研究

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地球コアに大量の水素

原始地球には海水のおよそ50倍の水

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公開日:2021.05.12

要点

  • 本研究グループが世界をリードする超高圧高温実験と微小領域化学組成分析により、地球形成期の超高圧下(約50万気圧)でおきた、コア−溶融マントル間の水素の分配の決定に世界で初めて成功しました。その結果、当時地球に存在した水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことがわかりました。
  • 地球コアには鉄・ニッケル以外の軽い元素が大量に含まれていることが知られていましたが、その軽元素の種類と量はこれまで謎とされていました。今回の成果により、水素がコアの主要な軽元素であることがわかりました。また地球のみならず、火星など地球の1/10以上の質量をもつ岩石型惑星においても、大量の水が水素としてコアに取り込まれた可能性が高いことがわかりました。
  • 現在の海水の量やマントル中の水の量を説明するには、現在の海水のおよそ50倍に匹敵する量の水が原始地球に存在したと考えられます。今後、これを鍵として、地球の起源(特に材料物質や集積プロセス)の理解が進むと期待されます。

概要

東京工業大学地球生命研究所 田川 翔特任助教(研究当時:東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 博士課程学生)、東京工業大学地球生命研究所/東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 廣瀬 敬教授らを中心とした東京大学・北海道大学・SPring-8/高輝度光科学研究センター・東京工業大学の研究グループは、3つの世界をリードする技術(地球深部の環境に相当する超高圧・高温実験[用語1]大型放射光施設SPring-8[用語2]におけるX線回折測定、同位体顕微鏡による微小領域化学分析[用語3])を組み合わせ、地球誕生時にもたらされた水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことを明らかにしました。

本研究の結果によると、地球の誕生時に水がもたらされていた場合、地球のコアには、海水の30−70倍の水に匹敵する水素が存在することがわかります。この成果は、本当に大量の水が原始地球に存在したのか、そうだとするとその水はどこへ行ったのか、という、地球と生命の起源の解明につながります。今後、本成果を鍵として、地球の材料物質や太陽系の集積プロセスの理解が進むと期待されます。

本研究成果は国際科学雑誌『Nature Communications』に5月11日に掲載されました。

背景

最近の惑星形成理論によれば、太陽系における惑星形成期に、地球には大量の水が小惑星帯以遠から運ばれて来た可能性が高いと考えられています。本当に海水の何十倍―何百倍もの水が原始地球に存在したのか、そうだとしたらその水はどこへ行ったのか、は地球の起源を理解する上で重要な問題です。

加えて、水の存在は生命の誕生にとっても必須であったと広く考えられています。しかも、生命に繋がった化学進化には、地球のように「海と陸が共存する多様な環境が重要だった」と言われています。地球はどのようにして「深い海」を避けることができたのでしょうか?

さらに、地球の液体コア(外核)の密度は純鉄(もしくは鉄ニッケル合金)よりも8%小さいことが知られています(これを密度欠損と呼びます)。これは鉄やニッケルよりも原子番号の小さい、軽い元素が大量に含まれていることを意味します。1952年にアメリカのF. Birchによってこのことが最初に報告されて以来70年近く研究が重ねられてきましたが、コアの軽元素の「正体」は未だに突き止められていません。これは水素なのでしょうか?

それらの謎を解く上での鍵となるが、マグマと金属鉄の間での元素の分配です。地球形成時、地球はマグマの海(マグマオーシャン)に覆われ、その中を金属鉄がコアへ落下していったとされます[用語4]。その際、金属は周囲のマグマと化学反応を起こし、マグマに含まれていた軽元素(ケイ素、酸素、水素など)を取り込んだはずです。ところが、コア(金属)とマントル(マグマ)が化学的に分離した(化学反応を終えた)とされる、およそ50万気圧・3,500度の高圧高温下で、水素(水)がマグマと金属鉄の間でどう分配されるかは、実験的な困難さゆえに明らかにされていませんでした。

この実験を可能にするには、2つの大きな困難がありました。1つめは、鉄中の水素量を測ること。なぜなら、高圧下で鉄水素合金ができても、常温常圧に戻す間に分解してしまい、鉄中の水素量は1万分の1以下に減少してしまいます。そのため、超高圧その場での分析が不可欠です。2つめは、マグマだった部分の水素の定量です。こちらは、圧力を下げても分解しないものの、水素の定量ができる手法が非常に少なく、そもそも難しい分析です。しかも今回は、試料のサイズがたったの10ミクロン程度しかありません。そのため、超高圧で実験した試料中の水の分析は、先行事例がほぼありませんでした。

研究手法と成果

今回われわれは、レーザー加熱式ダイヤモンドセルを用いて30–60万気圧・2,800–4,300度の高圧高温状態を作り出し、マグマと金属鉄の間で水素の分配実験を行いました。マグマ中の水と金属中の水素について、以下の化学平衡が成立していたと考えられます。

