東工大ニュース
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公開日:2020.01.15
東京工業大学 物質理工学院 材料系の林智広准教授らは台湾国立科学技術大学のジア-イン チャン准教授(Prof. Chia-Ying Chang)のグループとの国際共同研究により、バイオディーゼル燃料の生産過程で廃棄物となるグリセロール[用語1]から、付加価値の高いジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone、DHA)[用語2]と水素を選択的に生成する技術の開発に成功した。安価な触媒である酸化銅(CuO)を用いた電気化学的反応により達成した。
本研究グループは、東工大のラマン分光[用語3]技術と台湾科技大の触媒反応技術を組み合わせることにより、触媒表面における化学反応メカニズムを解明し、最適な反応条件を見つけ出した。この研究によって、廃棄物の資源としての再利用に加え、水素の産生という2つの異なる成果が生まれ、持続可能な社会の構築へ向けた大きな貢献が期待される。
研究成果は、オランダの科学誌「Applied Catalysis B: Environmental(アプライド・カタリスィス・エンバイロメンタル)」オンライン速報版に2019年12月19日(現地時間)に掲載された。
本研究の成果はCuOという地球上に豊富に存在し、かつ安価な材料を触媒として、バイオディーゼル製造の際の廃棄物であるグリセリンから、化粧品、甘味料などに使用されるDHAおよび水素を選択的に製造する技術を確立したことである。特にCuO触媒表面における化学反応を、ラマン分光を用いてその場観察[用語4]することで、反応メカニズムの解明、反応選択性を最大化するための反応条件の最適化の2つを達成した。
バイオディーゼル燃料(BDF)はカーボンニュートラルな軽油代替燃料として注目されているが、その製造時には副産物として原料の10%程度のグリセロール(グリセリン)が生成される。このグリセロールには有効な応用用途がなく、付加価値が高い物質への転換方法が求められていた。この物質転換の研究には金、白金などの貴金属が触媒に用いられていたが、地球上により豊富に存在する安価な触媒が求められていた。
現在、本国際共同研究において、さらなる新触媒の開発、反応効率の向上という2つの観点から実用化に向けた研究が進んでいる。触媒の種類、溶液条件(特にpH値)などの違いによる反応経路の違いなどのデータが蓄積してきたことから、今後は機械学習などの情報科学的手法との融合により、最小限の実験で最適な物質変換条件を導出する技術の開発を行っている。
用語説明
[用語1] グリセロール : 廃食用油からバイオディーゼル燃料を製造する際に発生する副生成物であり、再利用のための研究が多く行われている。グリセリンとも呼ばれる。
[用語2] ジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone、DHA) : 最も小さな単糖の1つ。無害な肌の着色料、脂肪燃焼・筋肉増強のためのサプリメントの原料としても利用されることが多い。
[用語3] ラマン分光 : 光を用いて分子振動を観察することにより、分子種・その量を 解析する手法。空気中・液中の試料も測定可能であることから、化学反応のその場観察に用いられることも多い。
[用語4] その場観察 : 様々な環境での材料の変化や物質の状態をリアルタイムで評価すること。
論文情報
掲載誌 : |
Applied Catalysis B: Environmental |
論文タイトル : |
Selective Electro-oxidation of Glycerol to Dihydroxyacetone by a Non-precious Electrocatalyst - CuO |
著者 : |
Chin Liu, Makoto Hirohara, Tatsuhiro Maekawa, Ryongsok Chang, Tomohiro Hayashi, Chia-Ying Chiang |
DOI : |
お問い合わせ先
東京工業大学 物質理工学院 材料系
准教授 林智広
E-mail : tomo@mac.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5400
取材申し込み先
東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
E-mail : media@jim.titech.ac.jp
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