東工大ニュース

需要家の取引ニーズに応じてP2P電力取引を最適化するブロックチェーン技術を開発

柔軟な取引環境を実現し、余剰電力の有効活用に貢献

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公開日:2021.01.18

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 先進エネルギーソリューション研究センターの小田拓也特任教授、情報理工学院 数理・計算科学系の田中圭介教授、同学院 情報工学系のデファゴ・クサヴィエ教授、環境・社会理工学院 イノベーション科学系の梶川裕矢教授らの研究グループは三菱電機と共同で、P2P[用語1]電力取引を最適化する独自のブロックチェーン[用語2]技術を開発しました。余剰電力の融通量を最大化する取引など、需要家の取引ニーズに柔軟に対応可能な取引環境を提供し、余剰電力の有効活用に貢献します。

本研究は1月19日に開催される「暗号と情報セキュリティシンポジウム(SCIS2021)」にて発表されます。

図1. 取引を最適化するブロックチェーン技術を活用したP2P電力取引

図1. 取引を最適化するブロックチェーン技術を活用したP2P電力取引

特長

最適な組み合わせを探索するブロックチェーン技術により、柔軟な電力取引を実現

  • 売り注文と買い注文の最適な組み合わせを探索する、計算量の少ないブロックチェーン技術の開発により、需要家の取引端末などの小型計算機でもP2P電力取引が可能
  • ①余剰電力を最大限に活用したい時は需要家(電力の売り手)の余剰電力の融通量を最大化、②需要家の利益を優先させたい時は需要家全体の利益を最大化するなどの売買注文の最適な組み合わせを探索することで、さまざまな取引ニーズに柔軟に対応できるP2P電力取引を実現

研究体制

名称
担当内容
東京工業大学
ブロックチェーン技術の研究開発、最適約定アルゴリズムの設計
三菱電機
P2P電力取引システムの設計、約定[用語3]機能の設計

背景

地球温暖化対策として、太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電気を電気事業者が固定価格で買い取る「固定価格買取制度(FIT制度)」が施行されていましたが、2019年11月から順次満了を迎えています。今後、満了を迎えた需要家は、より良い条件で余剰電力を買い取る小売電気事業者を探し、新たに売買契約を結ぶ必要があります。

このような背景の下、需要家同士が余剰電力をその時々の最適な価格で直接融通しあうP2P電力取引が、新たな余剰電力の取引手段として注目されています。現行の電気事業法では需要家に電気を販売できるのは小売電気事業者に限定されるため、小売電気事業者の管理の下でP2P電力取引をブロックチェーン技術によって仮想的に実現し、その有効性の検証や課題の抽出を行う実証実験が行われています。

特長の詳細

最適な組み合わせを探索するブロックチェーン技術により柔軟な電力取引を実現

三菱電機と東京工業大学は、P2P電力取引に適した独自のブロックチェーン技術を開発しました。仮想通貨の取引などで用いられる一般的なブロックチェーン技術では、取引情報を記録する新しいブロックの生成者を決定する際に、マイニング[用語4]と呼ばれる膨大な計算処理を行うため、多数の高性能な計算機が必要でした。また、売買の注文の約定方式[用語5]には、条件の合った売り注文と買い注文から取引を順次成立させる方式等が採用されており、売買注文の組み合わせの最適化は行われていませんでした。本開発では、需要家の計算機が取引の目標やデータを共有して、売買注文の最適な組み合わせを少ない計算量で探索する、分散型の最適化アルゴリズムを考案しました。この方式を新たなマイニングとして導入することにより、小型計算機上で動作可能な取引の最適化を実現しました(表1)。

表1. ブロックチェーンの比較

 
特徴
従来
  • ブロック生成者を決定するためのマイニング処理
  • 高性能な計算機で動作
今回
  • 取引を最適化するためのマイニング処理
  • 小型計算機で動作

図2に示すように、開発したブロックチェーン技術を用いたP2P電力取引では、①所定時間毎に締め切られる需要家の売り注文と買い注文の情報と、取引の目標をすべての計算機で共有します。②それぞれの計算機は①の目標に適した売買注文の組み合わせを探索し、③探索結果を互いに提示します。④他からの探索結果を受け取った各計算機は、受け取った中で最も①の目標に適した取引を選んで新たなブロックを生成し、ブロックチェーンに追加します。

図2. 最適な組み合わせを探索するブロックチェーン技術

図2. 最適な組み合わせを探索するブロックチェーン技術

P2P電力取引は需要家の売り手と買い手の双方が直接取引によって効用を得るため、取引価格は売り注文の入札価格よりも高い価格、買い注文の入札価格よりも安い価格で約定します。また、入札は繰り返し行われるため、取引が成立しなかった需要家は、次回の入札において前回の取引価格を参考に入札価格や入札量を変更することで、取引を成立させる可能性を高めることができます。

需要家間の取引目標は、取引ニーズに応じて柔軟に切り替えることが可能です。例えば余剰電力を最大限に活用したい時は、需要家の余剰電力の融通量を最大にすることを共有目標として、売り注文と買い注文の最適な組み合わせを探索します。この時、供給電力に余剰があれば、市場原理に基づいて一時的に取引価格が安くなり、電気自動車への充電需要が増加するなど、小売電気事業者の調整なしに余剰電力を最大限有効活用することができます。また、需要家の利益を優先させたい時は、取引に参加するすべての需要家の利益の合計を最大にすることや需要家の利益の底上げを図ることを共有目標に設定するなど、取引ニーズに応じて共有目標を変更することにより柔軟なP2P電力取引を実現します。

なお、取引の探索結果が公平となるように、多数の需要家の計算機で並行して探索するとともに、複数の同等な入札(入札時刻、価格、量、売り買いの種別、といった入札者以外の情報がすべて同じ入札)がある場合には無作為に選択するなど、探索過程にランダム性を採り入れています。

今後の展開

2021年4月から、開発したブロックチェーン技術を用いたP2P電力取引システムの性能評価と探索処理の改良を行い、早期実用化を目指します。

用語説明

[用語1] P2P : Peer to Peerの略。P2P電力取引とは、取引に参加する需要家間で直接電力取引をすること

[用語2] ブロックチェーン : 取引情報を塊(ブロック)として鎖状につなげていくもの

[用語3] 約定 : 売買の取引が成立すること

[用語4] マイニング : 膨大な反復計算により、希少な条件を満たす値を探索すること。一般的なブロックチェーンでは、最初に探索に成功した人が成功報酬を得る

[用語5] 売買の注文の約定方式 : 株式の取引市場や卸電力の時間前取引市場で採用されている約定方式。ザラ場方式と呼ばれる

発表情報

会議名 :
暗号と情報セキュリティシンポジウム(SCIS2021)
発表タイトル :
Consensus Based on Proof-of-Optimal-Work and Its Application to Transactive Energy Systems
発表者 :
Xiangyu Su1, Xavier Defago1, Ryoma Fujimoto1, Hiroki Konaka2, Mario Larangeira1, Kazuyuki Mori2, Takuya Oda1, Yuta Okumura2, Yasumasa Tamura1, Keisuke Tanaka11東工大、2三菱電機)

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