研究

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太陽系外惑星の材料を特定する新しい観測手法の提案

壊れゆく惑星から流れ出る塵の色を宇宙望遠鏡の組み合わせで観る

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公開日:2020.10.07

要点

  • 太陽系外の惑星を構成する固体物質はこれまでのところ不明
  • 高温のため蒸発しつつある太陽系外惑星のもつ「塵の尾」に着目
  • 複数の宇宙望遠鏡を用いて塵の尾の「色」を観測することにより、惑星の組成が推定できることを立証

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の奥谷彩香大学院生(博士後期課程2年)、奥住聡准教授、大野和正研究員、平野照幸助教は、打ち上げが計画されている宇宙望遠鏡JWST[用語1]およびSPICA[用語2]を用いることで、恒星の付近をまわる固体の惑星の材料を探ることが可能になることを明らかにした。

「解体惑星」と呼ばれる高温で蒸発しつつある太陽系外惑星は、彗星のような塵の尾[用語3]を従えていることが知られている。研究チームは、さまざまな固体物質からなる解体惑星を想定し、それらの惑星の塵の尾を通過する赤外線のスペクトル(可視光の「色」に相当)を理論的に計算した。その結果、そのスペクトルをJWSTとSPICAを用いて観測することで、太陽系から約300光年以内の距離にある解体惑星の構成物質を特定できることが示された。本研究が提案する観測により、主に岩石と金属から成る地球のような惑星が、宇宙においてどの程度普遍的なタイプの惑星なのかが将来明らかになると期待される。

本研究成果は、10月6日(現地時間)発行の米国科学誌「The Astrophysical Journal (アストロフィジカルジャーナル)」に掲載された。

背景・研究の経緯

太陽系外惑星(系外惑星)がどのような物質で構成されているかを明らかにすることは、惑星の性質や起源を理解する上で重要である。系外惑星の組成は太陽系の惑星と大きく異なる可能性もあり、炭素や炭化物の固体からなる「炭素惑星」も理論上は存在しうる。従来、系外惑星の半径と質量の観測からその惑星の組成を明らかにしようとする試みがなされてきたが、この方法では惑星組成の候補を1つに絞り込むことができないという問題があった。

これに対して本研究チームは、固体を主成分とする系外惑星組成の解明の鍵を握る天体として、「解体惑星」と呼ばれる恒星の極めて近くをまわる惑星に注目した。解体惑星は非常に高温であるため、その固体表面が蒸発しつつあると考えられている。これまでの天文観測により、解体惑星は彗星のような塵の尾を伴うことが分かっているが(図1)、この塵の粒は蒸発した固体の蒸気が宇宙空間で冷え固まってできたものであると解釈されている。従って、もし塵の尾の組成を観測から知ることができれば、塵の尾の放出源である解体惑星がどのような固体物質から構成されるかを突き止めることができる。

図1. 恒星の前を通過する解体惑星と「塵の尾」のイメージ図

図1. 恒星の前を通過する解体惑星と「塵の尾」のイメージ図
(出典: NASA/JPL-Caltech)

研究成果

研究チームは、2つの次世代宇宙望遠鏡JWSTおよびSPICAを用いた将来の観測によって、解体惑星の塵の尾の組成を絞り込む方法を提案した。固体の粒はその組成に応じて、異なる波長の光(電磁波)[用語4]を異なる割合だけ吸収する。従って図1に示されるように、塵の尾から透けて見える恒星の光をさまざまな波長で観測すると、塵の尾を形成する固体の粒の組成に応じて、ある波長では光を強く吸収し、別の波長ではほとんどが透過するということが起こる。光が透過する割合を波長ごとに表したものを「透過スペクトル」と呼ぶ。例えば可視光の透過スペクトルは、人間の目で見たときのその塵の尾の色を表す。一方、JWSTおよびSPICAは、塵の組成をより識別しやすい赤外線の透過スペクトルを測定することができる。本研究チームは、地球のように「内部が金属核と岩石マントルに分かれた惑星」、金属核を持たない代わりに大量の鉄が岩石に含まれる「核なし惑星」、「炭素惑星」の3タイプの解体惑星を想定し、各タイプの惑星がどのような鉱物組成の塵の尾をつくるかを予想したうえで、それらの塵の尾の赤外線に対する透過スペクトルを理論的に計算した。その結果、候補鉱物ごとの透過スペクトルの違いは、JWSTおよびSPICAの観測波長域に大きく現れることがわかった(図2)。

