得られた直鎖状高分子を希釈し、加熱することで、選択的かつ簡便に環状構造へとトポロジー変換させることに成功した。

すなわち、動的な特性が「on」となる高温条件下において、他の外部因子(溶媒の種類や濃度)を適切に選択することで、所望する環状の形状へとそのトポロジーを変換させ、トポロジー変換後は、動的な特性が「off」となる100℃以下へと冷却することで、外部因子に応じて変形した環状のトポロジーを固定化することができる。

この手法は、所望の分子骨格を大量スケールで簡便に環化することができるため、従来にはない理想的な環状骨格の合成法と捉えることができる。また、環化する対象骨格を低分子とした場合、比較的高濃度条件(1 g / 100 mL およそ 20 mmol/L)においても環化反応を引き起こすことができ、さらにBiTEMPS骨格を1つのみ有する環状化合物を高収率で単離し、その構造をX線結晶構造解析[用語8]により明確にすることにも成功した。

BiTEMPSの動的特性(on-off制御)を利用した環状化合物・高分子の合成法

図2. BiTEMPSの動的特性(on-off制御)を利用した環状化合物・高分子の合成法

今後の展開

今回、開発した手法は酸素ケアや触媒が要らず、簡便な操作で行うことができることから、幅広い分野での工業的な利用はもちろん、学術的にも環状骨格の詳細な機能・特性についてより詳細な解析が期待できる。また狙った分子骨格に環状分子特有の分子認識能や包接能といった特異の機能・物性を付与することもできる。この研究を契機に、環状分子を機能材料開発のツールとする新しい材料設計の指針を立てることができる。

用語説明

[用語1] 安定ラジカル : ラジカルは不対電子(電子対にならない電子)を持つ原子や分子である。一般的にラジカルは反応性が高いために、生成するとすぐに他の原子や分子間で反応を起こし、安定な分子やイオンとなる。ラジカルは大気中の酸素とも反応するため、有機反応に利用する場合、酸素を系中から取り除く必要がある。本研究で扱うBiTEMPS骨格から発生するラジカルは、化学的安定性に優れたラジカルであるため酸素に対しても不活性であり、種々の反応に利用することができる。

[用語2] 直鎖状高分子 : モノマーと呼ばれる単位分子が重合し、連続して結合することで形成するひも状の高分子の総称。ひも状であるため2つの末端構造を有する。

直鎖状高分子

[用語3] 環状分子 : 構成する原子が環状に結合した化合物であり、分子量が大きいものは環状高分子と呼ばれる。他の形状の分子と比べその内孔を利用した包接能や分子認識能といった特異な機能・物性を発現する。

環状分子

[用語4] 環状分子(環状高分子を含む)の合成法 : 環状分子(環状高分子を含む)の合成法については、これまで(i)鎖状分子の両末端の連結、(ii)環状開 始剤の環拡大、及び(iii)縮合重合反応による環状成分の選択的合成、のおもに3つの方法が報告されている。それぞれの手法で利点がある一方で、(i)では他の高分子鎖との反応を避けるために高希釈条件での反応が必須である。 (ii)では環状の開始剤を合成する際に環化のプロセスを経ることと、適用できるモノマー構造が限定され所望の構造を導入することが困難である。(iii)では反応の起点となる官能基を高分子主鎖骨格中に導入する必要があり、また分子量とその分布の制御が難しい点に、それぞれ問題がある。

環状分子(環状高分子を含む)の合成法

[用語5] 動的共有結合 : 共有結合でありながら可逆的な解離-付加を実現できる結合(動的共有結合)を利用する化学システムは、「動的共有結合化学(Dynamic Covalent Chemistry)」として注目を集めている。こうした平衡系の共有結合に基づく分子構造体は、熱力学的に安定な構造を有するが、特定の外部刺激(温度、触媒、光、化学種添加など)によってその構造が変化するというユニークな特徴を合わせもっている。

[用語6] ジスルフィド骨格 : 熱によってその動的特性を制御可能な(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド(BiTEMPS)の化学構造。

ジスルフィド骨格

[用語7] 熱によって発生する安定ラジカルの官能基許容性 : 化学反応を進行させる上で問題となるのはその選択性である。狙った骨格同士を共有結合で連結できれば理想的だが、反応性が高いものほど意図していない他の骨格とも反応してしまう。狙った骨格に対して反応性をもっていながらそれ以外の骨格(官能基)とは反応しない「官能基許容性」は有機合成反応を設計するにあたって重要な指標となる。

[用語8] X線結晶構造解析 : 単結晶X線回折法は、1つの単結晶内の電子雲の規則性を利用し、そのX線干渉模様を計測し、それを数値解析することによって、実像である電子雲の空間分布を解き明かす手法である。単結晶X線回折法を利用することで結晶内部の原子がどのように配列しているかを決定することができる。

今回の研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ

研究領域:
「トポロジカル材料科学と革新的機能創出」
研究総括:
村上修一(東京工業大学 理学院 教授)
研究課題名:
「空間結合を創る高分子トポロジー変換反応を鍵とした異種トポロジーの融合」
研究者:
青木大輔(東京工業大学 物質理工学院 助教)
研究実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
平成30年10月~令和4年3月

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
A Strategy toward Cyclic Topologies Based on the Dynamic Behavior of a Bis(hindered amino)disulfide Linker
著者 :
Nao Tsurumi, Rikito Takashima, Daisuke Aoki, Shigeki Kuwata, and Hideyuki Otsuka
DOI :

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