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14元素を均一に含む超多元触媒の開発に成功

簡便な方法で作製可能、万能触媒の実現に期待

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公開日:2021.08.25

要点

  • これまで10元素以上で構成される均一な合金は作製が困難だった。
  • 触媒として使用される14元素を均一に含んだ「ナノポーラス超多元触媒」の開発に成功。14元素を含んだアルミ合金を作製し、アルカリ溶液中でアルミを優先的に溶かすという簡便な方法で作製できる。
  • 多元素重畳効果(カクテル効果)により、水の電気分解用電極材として優れた特性を持つことから、今後多方面での応用が期待できる。

概要

JST 戦略的創造研究推進事業において、高知工科大学 環境理工学群のチャイ・ゼシン助教、藤田武志教授、東京工業大学 物質理工学院 材料系の宮内雅浩教授の共同研究グループは、触媒として使用される14元素[用語1]を原子レベルで均一に混ぜ合わせた「ナノポーラス超多元触媒[用語2]」の開発に成功しました。

作製方法は簡便であり、合金から特定の元素を選択的に腐食させて、溶出させる脱合金化[用語3]という方法で達成しました。14元素を含んだアルミ合金を作製し、アルカリ溶液中でアルミを優先的に溶かすだけでナノポーラス超多元触媒を作製することができます。この方法により、孔のサイズが約5ナノメートルの比表面積(物体の単位質量あたりの表面積)の大きいナノポーラス構造ができると同時に、アルカリ溶液に溶けないアルミ以外の元素が集まって凝集し、原子レベルで14元素が均一に分布した固溶体合金[用語4]になることが分かりました。

また、ナノポーラス超多元触媒は、多元素重畳効果(カクテル効果)[用語5]によって水の電気分解用電極材として優れた特性を持つことが分かりました。多種の元素を含有していることから、今後、多能性・万能性のある触媒の実現に向けた展開が期待されます。

本研究成果は、2021年8月20日(英国時間)に国際科学誌「Chemical Science」のオンライン版で公開されました。

研究の背景と経緯

これまで本研究グループでは、反応場に応じて金属間化合物がまるで生き物のようにナノ相分離状に変わって活性していく様子を観察してきました[※1]。そこから、「生命」に匹敵するほどの複雑性(エントロピー)を合金に与えるとiPS細胞のような「多能性(pluripotency)」が発現するのか、という素朴な疑問が生まれてきました。ハイエントロピー合金とは、5種類以上の構成元素がほぼ等しい量で均一に分布している固溶体合金のことを指し、触媒への応用は始まったばかりです。10元素以上で構成されたエントロピーを極限まで増加させたハイエントロピー合金は、反応場に応じて自らの形態を自在に変えて活性化する「多能性・万能性」を備えた触媒になる可能性があります。ただ、10元素以上で構成されたエントロピー合金を作製するのは容易ではありません。なぜなら、水と油のように異なる元素間で混ざりにくい組み合わせが存在するからです。

研究の内容

これまで本研究グループは、ナノポーラス金属の研究に長年取り組んできており、これらの経験から、有機化学合成・ガス反応・電極触媒用途に用いられるほぼすべての遷移金属(Cu、Co、Ni、Fe、Ti、Mo)と貴金属(Au、Ag、Ir、Pt、Pd、Ru、Rh)を含んだ構成元素10以上の超多元ナノポーラス合金ができるのではないかと考えました。そして、適切なアルミ前駆体合金[用語6]急冷リボン材[用語7]を作製し、アルカリ溶液でアルミを脱合金化することで14元ナノポーラス超多元触媒を作ることに成功しました(図1、図2、図3)。コロンブスの卵のような簡便な方法で、超多元触媒を作製できたことは驚くべきことです。合金を溶かすだけなので大量生産が容易であり、多方面での応用が期待できるプラットフォーム材料になっています。

応用例の1つとして、水の電気分解用電極触媒として取り組みました。その結果、高性能な指標材料として知られる白金やイリジウム酸化物よりも優れた性能と使用耐久性を示しました。これは、多元素重畳効果(カクテル効果)によるものだと考えられます。