例えば、地球のマントルのようにマグネシウムに富む鉱物と、「核なし惑星」の塵の尾の候補鉱物である鉄に富む鉱物は、SPICAの観測波長帯で大きく異なるスペクトルを示す。一方、「炭素惑星」の塵の尾の候補鉱物である炭化ケイ素はSPICAの観測波長帯では特定することができないが、JWSTの観測波長帯で特定の波長の赤外線を吸収することから特定が可能である。このように、JWSTとSPICAの観測を組み合わせることで、塵の尾の鉱物組成の候補を系統的に絞り込んでいくことが可能であることを示した。

さらに、鉱物の特定が実現可能となるような観測条件を調べるために、JWSTとSPICAそれぞれの望遠鏡に搭載予定の中間赤外線観測装置の性能に基づき、観測シミュレーションを実施した。その結果、地球から約300光年以内の距離にあり、典型的なサイズの塵の尾をもつ解体惑星に対してであれば、十分な観測精度で塵の尾の鉱物組成を特定できることがわかった。

図2. 理論計算により得られた、様々な鉱物からなる塵の尾の透過スペクトルの一例 水色の領域がJWSTの観測波長域、オレンジ色の領域がSPICAの観測波長域を表す

図2. 理論計算により得られた、様々な鉱物からなる塵の尾の透過スペクトルの一例
水色の領域がJWSTの観測波長域、オレンジ色の領域がSPICAの観測波長域を表す

今後の展開

現在惑星の探索を進める宇宙望遠鏡TESSや2026年打ち上げ予定のPLATO[用語5]によって、太陽系から300光年以内の距離にある解体惑星が新たに発見されれば、本研究で提案した観測を適用する格好のターゲットとなる。日欧が主導するSPICAを含む宇宙からの将来の赤外線観測により解体惑星本体の組成がわかれば、未だ明らかでない太陽系外惑星の組成に対する我々の理解は大きく前進するだろう。特に、惑星に含まれる鉱物の種類は、その惑星がどこで・どのように形成されたかを反映していると考えられており、塵の尾の観測を通じて解体惑星の形成過程にも迫ることができると期待される。

用語説明

[用語1] JWST(James Webb Space Telescope) : NASAが開発を行う赤外線宇宙望遠鏡。2021年10月に打ち上げ予定。

[用語2] SPICA(Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics) : 日本(JAXA)と欧州(ESA)が中心となって開発を進めている赤外線宇宙望遠鏡。2030年前後の打ち上げを目指している。JWSTよりも長い波長の赤外線を観測できることを特徴とする。

[用語3] 塵の尾 : 彗星が太陽に接近したときに、彗星から進行方向と逆方向に延びる筋状のもの。

[用語4] 光(電磁波) : 光や電波などが電磁波に含まれる。光には人間の目で見える可視光だけでなく、目で見ることができない赤外線、紫外線やX線も含まれる。可視光のうち波長が最も短いものが青色の光、長いものが赤色の光であり、JWSTとSPICAが観測する赤外線は、赤色の光よりもさらに波長の長い電磁波に属する。

[用語5] PLATO : PLAnetary Transits and Oscillation of starsの略称。欧州宇宙機関によって計画されている宇宙望遠鏡。地球サイズの太陽系外惑星を探索する。

論文情報

掲載誌 :
The Astrophysical Journal
論文タイトル :
Constraining the Bulk Composition of Disintegrating Exoplanets Using Combined Transmission Spectra from JWST and SPICA
著者 :
Ayaka Okuya, Satoshi Okuzumi, Kazumasa Ohno, and Teruyuki Hirano
DOI :

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