研究

東工大ニュース

ナノスケールにおける有機分子の熱伝導特性の可視化に成功

光・電子デバイス等の高寿命化・高機能化への寄与に期待

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公開日:2021.11.19

要点

  • 有機分子の熱伝導特性を非破壊的かつ高精度で可視化する新規手法を開発
  • 熱伝導特性が分子構造に依存することを実証し、熱伝導の本質的な理解を促進
  • 電子機器開発等において求められる熱マネージメント制御技術の発展に期待

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井慎太郎特任准教授、西野智昭准教授、科学技術創成研究院の庄子良晃准教授、福島孝典教授らのグループは、有機分子薄膜のナノスケール領域での熱伝導特性(熱の伝わりやすさ)を走査型サーマル顕微鏡(Scanning Thermal Microscopy(SThM))[用語1]によって可視化して、画像として示すことに世界で初めて成功した。

今回開発されたイメージング手法によって、分子スケールの熱伝導特性が分子の構造や長さに依存することが実証され、ナノスケールでの熱輸送現象の理解が促進されると考えられる。また、既存の表面構造・温度測定手法では、試料と測定部が接触することから損傷が起きやすかったが、本研究で見出された新規手法は非接触で、試料を傷つけることなく高分解能の温度分布測定が可能である。

本研究成果により、微小な電子デバイスの高性能化や熱電エネルギー変換の効率化につながる、高度な熱マネージメント[用語2]技術開発が加速することが期待できる。

本研究成果は2021年10月29日、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載された。

背景

「ナノスケールの領域において、熱はどのように伝わるのか?」という問いは、学術的な観点に加え、さまざまな産業における熱マネージメントの観点においても極めて重要な意味を持ちつつある。例えば、光・電子デバイスは半導体回路において必ず発熱が生じ、動作不安定化にもつながる過剰な発熱は避けるべき大敵である。発生した熱を素早く放熱させられる基板の素材開発や設計が常に求められてきたが、デバイスの大きさがナノメートルサイズ(1ナノメートルは1センチメートルの1,000万分の1の長さ)になったことで、熱の発生や移動の挙動もナノスケールで理解する必要性が高まっている。また、発熱を電気に変換する熱電エネルギー変換技術の開発においては、わずかな熱エネルギーをも効率的に回収・集約して電気エネルギーに変えていくことや、微小な空間での温度差も有効に発電に活用する技術などが重要となる。

上記の技術開発を進めていく上では、ナノメートルサイズでの熱の流れをも把握し、適切にコントロールすることが不可欠と言える。

熱マネージメントの重要性が高まる一方で、熱エネルギーがどのように発生し、蓄積され、どの程度の速度でどこに移動し、変換されているのか、といった熱動態の理解については研究の余地が多く残されている。特に有機分子に関しては、微小空間での温度測定手法が確立されておらず、単分子、単分子膜、薄膜などのナノスケールにおける熱伝導特性を解明するための研究は未開拓の領域であった。

研究成果

本研究では、有機分子が形成する自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer(SAM))[用語3]を用いて微小な縞状の表面パターン構造を作製し、その熱伝導特性を走査型サーマル顕微鏡(SThM)により可視化することを試みた。図1に示す通り、構成する官能基や分子鎖長の異なる有機分子を2種類組み合わせた膜を、計3パターン作製して実験を行った。

図1 縞状にパターン化された2成分単分子膜の構造模式図、ならびに接触および非接触モードによるSThM測定イメージ図

図1. 縞状にパターン化された2成分単分子膜の構造模式図、ならびに接触および非接触モードによるSThM測定イメージ図

従来法では、熱源であるSThMの探針を測定対象(単分子膜)に接触させながら、膜の温度変化について場所ごとに測定する。この方法で測定した結果、熱伝導性が膜の構成分子の化学構造に依存することを実証したが、2つの膜については明瞭な測定結果を得ることができなかった(図2上)。興味深いことに、計測手法を工夫し、熱源を単分子膜から数百ナノメートルの距離を隔ててSThM測定を行うと、単分子膜の表面パターンが接触条件よりも高解像度で可視化できることを見出した(図2下)。すなわち、熱伝導特性が異なる分子がどのように分布しているのかを、より高精度に判断することが可能となった。これは、本研究によって世界で初めて得られた知見である。非接触イメージングを可能とした要因としては、熱源から試料表面への輻射による熱輸送が、単分子膜を構成する分子の長さに依存して変化することが挙げられる。

また、表面構造を調べるために用いられる原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy(AFM))[用語4]では、探針を試料表面に接触させて荷重を加えるため、試料表面の変形や破壊により、試料表面のイメージにその影響が現れる。しかし、今回見出された非接触条件のイメージングは非破壊的かつ高分解能で試料表面の温度分布を可視化できるため、熱マネージメント材料を対象としたナノスケールイメージング技術のイノベーションに大きく貢献できる成果である。

図2 接触モードおよび非接触モードで得られた単分子膜の表面パターンの画像

図2. 接触モードおよび非接触モードで得られた単分子膜の表面パターンの画像

今後の展開

特に電子機器における熱マネージメントの問題は、微細化されたデバイスやそれを用いた機器の高性能化の障壁となっている。この問題を解決するためは、ナノスケールの伝熱特性を本質的に理解し、それに基づき材料、ならびに表面の化学的・物理的性質を設計することが不可欠である。本研究で開発したナノスケールにおける熱伝導特性のイメージング技術は、これまで未開拓であったナノスケールにおける熱の振る舞いの本質的な理解とともに、デバイスの高機能化・高性能化を可能にする熱マネージメント材料の開発につながると期待できる。

付記

本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「ナノスケール・サーマルマネージメント基盤技術の創出」(研究総括:丸山茂夫 東京大学 教授)
研究課題名:「分子ダイナミクスを利用した熱マネージメント」
研究代表者:福島孝典 東京工業大学 教授

用語説明

[用語1] 走査型サーマル顕微鏡(Scanning Thermal Microscopy(SThM)) : 微小な温度センサを内蔵した鋭い探針で基板をなぞることで、表面の温度をナノスケールで計測することができる顕微鏡。

[用語2] 熱マネージメント : 電子機器において熱は必ず発生する。このため、発熱量の大きな部品を使用する機器では適切な熱設計を行わないと機器の誤作動により信頼性が低下し、機器の寿命が短くなる。この問題を解決するためには、発熱を適切に管理する必要がある。

[用語3] 自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer(SAM)) : 有機分子が金属等の表面に1分子ずつ吸着することで自発的に形成される、極めて薄い膜。

[用語4] 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy(AFM)) : カンチレバー(片持ち梁)の先端に取り付けた鋭い探針を用いて、試料表面をなぞり、その時のカンチレバーの上下方向への変位を記録することにより、試料表面の凹凸形状の計測することができる顕微鏡。カンチレバーの先端に温度センサを取りつけた走査型サーマル顕微鏡は原子間力顕微鏡の一種である。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Visualization of Thermal Transport Properties of Self-Assembled Monolayers on Au(111) by Contact and Noncontact Scanning Thermal Microscopy
著者 :
Shintaro Fujii, Yoshiaki Shoji, Takanori Fukushima, and Tomoaki Nishino
DOI :

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