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2018年の本白根山噴火を引き起こした火山地下の割れ目を発見

地下の熱水につながる開閉する割れ目が水蒸気噴火の原因に

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公開日:2021.08.25

要点

  • 本学・草津白根火山観測所が2018年1月に計測したデータ等の分析により、本白根山の直下に直立した割れ目が存在することを発見
  • この割れ目は、過去にも繰り返し開閉しており、水蒸気噴火の原因となってきたと考えられる
  • 今後の防災対策として、噴火を引き起こす水蒸気の源が存在する深さ2 km前後のモニタリングと、その他の潜在する割れ目の発見が重要

概要

東京工業大学 理学院 火山流体研究センターの寺田暁彦講師、神田径准教授、小川康雄教授は、京都大学、東北大学、北海道大学、気象庁気象研究所と共同で、群馬県西北部に位置する草津白根火山[用語1]の本白根山の地下に、地表へ熱水を運び、水蒸気噴火[用語2]を引き起こす原因となる割れ目を発見した。

本研究では、本白根山で2018年1月に発生した水蒸気噴火の発生時に、本学・草津白根火山観測所が測定したデータなどを解析し、本白根山噴火口直下の深さ約1 km前後を中心とする位置に、ほぼ直立した割れ目があることを確認。地下2 km前後に存在する熱水貯留域の熱水と地表をつなぐこの割れ目が急に開閉したことで、噴火が発生したという結論に至った。

過去にもこの割れ目が開閉していたこともあわせて確認され、本白根山の水蒸気噴火や噴火未遂の原因となってきたと考えられる。今後の防災、火山活動評価にあたっては、噴火を駆動する熱水が存在する地下2 km前後の領域のモニタリングと、ほかにも未確認の割れ目が潜在していないかを調べることが重要となる。

この研究成果は地球惑星科学分野の国際学術誌「Earth, Planets and Space」へ2021年7月30日にオンライン掲載された。

背景

群馬県北西部に位置し、火口湖「湯釜」などの景観で知られる草津白根山は、多彩な高山植物や、草津温泉の温泉水などの恵みをもたらす一方、予測困難とされる水蒸気噴火をたびたび引き起こしてきた(図1)。

東京工業大学は、同火山を水蒸気噴火研究のためのフィールドとし、また、研究成果を通じて火山防災に貢献するために、1985年に草津町内に草津白根火山観測所を設立。以後も観測設備の増強を進め、気象庁へのリアルタイムデータ転送も行いながら観測を継続してきた。2014年の御嶽山噴火を契機に、非常電源や噴石防護板を整備するなどして、草津白根山の噴火に備えてきた。

その結果、2018年1月23日に草津白根火山・本白根山で水蒸気噴火が発生した際、噴石で一帯が停電する中でも、噴火前後の急激な地盤変動を記録し続けることに成功。地殻変動を高精度で観測するボアホール型傾斜計[用語3]から得られたデータなどを用いて、噴火発生時に草津白根火山の内部で起きていた熱水の動きを解析した。その結果、地下の熱水と地表をつなぎ、同噴火を引き起こした割れ目の存在を明らかにした。

草津白根火山

噴火発生時の本白根山。草津観光公社提供

噴火発生時の本白根山。草津観光公社提供

ドローンを用いて撮影した噴火後の本白根山の主火口

図1. (a)草津白根火山。(b)(c)噴火発生時の本白根山。草津観光公社提供。
(d)ドローンを用いて撮影した噴火後の本白根山の主火口。
(Terada et al. (2021) を加筆・修正して作成)

図1. (a)草津白根火山。
(b)(c)噴火発生時の本白根山。草津観光公社提供。
(d)ドローンを用いて撮影した噴火後の本白根山の主火口。
(Terada et al. (2021) を加筆・修正して作成)

研究の手法と成果

1. ボアホール型傾斜計取得データの解析による割れ目の存在と開閉の確認

本学の草津白根火山観測所では、いまだ未解明の部分が多い水蒸気噴火の発生過程の解明に向けて、可能な限り火口に近い地点でデータを取得するため、白根山の活動火口から半径1 km以内に観測装置を集中配置するという独自の観測態勢を敷いてきた。その結果、噴火前後に火山から発せられたシグナルを、噴火口のすぐそばで観測することができた。

本研究では観測データのうち、特に地下浅部の微弱な圧力変化を捉えることが可能なボアホール型傾斜計のデータに着目。噴火発生時に本白根山の山体を急激に膨らませ、その後、緩やかに収縮させる圧力変化が進行していたことが分かった。

