東工大ニュース
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公開日:2022.04.25
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の古田忠臣助教、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の上田宏教授は株式会社島津製作所と共同で、世界最小サイズの発光酵素[用語1]「picALuc®」を開発した。
創薬スクリーニング・検査・診断のために用いられるレポータータンパク質[用語2]としての発光酵素には、明るさや熱安定性等の高さに加えて、サイズの小ささが求められる。そこで本研究では、カイアシ類由来発光酵素ALuc®(21 kDa)の発光活性を維持したまま、分子量が13 kDaになるまで小型化することにより、新規発光酵素picALuc®を開発した。これはこれまでに開発されている実用レベルの発光酵素の中で最小のサイズである。またpicALuc®は、高い発光活性をもつ発光酵素NanoLuc®と同等の発光値と熱安定性を示した。さらに、picALuc®を分子間相互作用検出のための汎用法である生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)ベースアッセイ[用語3]に用いたところ、NanoLuc®よりも高い応答が観察された。picALuc®は今後、ライフサイエンス分野から創薬スクリーニング・診断・検査までの幅広い分野において、有用なツールとなることが期待される。
本研究成果は2022年3月16日、「ACS Chemical Biology」にオンライン掲載された。
現在、レポータータンパク質(図1)としてさまざまな発光酵素が利用されている。レポータータンパク質としての発光酵素には、明るさや熱安定性等の高さに加えて、サイズの小ささが求められる。その理由としては、発光酵素のサイズが大きいと、標的の挙動を阻害する可能性があることが挙げられる。またもう1つの理由として、標的と発光酵素との融合タンパク質を作製した時に、発光酵素が大きいと正しい構造の融合タンパク質が生成しにくいことがある(図2)。
東京工業大学の研究グループと株式会社島津製作所は、カイアシ類由来発光酵素ALuc®(21 kDa)の発光活性を維持したまま、分子量が13 kDaになるまでALucを削ることにより、新規発光酵素picALuc®を開発した(図3)。13 kDaというサイズは、これまでに開発されている実用レベルの発光酵素の中で最小のサイズである(図4)。
開発したpicALuc®を、哺乳類由来培養細胞であるCos-7細胞[用語4]に発現させた時の発光値を調べたところ、既存の発光酵素の中でも高い発光活性をもつALuc®やトゲオキヒオドシエビ由来NanoLuc®と同等の発光値を示した(図5)。さらに、大腸菌を利用してpicALuc®を大量作製することにも成功した。
次にpicALuc®の安定性を検討した。熱安定性については、レポータータンパク質として汎用的に利用されているホタル由来FLucを60℃で5分間インキュベーション[用語5]すると全く光らなくなるのに対し、picALuc®は80℃で10分間インキュベーションしても、80%以上の発光値を示した(図6)。さらに37℃で24時間インキュベーションした後も、ほぼ100%の発光活性を維持していた。一方、pH条件に対する安定性については、塩基性条件(pH 9.5)において、中性条件(pH 7.0)の80%以上に相当する発光値が測定された(図7)。picALuc®を分子間相互作用検出のための汎用法である生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)ベースアッセイに用いたところ、NanoLuc®(19 kDa)よりも高い応答が観察された。このことから、picALuc®のレポータータンパク質としての優位性が示されたと言える。
本研究で開発したpicALuc®は、ライフサイエンス分野から創薬スクリーニング・診断・検査までの幅広い分野において、有用なツールとなることが期待される。研究チームでは、picALuc®を利用した創薬スクリーニング系や診断薬、検査薬の開発を目指して、今後もpicALuc®の機能向上と用途拡大に向けた研究開発を進めていく予定である。なお、picALuc®の用途拡大を実現するためには、幅広い分野の多くの研究者による試用が必要となることから、近日、株式会社島津製作所より試供品が国内の研究者・研究機関に提供される予定である。
用語説明
[用語1] 発光酵素 : 生物の発光現象を触媒する酵素。ホタルの発光がよく知られている。発光基質としては、発光酵素に応じてルシフェリンやセレンテラジンなどがよく用いられる。
[用語2] レポータータンパク質 : 標的タンパク質の探索・解析や、創薬スクリーニング・検査・診断のための指標として使用されるタンパク質。
[用語3] 生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)ベースアッセイ : 発光酵素と蛍光分子(タンパク質や色素)を融合することで生じる生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)に基づく、様々な分子間相互作用を検出・測定できる方法。
[用語4] Cos-7細胞 : アフリカミドリザルの腎臓由来の細胞。効率の良さから遺伝子導入によく用いられる。
[用語5] インキュベーション : 細胞や個体などを培養、保温、孵化すること。ここでは、温度を一定に保つ熱処理のことを意味する。
論文情報
掲載誌 : |
ACS Chemical Biology |
論文タイトル : |
Miniaturization of Bright Light-Emitting Luciferase ALuc: picALuc |
著者 : |
Yuki Ohmuro-Matsuyama, Tadaomi Furuta, Hayato Matsui, Masaki Kanai, and Hiroshi Ueda |
DOI : |
お問い合わせ先
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 助教
古田忠臣
E-mail : furuta@bio.titech.ac.jp
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取材申し込み先
東京工業大学 総務部 広報課
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