図1 ナノポーラス超多元触媒の模式図 多様な元素が均一に分布して構成されています。

図1. ナノポーラス超多元触媒の模式図

多様な元素が均一に分布して構成されています。

図2 ナノポーラス超多元触媒の作製方法 アルミ前駆体の急冷リボン材をアルカリ溶液(水酸化ナトリウム溶液)に入れると ナノポーラス超多元触媒ができます。 孔のサイズは約5ナノメートルで比表面積が大きく、表面が活性なため さまざまな用途が期待されます。

図2. ナノポーラス超多元触媒の作製方法

アルミ前駆体の急冷リボン材をアルカリ溶液(水酸化ナトリウム溶液)に入れると ナノポーラス超多元触媒ができます。
孔のサイズは約5ナノメートルで比表面積が大きく、表面が活性なため さまざまな用途が期待されます。

図3 14元素ナノポーラス超多元触媒のX線マッピング像 電子顕微鏡のX線分析機能を使って、各元素の分布を調べた結果です。 均一に元素が分布していることが確認できます。

図3. 14元素ナノポーラス超多元触媒のX線マッピング像

電子顕微鏡のX線分析機能を使って、各元素の分布を調べた結果です。
均一に元素が分布していることが確認できます。

今後の展開

ナノポーラス超多元触媒は、多様な元素で構成されていることから、その多能性を生かした触媒として活用される可能性があります。また、高難度な触媒反応においての活用も期待されます。しかし、元素が多いのでそれぞれの元素の役割について未解明なところが多く、今の理論体系だけでは予測することが困難です。マテリアル・インフォマティクス[用語8]のような情報科学を活用して研究を進め、反応ごとに最適な元素を選択する、といった元素のオーダーメイド化が必要になってきます。本研究によって超多元触媒を簡便に作製することに成功したため、今後さまざまな超多元触媒が作られ応用展開されることが期待されます。

付記

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) 研究領域:「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」
(研究総括:上田渉 神奈川大学 工学部物質生命化学科 教授)
研究課題名:「高効率メタン転換へのナノ相分離触媒の創成」
研究代表者:阿部英樹(物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点 主幹研究員)
研究期間:2015年度~2022年度

JSTはこの領域で、多様な天然炭素資源をバランスよく活用できる将来の産業基盤の確立に向けて、その根幹をなすメタンをはじめとするアルカンガス資源を従来にない形で有用な化成品・エネルギーに変換するための革新的な触媒の創出を推進します。
上記研究課題では、メタンや二酸化炭素などの安価で豊富な炭素資源を熱や光などの異なったエネルギーを利用してアルコールや液体炭化水素などの有用な炭素資源に転換(C1転換)する高機能触媒材料の開発に挑みます。

用語説明

[用語1] 14元素 : アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)

[用語2] ナノポーラス超多元触媒 : ナノサイズの細孔がランダムにつながったスポンジ構造体(ナノサイズの細孔を持つ多孔質構造体)で、10以上の元素が均一に分布している触媒。

[用語3] 脱合金化 : 合金から特定の元素を選択的に腐食させて、溶出させる方法。選択腐食ともいう。

[用語4] 固溶体合金 : 2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相となっているものをいう。

[用語5] 多元素重畳効果(カクテル効果) : 多様な構成原子間の非線形相互作用に起因する特性発現。従来の合金触媒にはない特異で優れた触媒特性を示すことが期待できる。

[用語6] アルミ前駆体合金 : 出発材料となるアルミ合金のこと。 具体的な組成は、Al87Ag1Au1Co1Cu1Fe1Ir1Mo1Ni1Pd1Pt1Rh1Ru1Ti1(モルパーセント)

[用語7] 急冷リボン材 : 高温液体状の金属を回転ロールに吹き付けることで急冷させて作ったリボン状の薄帯。

[用語8] マテリアル・インフォマティクス : 材料科学と情報科学を組み合わせて種々の物性予測を可能にすることで、新材料開発へつなげていくフレームワーク。

論文情報

掲載誌 :
Chemical Science
論文タイトル :
Nanoporous ultra-high-entropy alloys containing fourteen elements for water splitting electrocatalysis
(14元素を含んだナノポーラス超高エントロピー合金の水の電気分解への応用)
著者 :
Ze-Xing Cai, Hiromi Goou, Yoshikazu Ito, Tomoharu Tokunaga, Masahiro Miyauchi, Hideki Abe and Takeshi Fujita
DOI :

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