東工大ニュース
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不確実性が大きく将来の予測が非常に難しい時代のなかで、社会はさまざまな変化に直面し、答えが1つに定まらないような厄介な問題(Wicked Problem)を抱えています。こうした社会や時代に生きる個人に向き合い、潜在的な課題を発見し、それを解決するためのアイデアを考え実装する能力の重要性が増しています。これらの課題の多くは、もはや個人の力で解決することはできず、各自の強い専門の力にとどまらず、他の分野の専門家と力を合わせて課題解決に携わる必要があります。
東京工業大学エンジニアリングデザインコース(ESDコース)および、チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(CBEC)では、「エンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)」という問題解決型授業(PBL: Project Based Learning)を実施しています。
EDPでは、実社会における問題意識に基づき、潜在ニーズを発見し、ソリューションを提案、プロトタイプ(試作モデル)を実装します。2020年度のプロジェクトで作成されたプロトタイプは、東京都世田谷区の二子玉川 蔦屋家電1階にある蔦屋家電プラスにて展示されました(5月27日まで展示中)。
2015年に始まったEDPは、2020年度で6回目となりました。約半年間をかけて、デザイン思考に基づきEDPが独自に築いてきたデザインプロセスを活用し、独自の視点から問題を捉え、革新的なプロダクトやサービスの創出に取り組みます。また、実社会の課題に取り組む機会を得るため、テーマ提供とプロジェクトの伴走をする企業(パートナー企業)を迎えています。
2020年度は、東工大生・武蔵野美術大生・昭和女子大生・社会人受講生がチームを組み、Dream TAKA、パナソニック株式会社、さくらインターネット株式会社、YKK AP株式会社(アルファベット順)の4つのパートナー企業からテーマが提供されました。
EDPは毎年10月に始まります。各チームはパートナー企業からテーマ設定の意図の説明を受け、翌年2月の最終発表会に向けて活動を開始します。隔週で実施される授業では、座学の講義は実施されません。各チームが授業日までに実施したチーム活動の内容を発表し、教員やパートナー企業からのフィードバックや学生間の質問を受け、次の活動内容をチーム内で議論・決定します。プロジェクト開始当初は、主に潜在的なユーザーへのインタビューを行いながら、ユーザーに共感し理解に努めます。ホワイトボードで議論するだけでなく、段ボール等で簡単なプロトタイプを作りながら、アイデア発想の起点となるユーザーの課題を探していきます。
12月下旬頃からは、3Dプリンターのようなデジタル工作機械や電子工作を使い、より本格的にユーザーの課題を解決するアイデアを具現化し、最終的には『動くプロトタイプ』を製作します。また、EDPでは、プロトタイプの実装と同じくらいユーザーの体験の可視化も重視しています。アイデアが提供するユーザーの体験を提示するため、開発したプロトタイプを用いながら、動画を作成します。
2月6日に大岡山キャンパスの三島ホールで最終発表会を行い、発表会の様子をオンライン中継しました。最終発表会では、CBECプログラムOBでSpoLive Interactive株式会社 代表取締役の岩田裕平さんを基調講演に招きました。その後、各チームから成果が発表され、作成したプロトタイプをより近くで見せ説明するデモ展示が行われました。オンライン参加者からは、発表したプロトタイプやユーザー体験について多様なコメントがありました。「欲しい。使ってみたい!」というコメントや、当初想定していなかったようなアイデアを提示され、学生は刺激を受けていました。最終発表会には延べ243名が参加し、発表会終了後の学生は、苦難を乗り越えた達成感に満ちているようでした。
教員の議論により選ばれた学生チーム『りんりん式心の洗濯機』が開発したプロトタイプ『podico(ポディコ)』は、二子玉川蔦屋家電内の蔦屋家電プラスにて、3月29日~5月27日に展示されています。
パナソニック株式会社により提供されたテーマ「大人がハマる洗濯家電をデザインせよ」に取り組み、プロダクト・サービスを考えました。製品の名前は『podico(ポディコ)』といい、寮暮らしで共用の洗濯機を普段使っている方に向けて開発した衣類冷却器です。共用の洗濯機は「洗いたい」と思ったときに必ず使えるわけではありません。podicoがあれば、汗で汚れた今すぐ洗いたい服を、安心して保管し洗濯できるようになります。
EDPでは、受講学生ならびにパートナー企業を募集しています。2021年度は、東工大エンジニアリングデザインコースに所属の学生と、武蔵野美術大学・昭和女子大学・多摩美術大学・東京造形大学・女子美術大学・日本大学芸術学部/大学院芸術学研究科の美術系大学生および、社会人受講生が参加できます。また、学生・社会人混成チームが取り組むテーマを提供し、半年間にわたりプロジェクトに参加する企業を募集しています。
参加概要や学生・企業向け説明会の詳細は、EDPのwebサイトをご覧ください。