2. 山麓データとの比較検討による割れ目位置の解析と水蒸気噴火のメカニズムの検討

さらに本研究グループでは、割れ目の位置や大きさを解析すべく、国立研究開発法人防災科学技術研究所が山麓に保有する観測点のデータと本学が測定した山頂域のデータを併せて解析。本白根山噴火口直下の深さ1 km前後を中心とする位置にほぼ直立した割れ目が存在し、それが噴火前後で開閉していたことを明らかにした。

 近年、草津白根火山の地下構造が明らかになりつつあり、水蒸気噴火に関与する熱水は、深さ2 km前後に存在すると考えられている(Matsunaga et al., 2020[参考文献1])。今回見つかった割れ目は、この熱水と地表とをつなぐ場所に位置しており、縦方向の割れ目が開くことで地下の熱水が地表付近へと運ばれ、減圧・気化することで2018年の本白根山の水蒸気噴火を引き起こしたと推測できる(図2)。

図2 草津白根火山における水蒸気噴火に関係する構造(Terada et al. (2021) を加筆・修正して作成) 赤で表示された、深さ1 km前後の地点に存在する割れ目を介して、深さ2 km前後の地点にある熱水貯留域に由来する熱水が地表へ向かい、減圧して大量の蒸気が発生することで水蒸気噴火が発生したと考えられる。

図2. 草津白根火山における水蒸気噴火に関係する構造(Terada et al. (2021) を加筆・修正して作成)

赤で表示された、深さ1 km前後の地点に存在する割れ目を介して、深さ2 km前後の地点にある熱水貯留域に由来する熱水が地表へ向かい、減圧して大量の蒸気が発生することで水蒸気噴火が発生したと考えられる。

3. 過去データや既存の火山火口列の検討

さらに過去のデータを再検討した結果、2011年5月にも、この割れ目の開閉が起きていたことも明らかになった。この時、噴火は発生せず、熱水が上昇してきたにも関わらず噴火に至らない、いわば「噴火未遂」が起きていたと考えられる。

本白根山では、過去に活動した小火口列が複数確認されている(石﨑・他, 2020[参考文献2])。こうした過去の小火口列の配列を確認したところ、今回の噴火時に開閉した割れ目の方向に一致していることが確認できた。このことから、今回発見した本白根山直下の深さ1 km前後にある割れ目は以前から存在し、それが開閉することで熱水が上昇し、ときに噴火に至るといった活動が繰り返されてきたという結論が導かれた。

今後の展開

本研究では、主に本学および他機関が設置した傾斜計データを中心に解析することで、本白根山における水蒸気噴火の発生過程を既存の割れ目の開閉で説明した。今後は、地下の熱水貯留域のモニタリングや、他にも割れ目が潜在していないかを探り当てる研究を進めることにより、火山災害低減へのさらなる貢献を目指していく。

付記

本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業 特別研究促進費「2018年草津白根火山噴火に関する総合調査」(17K20141)の支援を受けて実施された。

用語説明

[用語1] 草津白根火山 : 群馬県の北西端に位置する活火山で、山腹に草津・万座などの温泉郷を擁する。北側の白根山(標高2,160 m)、南側にある本白根山(標高2,171 m)とあわせて草津白根山と呼称されることが多い。

[用語2] 水蒸気噴火 : 火山噴火の一種で、マグマ等の熱により加熱された地下水の圧力が上昇し、地表から水蒸気や熱水が爆発的に噴きだすことで噴石や火山灰を飛散させる現象。水蒸気爆発。

[用語3] ボアホール型傾斜計 : 地盤の傾斜を極めて精密に測定する装置。1 km先が0.01 mm上下しただけでも検出が可能。本学は草津白根火山の火口近傍の地下100~200 mに3台を設置するなど、充実した傾斜観測網を構築してきた。

参考文献

[1] Matsunaga et al. (2020), https://doi.org/10.1016/j.jvolgeores.2019.106742

[2] 石﨑・他(2020), https://doi.org/10.5575/geosoc.2020.0022

論文情報

掲載誌 :
Earth, Planets and Space
論文タイトル :
The 2018 phreatic eruption at Mt. Motoshirane of Kusatsu–Shirane volcano, Japan: eruption and intrusion of hydrothermal fluid observed by a borehole tiltmeter network
著者 :
寺田暁彦、神田 径、小川康雄(東京工業大学)、山田大志(京都大学)、 山本 希(東北大学)、大倉敬宏(京都大学)、青山 裕(北海道大学)、 筒井智樹(京都大学)、鬼澤真也(気象庁気象研究所)
DOI :

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Tel : 03-5734-2515 / Fax : 03-5734-2492

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講師 寺田暁彦

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