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電源不要のミリ波帯5G無線機の開発に成功

超低消費電力ビームフォーミングで5Gのエリア拡大に貢献

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公開日:2021.06.16

要点

  • 無線電力伝送を利用したミリ波帯5G無線機を実現
  • 5G準拠の超低消費電力ビームフォーミングに成功
  • 24 GHz帯無線電力伝送及び28 GHz帯無線通信対応CMOS集積回路を開発

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の白根篤史助教、岡田健一教授は、電源不要で動作可能なミリ波帯[用語1]5G[用語2]中継無線機の開発に成功した。本無線機は、無線電力伝送を利用することで電源を不要とし、28 GHz帯の電波を中継、ビームフォーミング[用語3]することでこれまで電波が届かなかったエリアにおいてもミリ波帯5Gの通信を可能とする。
従来、ビームフォーミングを実現するミリ波帯5Gアクティブフェーズドアレイ[用語4]は、アンテナ1素子につき数百ミリワットの電力を消費するため、無線電力伝送によって生成される電力では動作できなかった。

本研究では、新たに考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術[用語5]を用いることで、3桁以上小さい1素子あたり30マイクロワットの消費電力でビームフォーミングを実現することに成功した。試作した無線機は、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセス[用語6]によるICによって実現し、24 GHz帯における無線電力伝送および28 GHz帯の5G準拠の無線通信に成功した。

研究成果の詳細は、2021年6月13日からオンライン開催される国際会議Symposium on VLSI Circuits <VLSI回路シンポジウム>2021で発表する。

背景

2019年にサービスが開始された第5世代移動通信システム(5G)では、これまでのサブ6GHz帯[用語7]に加えて、ミリ波帯の利用による飛躍的な通信速度の向上が期待されている。日本国内においては、現在28 GHz帯がミリ波帯5G利用に割り当てられており、10Gbpsを超える無線通信が実現可能である。一方で、ミリ波帯を用いた無線通信では、電波の直進性が強く、遮蔽物等により通信エリアが限られてしまうという問題がある。そのため、従来のサブ6 GHz帯と比較して、より密度の高い、細やかな基地局の設置が求められている。

課題

ミリ波帯5Gのエリア拡大の課題となるのが、基地局の設置場所や設置コストである。ミリ波帯通信では見通し環境での通信が基本となるので、従来と比較してより多くの基地局が必要となる。これまでも、マクロセル[用語8]だけでなく、スモールセル[用語8]フェムトセル[用語8]といった、小型で狭いカバーエリアの基地局がサービスエリア拡大のために使い分けられてきたが、小型とはいえ設置できる場所は限られており、設置場所の確保は容易ではない。また基地局の光ファイバーネットワークへの接続や電源の引き回しによる基地局設置のコスト増大も課題である。

研究成果

本研究成果によるミリ波帯5G無線機は、無線電力伝送を利用することで電源を不要とし、28 GHz帯の電波を中継して再度ビームフォーミングすることでこれまで電波が届かなかったエリアにおいてもミリ波帯5Gの通信を可能とする。本無線機は電源が不要であるため、これまで基地局が設置できなかったような場所にも容易に取り付けることが可能となり、より高密度なミリ波帯5Gネットワークの構築が可能となる。

本無線機は、28 GHz帯の5G無線通信と同時に、ISMバンド[用語9]の24 GHz帯において無線電力伝送を行う。図1に示すように、壁などに設置された本無線機において、ミリ波帯5Gの無線通信信号を受信し、一旦4 GHzの中間周波数に変換することで、損失を抑えながら遮蔽物を通過させる。通過した信号を再度28 GHz帯まで周波数変換し、複数のアンテナで構成されるフェーズドアレイによってビームフォーミングを行うことで所望の方向へ無線通信を中継する。このとき、24 GHz帯において無線電力伝送を行い、無線通信に必要な電力を供給する。

図1 本研究における電源不要のミリ波帯5G中継無線機

図1. 本研究における電源不要のミリ波帯5G中継無線機

今回新たに考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術を用いることで、本無線機は、ごくわずかな消費電力でミリ波帯5G必須の機能であるビームフォーミングの実現を可能とした。一般的なミリ波帯5Gのビームフォーミングを可能にするアクティブフェーズドアレイは、アンテナ1素子につき数十から数百ミリワットの電力を消費するが、本研究の無線機では3桁以上小さい30マイクロワットの消費電力でビームフォーミング機能を実現する。これにより、長距離の無線電力伝送による小さい供給電力であっても動作することができる。

図2に考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術の原理を示す。これまでも消費電力の小さい無線通信方式として、バックスキャッタリング技術は用いられてきた。しかし、従来方式では、入力された電波を所望の周波数帯へ変換しながら反射するのみで、反射波に指向性をもたせてビームフォーミングを行うことができなかった。フェーズドアレイを用いてビームフォーミング機能を実現するには、所望のビーム角に対応する適切な位相の信号を各アンテナ素子において生成する必要がある。本研究の無線機では、位相が90°異なる2つの信号を用いて、0°と90°の位相成分を持つ2つの反射波を作り出した。そして0°と90°成分の反射波の強度を調整し加算することにより、任意の位相を持つ28 GHz帯の信号の生成に成功した。各アンテナ素子において、このように位相シフトした反射波を各アンテナから放射することで、世界で初めてミリ波帯5G信号のバックスキャッタリングによるビームフォーミングを可能にした。