Fe(金属) + H2O(マグマ)<-> FeO(マグマ)+ 2H(金属)

そして、ごく微小(10ミクロン程度)な高圧高温実験試料中に含まれる、金属鉄中の水素とマグマ中の水の量を、大型放射光施設SPring-8におけるX線回折測定(図1)と北海道大学の同位体顕微鏡による微小領域化学分析(図2)によって、それぞれ決定することに成功しました。これにより、コアとマントルの間の水(水素)の分配が明らかになりました。

図1. 46万気圧の実験における金属部分のX線回折パターンの変化

図1. 46万気圧の実験における金属部分のX線回折パターンの変化

加熱前(上)・加熱中(中央)・加熱後(下)のX線回折パターンを示します。加熱前には水素を含まない純鉄のピークしかなかったものが、レーザー加熱中は約3,900 Kの高温で融けています。温度を瞬間的に常温に戻すと、鉄水素合金からの回折が現れ(図中赤いピーク)、鉄水素合金が合成されていたことがわかりました。このピークの位置より、鉄水素合金中の水素量を決めることができます。

図2. 同位体顕微鏡を用いたシリケイト中の水量の分布

図2. 同位体顕微鏡を用いたシリケイト中の水量の分布

左は実験後の試料断面の光学顕微鏡写真、中央に各元素(HとSi)の分布の生データ、右側はシリケイト部分(超高圧高温下でマグマだった部分)の水の分布図を表しています。実験後の試料の加熱箇所には、真ん中に金属鉄、周囲にシリケイト部分、そして分配に関らない部分(Ca-Pvという水を含まない鉱物)/融けていない領域が同心円状にできていました。このうち、シリケイト部分について、同位体顕微鏡で分析することで、マグマオーシャン側に分配されていた水素量が分かりました。

コアに大量の水素が持っていかれた後に、マグマオーシャン中に残された水は、現在、海水として地表にある分と、マントルの岩石に取り込まれた分があります。現在のマントルからやってきたマグマ中の含水量から考えて、マントルには海水に匹敵する量の水が存在するとされています。つまり、コア分離後のマグマオーシャンには海水のおよそ2倍の水が残されたはずです。これはマグマオーシャン中の濃度にすると約700 ppmになります。

地球の集積とコアの形成についてはいくつか異なるモデルが提唱されています。それら既存のモデルと上記の実験で求められた水素の分配係数を使ってシミュレーションを行ったところ、約700 ppmの水をマグマオーシャンに残す場合、コアには3,000 ppmから6,000 ppmの水素が取り込まれることがわかりました。

3,000–6,000 ppmの水素が外核に存在する場合、外核の密度欠損の3–6割を説明できます。つまり、水素がコアの「主要な軽元素」であることがわかります。今回のシミュレーションの結果を見ると(図3)、原始地球のサイズが現在の地球の約1/10を超えるとコア中の水素量はそれ以上増えないことがわかります。つまり、地球でなくとも、地球のような岩石惑星(もしくは衛星)が地球の1/10以上の質量を持つ場合(火星か、それより大きい岩石天体)、そのコアには地球と同じくらいの水素が含まれていると考えられます。火星のコアにも水素が存在しているはずです。

図3. シミュレーション結果の一例

図3. シミュレーション結果の一例

先行研究において中心核の形成が起きたとされている、さまざまな温度・圧力パス(左上)で、水素が核とマントルにどのように分配されるかをシミュレーションしました。横軸は、地球質量の何%まで計算をすすめた結果を表します。つまり、100%だと地球サイズであり、10%だと火星サイズの天体の計算結果になります。ここでは、地球に一定の水が降ってくる場合を仮定しています。右上図にあるように最終的にマグマオーシャンに690 ppm(地球のマントルの水 + 海水の合計の最小値)の水が残るように計算を行いました。その結果、地球の10%の質量を持つ惑星(例えば火星)でも、その多くの水は中心核に分配され、水素が核の主要な軽元素といえます(下図)。また地球の場合には、およそ30−70海水相当もの水素が核に存在していることがわかります。(下図右の「海水の何倍相当か」の軸は、惑星のコアとマントルの質量比が地球と同じと仮定し、表しています。)

今後の展望と社会的意義

「地球の海の量はどのように決まったか」という問いは、陸地と海をバランス良く持ち、生命を育むこの地球の表層が、なぜ生まれたのかを明らかにする上で、避けては通れないテーマです。今回の成果は、地球形成時に水が継続的にもたらされていたならば、海水の約30−70倍の水が地球に存在することを示しています。原始地球に運ばれてきたこれだけの水は、そのほとんどがコアに水素として取り込まれたため、地球の表層に海と陸が共存することになったのです。同じような「調整メカニズム」は、火星など、地球質量の1/10以上の質量を持つ地球以外の岩石惑星でも働いていたはずです。太陽系外惑星まで含めると、地球のような表層環境を持つ惑星は宇宙に数多く存在するのかもしれません。

