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AIを使い生体材料(バイオマテリアル)の設計に成功

機械学習で生体分子の吸着を予測し、材料を高速スクリーニング

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公開日:2020.08.31

要点

  • 材料の物性、生体分子との相互作用を、材料の化学構造から正確に予測
  • 過去の文献データを利用したデータベースの構築と機械学習を活用
  • 材料を高速にスクリーニングすることで、材料開発のスピードを圧倒的に加速
  • 従来の試行錯誤的な材料設計のアプローチから脱却した、新しい開発手法

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の林智広准教授らのグループは、機械学習[用語1]を用いて、生体材料(バイオマテリアル)[用語2]を設計する新たな手法の確立に成功した。

有機薄膜の水への濡れ性[用語3]、膜へのタンパク質吸着に関する過去の文献・実験データを活用してデータベースを構築し、機械学習を用いて、膜を構成する分子の化学構造と膜の特性の相関解析を行った。これに基づいて、生体材料の化学構造から材料の濡れ性、タンパク質の吸着量を正確に予測する手法を開発した。

この手法は未知の材料の材料特性なども予測することができ、将来は材料の高速スクリーニング(必要なものを選び出すこと)に応用し、材料開発の時間とコストを大幅に削減する可能性があることを明らかにした。

研究成果は2020年8月17日付「ACS Biomaterials Science & Engineering(米国化学会バイオマテリアルズ・サイエンス&エンジニアリング)」に掲載された。

研究成果

本研究はモデル有機材料として広く用いられている、自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)[用語4]の材料特性(水の接触角[用語5]、SAMへのタンパク質吸着量)を、世界で初めてSAMを構成する分子構造から予測した。

この成果は過去の文献からデータを抽出して独自のデータベースを構築し、人工ニューラルネットワーク[用語6]モデルを用いた機械学習を用いて達成した(図1及び2)。さらに未知の材料の材料特性の予測にも成功、本手法が材料のスクリーニングに応用可能であることを示した。将来的には材料開発のコスト・時間の大幅な削減に繋がることを明らかにした。

人工ニューラルネットワークを用いた機械学習の概略図

図1. 人工ニューラルネットワークを用いた機械学習の概略図

機械学習を用いた水の接触角とタンパク質吸着量の実験値と予測値の比較。点線(y = x)に近いほど予測が正確であることを示す。

図2. 機械学習を用いた水の接触角とタンパク質吸着量の実験値と予測値の比較。
点線(y = x)に近いほど予測が正確であることを示す。

背景

情報科学を活用した材料設計は触媒、バッテリー材料などの固体材料の分野で多くの成功例が報告されている。これらの例では、計算科学を活用して構築する大規模な材料の化学構造と物性(材料機能)のデータベース(ビッグデータ)が重要な役割を果たす。一方で、生体材料の機能、例えば生体分子・細胞の接着などは、計算科学で予測することができず、生体材料(バイオマテリアル)の分野における材料設計の成功例は極端に少ない。

生体材料へのタンパク質などの生体分子の吸着、細胞の接着は最も基本的な生体材料の特性であるが、定量的な予測は今まで実現されていなかった。そのため生体材料の設計は従来からの"試行錯誤"的なアプローチ(実際に材料を作り、その特性を解析し、次の材料設計にフィードバックする)に頼らざるを得ないのが現状であり、材料開発の時間やコストという面で非常に非効率だった。

研究の経緯

林准教授らは生体材料と生体分子・細胞との相互作用を系統的に調べるためのプラットフォームの開発を続けてきた。特に、材料表面上で化学組成が位置によって連続的に変化する傾斜表面(Langmuir 2015, 31, 7100. Japanese Journal of Applied Physics 2009, 48, 095503など)など、材料の化学組成と生体分子・細胞の応答に関するビッグデータを系統的に取得するための手法を提案してきた。また、過去の文献データからの情報抽出も行い、これらのデータを融合させ、情報科学的な手法で未知の材料を設計することを発案した。

今後の展開

現在も継続的にデータベースの規模を拡大中である。材料の化学構造の記述方法も改良を続け、数年以内に3大バイオマテリアルである、高分子、セラミクス、金属への応用も可能とし、本手法の応用可能範囲を広げる予定である。特に産(実際の材料開発現場での応用)、学(未知材料の開発)、官(データベースの公開)と広く連携を進める。

付記

本研究は科学研究費補助金(課題番号:JP19H02565、JP20H05210)、およびJSTさきがけの支援で行われました。

用語説明

[用語1] 機械学習 : コンピューターにデータを読み込ませ、あるアルゴリズムに基づいて分析させる手法。データを反復的に学ばせることによって、そこに潜む特徴やパターンを見つける手法。

[用語2] 生体材料(バイオマテリアル) : 主にヒトの生体に移植することを目的とした素材のこと。具体的な生体材料としては人工関節やデンタルインプラント、人工骨および人工血管用の素材などが該当する。

[用語3] 濡れ性 : 固体表面に対する液体の親和性(付着しやすさ)を表すもの。液体が水の場合には、濡れ性は親水性や疎水性という言葉でも表される。

[用語4] 自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM) : 固体材料表面上において、有機分子が基板との相互作用、分子間相互作用によって、有機分子が高い秩序性を持って、単分子膜を形成する現象を利用した固体表面の改質方法。基板と分子の組み合わせは、金-チオール、シリコン-シラン、酸化物-リン酸などがある。

[用語5] 水の接触角 : 材料の水に対する親和性の指標。材料表面に水滴を置き、その水滴の水面と材料表面のなす角度。疎水性(親水性)が高い程、接触角は大きく(小さく)なる。

[用語6] 人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN) : シナプス結合で相互結合した神経細胞の構造に類似した情報処理のための数理モデル。各要素(ニューロン)は異なる結合強度でネットワークを形成する。機械学習の過程において、結合強度は最適化される。

論文情報

掲載誌 :
ACS Biomaterials Science & Engineering
論文タイトル :
Data-driven prediction of protein adsorption on self-assembled monolayers toward material screening and design.
著者 :
Kwaria, R. J.; Mondarte, E. A.; Tahara, H.; Chang, R.; Hayashi, T.
DOI :

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