東工大ニュース
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公開日:2022.03.10
東京工業大学 生命理工学院 太田啓之教授を研究開発課題リーダーとする研究グループ※が、科学技術振興機構(JST)より、産学共創拠点「Bio-Digital Transformation(以下バイオDX)で持続可能な発展を導くバイオエコノミー社会を実現」(プロジェクトリーダー:広島大学 ゲノム編集イノベーションセンター長 山本卓教授)の参画機関として共創の場形成支援プログラム(共創分野)に採択されました。この採択により、東京工業大学は同じ参画機関の三菱化工機株式会社から場所の提供を受け、同社川崎製作所敷地内に微細藻の屋外培養装置を設置し、プロジェクトメンバーと共に10年間という長期にわたり、屋外培養時の微細藻の状態や生産物の蓄積に関わるビッグデータを取得して培養の至適化、有用物質生産の最適化を進める藻類培養DXに取り組むこととなりました。またそれと並行し本研究グループでは、これまで進めてきたゲノム編集による微細藻の高機能化をさらに深化する研究開発を推進します。
〔研究開発課題リーダー〕太田啓之(東京工業大学 生命理工学院 教授)
〔参画大学〕広島大学(バイオDX産学共創拠点代表機関)、東北大学、埼玉大学、徳島大学
〔参画企業〕三菱化工機株式会社、マツダ株式会社、株式会社島津製作所、日本フイルター株式会社、浜松ホトニクス株式会社、株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズ
〔参画自治体〕川崎市
コロナ禍の進行、食料確保の困難化、医薬品需要の増加、環境問題の深刻化など社会問題がより顕在化する中で、SDGsにおいて持続的成長と社会課題の解決が急務となる一方で、バイオエコノミー産業は、2030年までにOECD加盟国の全GDPの2.7%(約180兆円)の巨大市場へと成長が見込まれており、その対象は、医薬品・ヘルスケア、食料・農林水産、材料、環境・エネルギー等、多様な産業基盤に変化をもたらすことが予測されています。ウィズ/ポスト・コロナ社会の中で、SDGs達成に貢献する地域イノベーション・エコシステムを構築するには、生物のポテンシャルを最大限引き出し、今まで実現できなかった生物機能を付与する『バイオDX』の発想が重要となっています。
そこで東京工業大学をはじめとする本研究グループは、広島大学を中心とした『バイオDX』産学共創拠点を構築し、SDGsに基づくあるべき将来像の構想として、下記3つのターゲット(図1参照)を設定しました。
上記ターゲットの推進のため、本プロジェクト全体では4つの課題が設定されました。この内、ターゲット3を主な目標とする課題4「微細藻類および植物による有用物質生産プラットフォームの開発」では、東京工業大学が統括機関(バイオDXサブ拠点)を務め、本研究グループによる産・学・官で取り組みます。
本研究グループが取り組む課題4では、これまで東京工業大学、広島大学、マツダが共同で取り組んできた油脂高生産藻ナンノクロロプシスのゲノム編集による高機能化の研究を、昨年設立された東工大発ベンチャーであるファイトリピッド・テクノロジーズや埼玉大学の加入によりさらに発展させ、ナンノクロロプシスに高含有するエイコサペンタエン酸(EPA)やバイオ燃料生産に適した油脂の高生産化を推進します。さらに東京工業大学が中核となって、三菱化工機の敷地内に油脂高生産藻の大量培養試験のための屋外培養装置を新たに設置します。三菱化工機はすでに藻類の培養などに用いることが可能なフォトバイオリアクターを制作していますが、本研究グループはこれを今回のターゲットとする有用藻類にも用いることができるよう至適化するとともに、さらに大型の培養装置の設置も行う予定です。これらの屋外培養装置に浜松ホトニクスの藻類培養モニタリング技術を応用し、屋外培養時の藻の光合成活性などを培養時にリアルタイムで評価するとともに、油脂の蓄積なども培養時に簡便に評価できるシステムの構築について研究開発を進めます。これまで、藻類などに含まれる油脂やEPAなどの有用脂質を一度に正確に把握するには、薄層クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどを用いた煩雑な分析を行う必要がありましたが、島津製作所、ファイトリピッド・テクノロジーズとともに、より簡便に定量的、網羅的に解析する手法の確立に取り組みます。さらに本産学共創拠点、バイオDXの全体目標に合わせ、これらの藻の屋外培養時に得られる大規模情報(ビッグデータ)を東北大学や東京工業大学が中心となって遺伝子発現情報などと統合し、藻類に蓄積する有用物質の生産を把握し培養時の有用物質生産の最適化を行うためのシステム作りを進める予定です。また大規模な屋外培養には屋内で培養した高品質な種藻の提供も重要であり、日本フイルターが種藻の提供を担当します。
三菱化工機の敷地内には同社製の水素製造装置が設置されており、都市ガスを原料として水素を生産することができます。都市ガスの主原料であるメタン(CH4)は水素原子を多く含むために水素生産の原料として適していますが、副産物として二酸化炭素も発生します。課題4ではこの二酸化炭素を微細藻の屋外培養装置に取り込むことで藻の培養の効率を高め、メタンの有効利用を図る計画としています。同時に、徳島大学が開発した国産のゲノム編集技術TiDをナンノクロロプシスにも用いることができるよう、東京工業大学との共同研究で開発を進めます。また、埼玉大学が培養時の微細藻の光合成機能の詳細な評価や光合成能の最適化を担当し、得られた藻由来のEPAや油脂などの有用成分はマツダやファイトリピッド・テクノロジーズが機能を評価して活用を検討する予定です。
今回の研究グループの参画機関のマッチングには、東京工業大学と包括的連携協定を結んでいる川崎市が大きな役割を果たしました。川崎市は今後も更なる連携機関の発掘などで本プロジェクトに協力する予定です。
お問い合わせ先
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
教授 太田啓之
E-mail : ohta.h.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5726
取材申し込み先
東京工業大学 総務部 広報課
E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661