また今回行ったシミュレーションでは、常に同じサイズの微惑星が地球に集積していくという、シンプルな地球の成長モデルを仮定しています。しかし実際は、原始惑星同士の衝突(巨大衝突、ジャイアントインパクト)が何度か起こったとされるなど、より複雑な地球形成プロセスを経たと考えられます。今後は、最先端の惑星形成モデルに、今回の水素の分配を取り入れることにより、地球誕生の謎、特に地球の材料物質や詳細な集積プロセスを明らかにしていきたいと考えています。

さらに、今回コアの主要な軽元素が明らかになったことにより、コアの軽元素の全容解明が大きく近づきました。軽元素の種類と量が未だに不明であるため、コアの温度や物性も大きな不確定性があります。残る軽元素として有力とされる、硫黄、ケイ素、酸素、炭素のコア中の存在量を明らかにすることで、70年に渡るコアの軽元素問題に終止符を打ち、温度や物性などコアの実態解明に迫りたいと考えています。

発表者

  • 田川翔(東京工業大学 地球生命研究所 特任助教)
  • 坂本直哉(北海道大学 創成研究機構研究部 助教)
  • 廣瀬敬(東京工業大学 地球生命研究所 所長・教授/東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授)

用語説明

[用語1] ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧高温実験 : ダイヤモンドアンビルセルは、ダイヤモンドを用いた手のひらに乗るサイズの小型の超高圧発生装置(下図左)です。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(下図右)。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料をいれ、それを上下2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生させます。さらにダイヤモンドアンビルを通してレーザーを試料に照射することにより、試料を高温にします。2011年には、廣瀬教授のグループがこの装置を用いて世界で初めて地球中心条件を再現するなど、最先端の地球深部物質科学の成果に大きく役立ってきました。

ダイヤモンドアンビルセル

ダイヤモンドアンビルセル

[用語2] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名称はSuper Photon ring-8GeVに由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。今回は、加熱前(常温)→加熱中(数千度)→加熱後(常温)の一連の操作の間、約0.2秒ごとに試料からのX線回折を取ることで、高温・高圧その場での試料観察を実現しました。SPring-8では、この放射光を用いて、地球科学以外にもナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

[用語3] 同位体顕微鏡 : 同位体顕微鏡システム(Isotope Microscope)は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry: 二次イオン質量分析)の技術を発展させ、物質中の同位元素の3次元分布をイメージング可能とした装置です。この装置では、極めて手法が限られている水素の分析・定量も可能で、これまで、月の水の発見や、隕石中の先太陽系物質の発見、太陽系起源の実証など、多くの科学的成果をあげてきました。同様の装置は世界的にみても数台しかなく、また、その開発は北海道大学にて行われています。

同位体顕微鏡システム

同位体顕微鏡システム

[用語4] 地球コアとその形成過程 : 地球コア(中心核)は、固体金属でできた内核(深さ6,370–5,150 km)と液体金属でできた外核(深さ5,150 –2,890 km)の2層構造になっています。その外側を岩石でできたマントルと地殻が取り囲んでいます(下左図)。中心核の密度が、同じ圧力の純鉄に比べ1割近く軽いという問題は「核の密度欠損問題」として知られ、未解決問題です。
コアは、地球形成時に地球のマントルが大規模に溶融し、マグマオーシャンに覆われていた中を、金属鉄が中心部へと落下していったことにより、形成されたと考えられています。その際の金属鉄と周囲のマグマの化学平衡を実験的に再現することにより、コアに取り込まれた軽元素の種類と量を制約することができます(下右図)。
また、他の岩石型惑星にもコアが存在しており、例えば火星の場合は中心の半径約1,800 kmの領域です。火星のコアも同様のメカニズムで生まれたと考えられています。

地球コア

地球コア

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Experimental evidence for hydrogen incorporation into Earth's core
著者 :
Shoh Tagawa*, Naoya Sakamoto, Kei Hirose*, Shunpei Yokoo, John Hernlund,Yasuo Ohishi & Hisayoshi Yurimoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学地球生命研究所/
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻

教授 廣瀬敬

E-mail : kei@eps.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4574

東京工業大学 地球生命研究所

特任助教 田川翔

E-mail : tagawa.s.aa@m.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室

主事員 吉岡奈々子、教授・広報室長 飯野雄一

E-mail : kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-8856

北海道大学総務企画部広報課

E-mail : kouhou@jimu.hokudai.ac.jp
Tel : 011-706-2162

SPring-8/SACLAに関する事

公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785

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