東工大ニュース
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東京工業大学は、長岡技術科学大学、リオデジャネイロ国立大学と共に、一般社団法人電気学会の第15回電気技術顕彰「でんきの礎(いしずえ)」を受賞しました。顕彰名称は「三相回路の瞬時無効電力理論とその波及」です。
「でんきの礎」は、技術史的価値、社会的価値、学術的・教育的価値のいずれかを有する、略25年以上経過した電気技術の業績を顕彰するものです。この顕彰制度は、社会生活に大きく貢献した電気技術の功績を称え、その価値を広く世の中に周知して多くの人々に電気技術の素晴らしさ、面白さを知ってもらい、今後の電気技術の発展に寄与することを目的に、2008年に電気学会創立120周年記念事業の一環として創設されました。
授与式は3月22日にオンラインで行われました。東工大からは赤木泰文名誉教授(現・イノベーション人材養成機構特任教授)が出席し、ほか2件と共に顕彰されました。
「三相回路の瞬時無効電力理論とその波及」に至る道のりは、1983年3月に開催された電気学会主催の国際会議において、当時長岡技術科学大学の講師であった赤木名誉教授が「三相回路の瞬時無効電力の一般化理論」と題する論文を発表したことに始まります。さらに赤木名誉教授は、この理論を適用し、従来の無効電力理論では実現不可能な運転特性を世界で初めて実証しました。
これらの研究成果は、電気学会論文誌(1983年7月号)や米国電気電子学会(IEEE)の論文誌(1984年7月号)に掲載され、現在では世界の関連の研究者・技術者からは「pq理論」と呼ばれています。
2007年に、赤木名誉教授、ブラジル・リオデジャネイロ国立大学のエドソン・ヒロカズ・ワタナベ(Edson Hirokazu Watanabe)教授(当時)、マウリシオ・アレデス(Mauricio Aredes)准教授(当時)が英文専門書を共同執筆し、pq理論の波及と応用に貢献しました。
現在では、pq理論は国内外の半導体電力変換装置の設計や制御に利用されています。一例として、世界最大容量の自励式静止形無効電力補償装置が中部電力の長野県東信変電所に使用されていることがあげられます。この装置は、2012年11月に運用を開始し、長距離大電力の安定した送電の実現に重要な役割を果たしています。
本学に関する技術が「でんきの礎」を受賞するのは、2011年の「加藤與五郎、武井武によるフェライトの発明と齋藤憲三による事業化」、同じく2011年の「古賀逸策と水晶振動子」に続いて、今回が3件目となります。
学術賞や学会賞などは個人を表彰しますが、「でんきの礎」は技術を顕彰します。このため、顕彰名称や顕彰理由に個人名を記載しません。例外は関係者が故人の場合です。創設から15年が経過しましたが、今回初めて海外の研究機関が顕彰先に認定されました。pq理論は長岡技術科学大学で誕生し、その波及と応用に貢献した東京工業大学とリオデジャネイロ国立大学も顕彰先に認定されたことは、大変に嬉しく思います。
pq理論は、私の東京工業大学在学中の研究と長岡技術科学大学に赴任して開始した研究が有機的に結合して誕生しました。定式化から瞬時無効電力の物理的意味の数式証明までに3ヵ月要しました。その期間、悪戦苦闘していたのではなく、講義や学生の研究指導に相当の時間を費やしていましたので、時間のある時に物理的意味の解明に取り組んでいました。数式証明が完成し、もやもやした気分が一気に解消した日のことは今でもはっきり覚えています。翌日からは理論の応用実験の準備に取り掛かりました。そして6ヵ月後に世界初の実験波形が取得でき、pq理論の妥当性・有用性を実証できました。これらは、その後の研究を行う上での大きな自信となりました。