図2 新たに考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術(右)

図2. 新たに考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術(右)

プロトタイプとして試作した無線機(図3)では、4チップの無線ICを搭載し、32素子のアンテナのフェーズドアレイを構成した。無線ICは、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセスを用いて製造し、一つのICに8系統の無線トランシーバを搭載した。実測においてビーム方向の変更が可能であることを確認し、ベクトル加算型バックスキャッタリング技術の有効性を確認した。5G準拠の変調信号を用いてOTA(Over The Air)[用語10]の無線通信測定評価を行い、受信、送信ともに5G NR MCS19[用語11]64QAM[用語12]の無線通信に成功した。本無線機は、無線トランシーバ1系統あたり30マイクロワットの消費電力で動作し、同時に無線機全体では3.1ミリワットの無線電力伝送による電力生成を実現した。

図3 試作したミリ波帯5G無線機とCMOS IC

図3. 試作したミリ波帯5G無線機とCMOS IC

今後の展開

本研究成果は、より多くのアンテナ素子を持つさらなる大規模無線機へと展開することで、通信距離の拡大、無線電力伝送による電力生成の増大が可能である。28 GHz帯は波長が短いために、256素子のフェーズドアレイであっても10 cm角に収まるほど小型であり、無線機の厚さも数mm程度と非常に薄くすることが可能である。非常に小型かつ電源不要の本無線機をこれまで基地局を設置できなかった場所に設置していくことで、ミリ波帯5Gのエリア拡大に貢献していく。さらに、本研究を無線端末側にも応用することで、バッテリーレス5G無線端末の実現も可能である。

用語説明

[用語1] ミリ波帯 : 波長が1〜10 mm、周波数が30〜300 GHzの電波。自動車レーダで使われる24 GHz帯や、5Gで使われる28 GHzのように近傍周波数である準ミリ波帯も、広義にミリ波と呼ばれることがある。

[用語2] 5G : 2019年に展開を開始した、国際的な移動通信ネットワークの第5世代技術標準。現在ほとんどの携帯電話に用いられている第4世代移動通信システム(4G)ネットワークの後継の規格である。5Gネットワークの主な利点の一つは、より大きな帯域幅を持つことであり、さらなる高速化によって、最終的には10ギガビット/秒(Gbit/s)以上の通信速度を目標としている。既にサービスを開始している5Gの移動通信のほとんどは従来技術の延長であり、4G携帯電話と同じかわずかに高い、6 GHz程度までの限られた帯域の周波数範囲を使用している。一方で、高度な技術が必要とされる、ミリ波を利用した5Gシステムも活発に研究されており、新たなテクノロジーの突破口となることが期待されている。

[用語3] ビームフォーミング : 電波を細く絞って、特定の方向に向けて集中的に発射する技術。

[用語4] フェーズドアレイ : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミングの実現に利用される。

[用語5] バックスキャッタリング技術 : 電波の反射を用いることで、通信を行う技術で、発振器や増幅器無しで構成できるため、低消費電力化が可能である。

[用語6] シリコンCMOSプロセス : CMOSプロセスはN型とP型のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。

[用語7] サブ6 GHz帯 : 6 GHz以下の周波数帯。

[用語8] マクロセル、スモールセル、フェムトセル : 携帯電話基地局の種類で、電波がつながるエリアの広さに応じて使い分けられる。

[用語9] ISMバンド : 「産業科学医療用バンド」で、無線電力伝送など強力な電波の放射が行われる可能性がある周波数帯。

[用語10] OTA(Over The Air) : ケーブルを利用した接続に対して、アンテナを用いて電波伝搬を介した接続での測定。

[用語11] MCS19(Modulation and Coding Scheme) : 無線通信において変調方式とコーディングレートを指定するための指標。ミリ波帯5GにおいてMCS19は、64QAMの変調方式と85%のコーディングレートを表す。

[用語12] 64QAM : 64 Quadrature Amplitude Modulation(64値直交振幅変調)。振幅と位相双方に情報を乗せて伝送する変調方式。1シンボルあたり6 bit 64値の情報を乗せることができる。

発表予定

この成果は2021年6月13日からオンライン開催される国際会議Symposium on VLSI Circuits <VLSI回路シンポジウム>2021において、「A 28-GHz Phased-Array Relay Transceiver for 5G Network Using Vector-Summing Backscatter with 24-GHz Wireless Power and LO Transfer (ベクトル加算型バックスキャッタによる28GHz帯5Gフェーズドアレイ中継無線機)」の講演タイトルで、日本時間6月17日午前8時40分から発表される。

講演セッション :
Session11: Advanced Wireless for 5G
講演ビデオ公開時間 :
日本時間6月1日午後2時
Q&Aセッション :
日本時間6月17日午前8時40分
講演タイトル :
A 28-GHz Phased-Array Relay Transceiver for 5G Network Using Vector-Summing Backscatter with 24-GHz Wireless Power and LO Transfer (ベクトル加算型バックスキャッタによる28GHz帯5Gフェーズドアレイ中継無線機)
会議Webサイト :

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

助教 白根篤史

E-mail : shirane@ee.e.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3764

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

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